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「The 対談」シリーズ_第18回目(その2)・・ブラジル在住26年のサッカージャーナリスト、沢田啓明さんとの対談(その2)・・(2013年7月3日、水曜日)

昨日アップした沢田啓明さんとの対談の続編です。

 まあ、対談とはいっても、基本的には私が「聞き役」になり、沢田啓明さんが、ブラジルのサッカー事情を説明したという構図でしたね。もちろん聞きたい内容は、事前に用意しておきましたよ。

 「今日のフェリポン(スコラーリ)は、最高に機嫌が良かったですよね・・でも、大会前は、記者との激しいやり取りもあったんですよ・・」

 沢田啓明さんが、優勝を果たしたスコラーリ監督の会見の後、そんなことを言っていたんですよ。だから聞いた。「そのやり取りって、どのようなコトだったんですか?」

 「それについては、背景から説明する必要があるかもしれません・・」

 「要は、スコラーリとパレイラのコンビが就任したときの経緯(いきさつ)なんですが・・彼が就任したのは、昨年の11月29日・・その前任者が、マノ・メネーゼス・・要は、昨年10月にポーランドで日本代表に大勝したときのブラジル代表監督ですよね・・」

 「その監督交代劇は、ブラジル国内では、そのメネーゼスの仕事に対する評価が徐々にアップしてきたタイミングだったんですよ・・」

 「メネーゼスは、ブラジル協会の前会長が抜擢した監督でした・・でも、会長がマリンに変わったんです・・そしてマリンは、前会長の色を一掃したかった・・」

 「もちろん、メネーゼスが、ロンドンオリンピックで金メダルを取っていたら、そのままブラジルフル代表の監督に残ったとは思いますが、でも結局は決勝で メキシコにやられてしまった・・マリン新会長に、解任する理由ができたっちゅうわけです・・それでも、オリンピックでの銀メダルですからね・・周りでは、 それを理由に解任することに疑問を投げかける意見が多かったんです」

 「でも結局マリン会長は、メネーゼスを解任した・・そして後任のスコラーリは、パートナーとして、親友のパレイラを招聘したんですよ・・」

 「スコラーリとパレイラ・・湯浅さんもご存じのように、ワールドカップ優勝監督のコンビですよね・・アメリカワールドカップと日韓ワールドカップ・・そ れは、それで強烈なアピール性はありますよ・・でも、この両監督ともに、ブラジルの国民が望むようなサッカーをやるのかといったら、疑問符がつくんです よ・・」

 「沢田さんが言われているのは、本来のブラジルらしく、美しく勝つというニュアンスですね!?」

 「そうです・・そうです・・ブラジル人は、1970年のメキシコワールドカップを制したブラジル代表とか、1982年スペインワールドカップで、抜群の美しさで存在感を光り輝かせたブラジル代表のようなサッカーを望んでいるんですよ・・」

 「あっ・・そうそう、ブラジル人は、バルセロナのサッカーにも憧れていますよ・・だから、監督の候補に、あのグアルディオラも、高い優先度でノミネートされていましたからね・・」

 「グアルディオラについては、国内でも賛同する意見が多かったんですよ・・でも結局は、外国人にブラジルの国家代表を任せることに二の足を踏んだんでしょうね・・グアルディオラの線は立ち消えになり、最後はスコラーリに落ち着いたっちゅうわけです」

 「でも、湯浅さんも書かれているように、スコラーリにしても、パレイラにしても、結果を残すために、とても現実的なチーム戦術を選択するプロコーチじゃ ないですか・・だから、国民にも(そして、その国民に媚びる傾向の強い!?)ブラジルメディアにも、あまり評判はよくないんですよ・・」

 「それが、コンフェデレーションズカップの前に行われた会見で、爆発したというのが背景です・・」

 「メディアの誰かが、記者会見で挑発的な質問をしたということですか??」

 「そうなんですよ・・ある程度は、和気あいあいの雰囲気で進行していた記者会見でしたが、その後半に、ある記者が、コンフェデレーションズカップで勝てなかったら辞任するんでしょ・・なんていう質問をブン投げたんですよ・・」

 「その瞬間、フェリポン(スコラーリ)の表情が一変しましたね・・まさに鬼の形相ってな感じで・・そんな質問は、答えるに値しないって捨て台詞を残して席を立ってしまったんです・・」

 「その質問には、現会長のマリンが、大会前から、コンフェデレーションズカップの成績が芳しくなくてもスコラーリを解任しないと表明していたという背景もありました・・それが一部のメディアを(国民を)悪い意味で刺激してしまったということなんでしょうね・・」

 「ところで沢田さん・・候補に挙がったグアルディオラですが、あのブラジルですからね、外国人が代表監督の候補にリストアップされたことには、とても奇異な感じがするんですよ・・?」

 「そうですよね・・でも、グアルディオラは、ブラジル人にとって特別な存在になったということなのかもしれませんね・・湯浅さんも、2011年のクラブワールドカップで、サントスを4対0で粉砕したゲームを覚えていると思いますが・・」

 「その試合後の記者会見で、グアルディオラが、子供の時からブラジルサッカーは憧れの存在だった・・なんていうニュアンスのコメントをしたんですよ・・ 同時に、でも今では、昔のサッカーを忘れてしまったかのようだ・・なんていう刺激的なコメントも残した・・その発言が、グアルディオラへの待望論をヒート アップさせたということなんでしょうね・・」

 「フムフム・・それ以外に、ブラジルが一目置く国やクラブはありますか・・??」

 「そうですね〜・・強いて挙げるならば、オランダですかね・・ヨハン・クライフを擁した1974年ドイツワールドカップで、世界中にセンセーションを巻 き起こしたスーパーサッカーですよね・・その大会でのブラジルは、二次リーグでオランダと当たったんですが、まったく歯が立たずに2対0で完敗した・・」

 「そうそう・・私も、文藝春秋社のNumber Videoで、そのゲームを取りあげましたよ・・ワールドカップ5秒間のドラマっていうタイトルでね・・フライングダッチマン、ヨハン・クライフ・・本当 に、あのオランダチームはセンセーショナルだった・・以前、アントラーズの監督をしていたオズワルド・オリヴェイラとも、そのゲームのことを話したことが あったんですが、彼にとっても、コーチとして、エポックメイキングのゲームだったと言っていたっけ・・あの、オズワルドがですよ・・」と、私。

 それに対して沢田啓明さんがすぐに反応します。

 「いまオズワルド・オリヴェイラは、ボタフォゴの監督をしているのですが、とても成功していますよね・・ブラジルでも一目置かれるプロコーチです・・そ の、オリヴェイラが・・そうなんですよ・・とにかく、ブラジルが完敗したことは、今でも人々の記憶に鮮烈に残っているということなんです・・」

 ちょっとここで、話題を、ブラジル人が誇りに思っているチームについて聞いてみることにしました。そう、ブラジル人が、自分たちのサッカーのアイデンティティとして胸を張れるブラジル代表チームです。

 「先ほども言いましたが、それは、何といっても、1970年メキシコワールドカップで優勝したチームですよね・・それと、これも先ほど触れましたが、テレ・サンターナが、1982年スペインワールドカップで率いたスーパーチームも、ブラジル人はとても好きです・・」

 「特に、スペインワールドカップで抜群の存在感を魅せたブラジル代表は、あれほど素晴らしいゲームをやったのに、結局は負けてしまいましたからね・・だ からこそ、今でも鮮烈な印象が残っているということでしょうね・・そうそう、同じテレ・サンターナが率いた、1986メキシコワールドカップでのブラジル 代表も、フランスとのスーパーマッチがあるから、みんな好きですね」と、沢田さん。

 「私も、読売サッカークラブを離れた1986年に、ドイツに長く滞在したんですが・・実は、ドイツからメキシコへ行こうと思っていたんですよ・・でも、 その夢も叶わず、結局ブラジル対フランス戦を、友人の自宅でテレビ観戦したことを覚えています・・とにかく鮮烈だったですね・・このゲームについても先ほ どの、文藝春秋社のNumber Videoで取りあげました・・」と、私。

 「実は、そのゲームが、私の人生の大きな転機になったんですよ・・そのゲームは、実際にグアダラハラでスタジアム観戦していたのですが、それを観たこと で、いてもたってもいられなくなってブラジルへ渡ったんですからね・・そして、結局は永住することになってしまった・・」

 「あっと・・もう一つありました・・試合の後のことですが、グアダラハラ競技場から帰るとき、ブラジルの国旗をまとったグループが、道路の端にしゃがみ 込んでいるシーンに出くわしたんです・・一体、何をやっているんだろう思い、近づいてみたら、何と、彼らは一緒に泣いていたんですよ・・そのシーンは、今 でも忘れられません・・本当に、それほどブラジル人にとってサッカーとは大切なモノなんだなって、体感させられましたよ・・そのこともまた、ブラジルへ渡 る大きなキッカケでしたね・・」と、沢田さん。

 そんな感じで、自分たちの人生に多大な影響をもたらしたスーパーチームやスーパーマッチの話題は尽きることがありませんでした。

 ということで、最後は、ネイマールの話題で締めますかね。

 「沢田さん・・ネイマールですが、何かのインタビューで、メッシのことを聞かれたとき、自分は、メッシの域に達していない・・自分は、これからだと思っ ている・・なんて殊勝なコトを言っていたんですよ・・また、スタジアムの外で行われていたデモについて聞かれたときも、我々プロ選手は、全力でプレーし、 結果を残すことで国が元気になることを願っている・・なんてコトも述べていた・・彼には、優秀なマネージャーが付いているんでしょうね・・??」

 「もちろんです・・ネイマールは、自分の発言の影響力を、とても強く意識していますよ・・良いマネージャーがしっかりと教育しているお陰でしょう・・」

 「あっと・・ネイマールには、お父さんもバックに控えていましたっけ・・そのお父さんもプロ選手だったのですが、ネイマールに、プロとして、やってはい けないことを全て教えているって公言してはばからないんですよ・・そして優秀なマネージャー・・彼の態度や言動が、優等生そのものというも頷けますよ ね・・」と、沢田さん。

 フムフム・・

 実は、対談の後も、ハナシが尽きずに席を立たない2人だったのです。

 沢田啓明さんも記事に書くそうで、我々が話した内容を録音していたのですが、その録音機をカバンにしまった。私も、パソコンをバックパックに入れた。

 でも、ハナシは尽きない。

 そしてその後、2時間以上も話しつづけてしまったという次第。でも、いまは、何を話したか、よく覚えていない。まあ、いいさ・・。とにかく楽しくて仕方なかったんだよ。

 人類史上最大パワーを秘める「異文化接点」のサッカーは、とにかく楽しいし、我々はサッカーが大好きなんですよ。

 ネイマールじゃなく、そのことで締める方が健康的だよね。あははっ・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 





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