トピックス


2013_コンフェド杯_その10・・まさにホンモノの勝負マッチ・・堪能した・・一生の記憶に残る「内実」だった・・(ブラジルvsウルグアイ、 2-1)(2013年6月26日、水曜日)

すごい、ギリギリの激闘だった。

 南米の雄同士が、全身全霊を懸けてぶつかり合った。これは、一生の記憶として残る。もちろん、感覚的なイメージとして。でも「その積み重ね」こそが、サッカーを考えるうえでのエッセンスだから。

 本当に来てよかった。

 ゲームの立ち上がりだけれど、そこで目立っていたのは、何といっても、ブラジルが石のように硬かったということ。そのことに、まずビックリさせられた。

 まったく攻め上がれない・・というか、「何か」を怖がって上がっていけないブラジル。だから攻めも単発。簡単にウルグアイに止められ、そして逆に押し込まれていく。

 そんなブラジルに対して、フッ切れた仕掛けをブチかましつづけるウルグアイ。

 ウルグアイは、3人の守備的なミッドフィールダーが、前線で頑張る3人の天才を、素晴らしいハードワークでサポートする。

 前線の3人とは、カヴァーニ、スアレス、そして言わずもがなのフォルラン。

 もちろん、カヴァーニにしてもスアレスにしても、両サイドゾーンの守備カバーリングに「も」チカラを傾注するんだよ。この献身的なハードワークがいい。だからこそ、周りのチームメイトたちも、攻撃となったら、全力でサポートするってなわけだ。

 あっと・・ゲーム。

 そんな立ち上がりの流れのなかで、ウルグアイがコーナーキックを得るんだ。前半14分。そして、そこで、ダヴィド・ルイスが、相手選手のユニフォームを掴んで、引き倒してしまう。

 もちろん明らかなPK。でもサ、審判が見ていたら、確実にPKになることを知っていながら、あんなに「あからさま」にユニフォームを掴んで引き倒しちゃうのだから、何か、特別なモティーフがなきゃ、おかしいよね。

 たぶん、引き倒す前に、その選手と、かなり「やり合った」ことで興奮しちゃったんだろうね。「あの」ダヴィド・ルイスが・・。それにも、ちょっとビックリさせられた。

 そして、そのPKが決まることを前提に、こんな思いがアタマの中を駆けめぐった。

 ウルグアイ守備は、ブラジルの攻め方を完璧にイメージできている。

 4人の最終ラインと3人の守備的ハーフ。そして両サイドゾーンでは、前述したように、前線の2人がもどって忠実なハードワークを繰り返す。そんな完璧な守備ブロックだからね。

 それに、彼らは、ブラジルの「ワン・ツー・スリー」といったコンビネーションに対するイメージも明確にもっている。だから、パス&ムーブで動くブラジル選手も、完璧にマークされちゃう。

 ウルグアイ守備は、「ボールがないところで勝負を決めちゃうブラジル」の仕掛けの流れに対するイメージを、明確にもっているっちゅうことだ。

 だから私は、そんなウルグアイの堅牢な守備ブロックのイメージが出来上がっていたことから、PKを取られたとき、それが決まることを前提に、「もしかしたら・・これでゲームが終わっちゃうかもしれない・・」なんて、軽率にも思っちゃった訳なのです。でも・・

 そう、やってくれたんだよ。ジュリオ・セザールの、スーパーなセービング。

 彼は、フォルランのPKを完璧に読んでいた。だから、フォルランの立ち足が「入った」ときには、既に左へ飛んでいた。

 そして「そこ」へ、まさに「取り込まれるように」シュートが飛んできたっちゅうわけなのです。

 ビックリした。そして胸をなで下ろした。そう、わたしは、ブラジル対スペインの決勝が観たいんだ。

 このPK失敗だけれど、そこには、とても深い意味があった。

 ブラジルは、ウルグアイの堅守を、肌で体感している。彼らは、ウルグアイ守備を打ち破るのが、並大抵のことではないと、心底、理解しているんだ。

 だから彼らも、PKを取られたときは(それが決まることを前提に!)大いなる不安に苛(さいな)まれたに違いない。

 ・・あ〜・・これから、ものすごく厳しい現実が待っている・・これで、ディフェンスブロックを「もっと」固める、「あの」ウルグアイ守備を打ち破って、同点、勝ち越しという、長い、長〜い険しい山を上っていかなければならない・・フ〜〜ッ!!・・

 そのことは、記者席のテレビに大写しされるブラジル選手たちの表情からも、明確に読み取れるんだよ。あ〜っ・・これは大変なコトになった・・なんてね。

 でも・・

 そう、そんな「一瞬、落ちこんだ心理」が、ジュリオ・セザールのスーパーセービングのお陰で、100%ひっくり返ったんだ。

 それをキッカケに、ブラジルが、失敗を怖がっていた心理から、完璧に解放されたんだよ。

 それほど、このPK阻止は、巨大な「刺激」だったというわけだ。災い転じて福と成す!? フムフム・・

 そしてゲームの流れが大きく変容し、そこからは、ブラジルが持てる実力をいかんなく発揮しはじめたんだ。

 仕掛けに投入していく人数が明確に増えていった。だから、人とボールの動きが活性化するのも道理。そして、だからこそ、彼らの「個の勝負の危険度」も、何倍にも増幅していくっちゅうわけだ。

 そりゃ、そうだ、スペースを作り、そこを使えるわけだから。より、相手守備が「薄くなった」部分で、ある程度フリーな味方ドリブラーを演出できるっちゅうわけさ。

 でも・・

 まあ、予想できたことではあったんだけれど、PK失敗の後、数分は、ちょっと落ちこみ、アクションが後手に回っていたウルグアイだった(まあ、急にブラ ジルの攻めが活性化したからと表現した方が正確かもしれない・・)けれど、ウルグアイも、もちろん世界の猛者だからネ、すぐに立ち直り、自分たちのディ フェンスを、質実剛健に展開しはじめるんだよ。

 もちろん、ゲーム全体の見え方は、ブラジルがイニシアチブを握る・・ってなものだけれど、ウルグアイも、前線の天才トリオを中心に、しっかりとカウンター気味の攻めをブチかますんだ。

 そんな流れのなかで、まさに「あと10センチ」っていう、惜しいミドルシュートを、フォルランがブチかましたりする。ブラジル守備が、震え上がる。でも、立ち上がりの硬さからすれば、完璧に解放されたっちゅう表現を変える必要はない。フムフム・・

 そしてゲームが、まさに「オープン」になっていくんだ。

 ブラジルにとって難しい展開に「戻って」からは、前述のような「動的な均衡」状態がつづく。

 これは、ブラジルにしても、ワンチャンスを逃さずに決めなければ、勝負は危うい・・誰もが、そんな印象を持ったに違いない。でも・・

 そう、まさに「ブラジル的な攻め」とは、明らかに違うタイプの仕掛けから、ブラジルが先制ゴールを奪っちゃうんだ。

 中盤で、パス&ムーブで最前線へ抜け出していくネイマール。その横パスを受けたパウリーニョは、逡巡することなく、ちょっとフェイントを入れながら、ネイマールが走り込む、ウルグアイ守備のウラの決定的スペースへ、フワッというラストパスを送り込むのだよ。

 「それ」が、本当にピタリとネイマールに合ってしまうんだから、やっぱりブラジルだね。

 そして最後は、ネイマールの「ピンッ!」という右足アウトサイドでの折り返しを、中央スペースへ走り込んできたフレッジが、まさにボテボテの「泥臭いシュート」を決めちゃうんだよ。

 前半41分のことでした。

 それ以降は、前述した動的な均衡状態がつづくわけだけれど、もちろんブラジルが、より守備の意識を高めたことは言うまでもありません。

 そうなったときのブラジルは、無類の(ディフェンスの)強さを発揮する。それこそ、世界一。

 だから、安心して観ていた。でも・・

 そう、その世界一の守備ブロックの絶対的なリーダーであるべきチアゴ・シルバが、まさにの「ゴール前での横パス」を出し、それをウルグアイのカヴァーニに、かっさらわれて同点ゴールを許しちゃうんだ。

 わたしは、目を疑った。「あの」チアゴ・シルバのミス。それも、ゴール前での、ショート横パスを出すなんてネ。その横パスが送られたマルセロも、まったく対処できなかった。

 そんな「ビックリ」は、ブラジル選手のなかでも同じだったに違いない。何てったって、ミスしたのが、「あの」チアゴ・シルバだからね、誰もが、ちょっと複雑な表情を浮かべていたっけね。

 同点・・

 これで振り出しだから、最初のようなゲーム展開に戻るのかな・・なんてことも考えたけれど、あにはからんや、ゲームの内実は、どんどんと活性化していった。

 両チームともに、より積極的に仕掛けはじめたんだよ。

 そこでは、ブラジルが(まあ選手交代もあったけれど)、より徹底して両サイドゾーンから仕掛けていくようなったのが印象的だったね。

 それも、サイドでボールを持って(交替でベンチへ下がったフッキのように)、中央ゾーン切れ込んでいくというのではなく、もちろん傾向としてというニュアンスだけれど、よりシンプルなタイミングで、クロスボールを送り込むようになったんだ。

 そのことで、もちろんブラジルの攻め「も」、より危険なモノへと変容していったと思う。

 でも結局は、そんな流れのなかからのゴールではなく(交替したベルナールの右サイド突破とラストクロスは素晴らしいチャンスを作りだしたけれど・・)、コーナーキックから、パウリーニョがヘディング一閃が勝負を決める決勝ゴールになった。

 ということで、とても変化に富んだゲーム展開とチャンスメイクの「内実」だったというのも印象に残ったのでした。

 ところで、決勝のメンバーだけれど、前述した(あからさまに相手ユニフォームを引っ張って引き倒した)ダビド・ルイスだけじゃなく、中盤の底で、鬼神の スーパーディフェンスを展開していたルイス・グスタヴォも、イエローを受けたことで出場停止ということになってしまった。

 ブラジル守備の機能性ベースを支えていた2人がいなくなる。

 もちろん最終ラインは、ダンチで十分に補えるだろうけれど、ルイス・グスタヴォが担っていた中盤の底を誰がプレーするのか。スコラーリの判断に注目しましょう。

 とても長くなってしまった。とにかく、素晴らしい勝負マッチからエネルギーをもらったことで、長々と書き進んでしまった。

 例によって、推敲、編集はまったくナシです。

=============

追伸:後から情報が入ったのですが、グループリーグのイエローカードは、決勝トーナメントでは、クリアされるらしい。ということは、ダヴィド・ルイスにし ても、ルイス・グスタヴォにしても、決勝戦は出場できるということになる。たぶん、この情報は正しいと思いますよ。スミマセン、情報が錯綜してしまっ て・・

===============

 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

==============

 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 





[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]