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2010_WM(29)・・内容と結果の一致レベルが高かったグレイト・ファイナル・・(スペイン対オランダ、1-0)・・(2010年7月11日、日曜日)

素晴らしくエキサイティングな仕掛け合いだった。まさに、グレイト・ファイナル・・

 決して、いままでの決勝戦にありがちだった、なるべく失点をしないという安全第一コンセプトのもとに、まずディフェンスを安定させる「我慢比べ」なんていうシロモノじゃなかった。互いに、前からボールを奪いにいったし、しっかりと人数を掛けて仕掛けつづけた。だからこそ、「グレイト・ファイナル」と呼ぶに相応しいガチンコ勝負になった。

 両チームとも、一体いくつ、ビッグチャンスを作り出しただろうか。

 たしかに前半は、立ち上がりにセルヒオ・ラモスがブチかましたヘディングシュートが、まあ唯一のビッグチャンスだったけれど、後半は、ゲーム展開がどんどんエキサイティングに「成長」していった。

 ボールの支配では、テクニックで上回るスペインに一日以上の長がある。だから、ドミネーション(ゲーム支配傾向)はスペインに傾いている。ただ、オランダにしても、決して下がって守備を固めるなんていう受け身の姿勢ではなく、あくまでも、中盤から積極的に「ボールを奪いに」いった。だからこそ、互いにチャンスメイクの応酬という展開になった。

 まあ・・とはいっても、セットプレー以外のチャンスメイクの「傾向」には、やはり違いがある。スペインが、しっかりとボールを動かしながら、あくまでも組み立ての流れのなかから、コンビネーションやドリブル勝負などで決定的スペースを攻略していこうとするのに対し、ボールを支配されているオランダは、やはり一発カウンターというイメージり方が強い。そう、天才チャンスメイカーのスナイデルと、超速のロッベン・・

 後半17分、一瞬のスキを突いてスナイデルがタテへスルーパスを送り込み、超速ロッベンがフリーで抜け出した。そして、スペインGKカシージャスと「1対1」になった。ただ、最後の瞬間、左へ飛びながら、逆サイドに右足を「残した」カシージャスの「ヒラメキ」セービングがスペインを救う。その「伸ばしきった右足」に、ロッベンのシュートが弾かれたのですよ。まさに、カシージャスの天才が眩(まばゆ)いばかりの光を放った瞬間でした。

 それは、誰もが100%ゴールを確信した「初めての決定機」だったですかネ。前半立ち上がりのセルヒオ・ラモスのヘディングシュートは、まあ、GKに取っては、イージーなセービングだったからね。

 そんな「ホンモノの決定的シーン」という強烈な刺激が、今度はスペインの闘う意志を「より」活性化するのですよ。その大ピンチは、まさにゴール(失点)に匹敵する「鳥肌が立つようなショッキング現象」だったということです。そして今度はスペインが、ペドロに代わったセビージャのドリブラー、ナバス演出によるビッグチャンスを作り出すのです。

 右サイドを切り裂くナバスのドリブル。そこから、ゴールラインに平行に送り込まれた「トラバースパス」を、オランダ守備の重鎮ヘイティンガがうまく処理できず、コロコロと、逆サイドでまったくフリーになっていたビジャの目の前に転がっていった。結局ビジャのシュートは、ヘイティンガが伸ばした足に当たって弾かれてしまったけれど、これもまた、誰もがゴールを確信するという「強烈な刺激」の瞬間だった。後半26分のことです。

 その後にも、またまたロッベンの「超速」が存在感を発揮した決定的シーンが一つ。それは、スナイデルのスリップヘッドでタテに流されたパスに最初に追い付いたロッベンが、これまたフリーで抜け出したシーン(スペイン守備の重鎮プジョルを完璧に追い抜いていった!)。ここでもまた、スペイン守護神の天才が光り輝く。スペインゴールを飛び出したカシージャスが、スパッと飛び込み、ロッベンが支配するボールを奪い取ったのです。素晴らしい・・

 そして後半33分。今度はスペインが、これまた、誰もが「確信」するチャンスを迎える。またまた、セルヒオ・ラモス。彼が、コーナーキックから、まったくフリーで(ゴール前5-6メートルから!!)ヘディングシュートを放ったのですよ。でも、バーを大きくはずれてしまう。フ〜〜・・

 そして突入した延長。そこでも、エキサイティングな激闘ドラマが繰り広げられた。もう、ホント、堪(こた)えられないね。

 延長前半4分・・イニエスタのスルーパスに、セスク・ファブレガスがフリーで抜け出す・・オランダGKと1対1・・またまた、誰もがゴールを確信した・・でも最後の瞬間、オランダGKが伸ばした足に、セスクが放ったシュートが弾かれてしまう・・フ〜〜・・

 直後の延長前半5分・・今度はオランダが、コーナーキックから決定的なヘディングシュートをブチかませば、今度はスペインのイニエスタがフリーで決定的スペースへ抜け出す・・といった具合。イニエスタのチャンスは、最後のところでファン・ブロンクホルストに抑えられてしまったけれど・・フ〜〜・・

 その後は、一進一退。もちろんスペインのドミネーション(ゲーム支配傾向)の方が強いけれど、オランダも、より積極的に前から勝負するようになっている。そしてゲームが、もの凄くエキサイティングなせめぎ合いへと再び活性化していくのです。本当にエキサイティングなグレイト・ファイナル・・

 でもネ・・「ノーガードの打ち合い」ってな低次元の仕掛け合いではない。あくまでも、両チームの持ち味をとことん表現し尽くすような、コントロールされた仕掛け合い。もちろん、グラウンド上の現象(攻守のプレー)は、両チームそれぞれに、微妙にニュアンスの違いがあるけれど・・

 それでも、延長前半の立ち上がりようなチャンスメイクの応酬という展開ではなく、互いにフリーキックチャンスを得た程度で、ゲーム展開が、どんどんと「ダイナミックな均衡」状態へと入っていくのですよ。そんなゲーム展開も、とても興味深い・・

 そして、誰もが「PK合戦」になることを確信しはじめた延長後半11分。コトが起きるのです。

 キッカケは、またまたナバスのドリブル。彼が交替出場したときは、オランダも彼のドリブルを無警戒だったから、手痛く切り崩されるシーンがつづいた。でも、そこは、さすがにオランダが誇る世界の強者ディフェンス。すぐにナバスのスピードとドリブルの「タイプ」に順応し、簡単には突破させないように、彼の才能を抑制してしまうのです。でも「そのとき」だけは、流れのなかで、一瞬、アタックとカバーリングのバランスが崩れ、ナバスのドリブルに「行かれて」しまった。

 そして、そこからイニエスタ、フェルナンド・トーレスが絡み、最後は、セスク・ファブレガスから、タテへ抜け出すイニエスタに、ピタリとスルーパスが通された。

 そのシーンでのイニエスタ。完璧にフリー。相手ディフェンダーは、完全に遅れているからタイミング的な余裕もある。そのときの彼は、極限の緊張状態にあったに違いないけれど・・。

 イニエスタは、落ち着いて、一度ボールを弾ませ、その落ち際を、必死のスライディングを仕掛けてくるオランダディフェンダーが伸ばし切る足をかいくぐるかのようにシュートを飛ばした。それも、オランダGKの「肩口」を抜けていく強烈なシュート。

 わたしは、そのシーンに、日本でよく話題になる「決定力」の本質的なエッセンスを見ていた。そう、めくるめく成功(歓喜)と奈落の失敗(落胆)という「極限の体感」を、数限りなく積み重ねた強者だけが持つ、極限の「確信」。

 ホンモノの場数こそがキーワード。もちろん、強い相手との実戦のなかで積み重ねる体感がベストではあるけれど、そうではなくても、工夫次第によっては、トレーニングでも、極限の緊張感を演出できる。そう・・優れた監督のストロングハンド。

 そこでは、怒りとか憎しみという人間心理のダークサイドまでをも強烈に刺激する極限の心理マネージメント能力が問われる。それが、監督のストロングハンド・・

 わたしは、たしかに以前から比べればパフォーマンスが下降気味だし、ボールを支配することが、うまくチャンスメイクにつながっていかないといった問題点はあるものの、やはり、総合的なサッカー内容ではスペインに軍配が上がると思っています。だから、内容と結果の一致レベルが高かったという意味合いでも、世界サッカーに与えるポジティブな影響という意味合いでも、今大会でのスペインの初優勝を、良かったと思っているわけです。

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 さて、いまはもう午前2時半。明日は、お昼頃のフライトで帰途につきます。いろいろと依頼されている原稿もあるし、時差調整もあるから、コラム復帰は、まあ、一週間後あたりですかネ。

 とにかく、何事もなく、一ヶ月の南アワールドカップをとことん楽しめたことを、(わたしはスーパーパワーと呼ぶのですが・・)その神様に感謝する次第なのです。

 今回の南アワールドカップは、大成功裏に無事閉幕しました。本当に、南アで開催して良かったと、今では、思っています。そして、ここに来る前の重苦しい気持ちは何だったのかと・・ちょっと考えをめぐらせています。まあ、また機会があったら、変化こそ常態(諸行無常)というテーマで、コラムを一つアップしましょうかネ。

 それでは皆さん、一ヶ月の間、お疲れ様でした。今後とも、よろしくお願いします。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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