湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2010年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第17節(2010年8月7日、土曜日)
- 素晴らしくエキサイティングなリーグ首位争いでした・・また「決定力の本質」というテーマについても・・(SPvsA, 2-1)
- レビュー
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- 最後の最後まで目が離せない、とてもエキサイティングな勝負マッチになったね。
わたしも(テレビ観戦だったにもかかわらず!)心の底から堪能していましたよ。もちろんそれには、スカパーの中継技術(カメラワーク)が、ボールがないところでの勝負ドラマもしっかりと捉えられるまでに進歩しているという背景があるかもネ(でも・・カメラマンの方々の映像作りよりも、ディレクターやプロデューサーの方針転換の方が大きかったりして・・!?)。
とにかく、一点を争う好ゲーム。とはいっても、決してガチガチの守り合いというのではなく、後半ロスタイムの最後の一秒まで攻め合うといった、とても面白いゲーム展開だったのですよ。
まさに、J−リーグの首位争いに相応しい好ゲーム。そこには、このような内容のあるゲームを「粘り強く」積み重ねていくことで「しか」、サッカー文化を、本当の意味で有意義に醸成していけないという、サッカーの歴史が明確に証明している『事実』を再認識させてくれるだけのポジティブエネルギーが存分に内包されていました。
ところでアントラーズの勝負強さ。最後に追いつけなかったという結果については、やはり、前半31分に、マルキーニョスがケガで交替してしまったことが大きく響いていたのかもしれない。
もちろん、一点リードされたアントラーズが最後の時間帯に魅せた、例によっての、レベルを超えた勢いのダイナミックな仕掛けには、それなりの「勝負強さエッセンス」は詰め込まれていた。でも、私には、どうも一味足りないという感じがしていたのですよ。要は、組織的な勝負エッセンスと、個人的な勝負エッセンスの『バランス状態』に、マルキーニョスの退場によって、微妙なズレが生じたということですかね・・!?
もちろん、エスパルスの素晴らしい組織ディフェンスを支える集中力が、最後の最後までまったく衰えることを知らなかったという事実に対しては、長谷川健太監督の「ストロング・ハンド」も含めて大拍手なのですが・・ネ。あっと・・特に、エスパルス中盤守備の重鎮(アンカー)本田拓也には、本当に、心からの拍手を惜しまない筆者なのですよ。
とにかく前半は、エスパルスの守備が、完全にアントラーズの「サッカー」を凌駕していたのは確かな事実だったということが言いたかったわけです。
ここで、ちょっと視点を変えます。決定力というテーマ・・
前半のエスパルスは、とても素晴らしいダイナミックサッカーを展開した。そこでのアントラーズは、マルキーニョスがまだプレーしていたにもかかわらず、ほとんどノーチャンスでした。
それに対してエスパルスは、アントラーズ最終ラインのウラに広がる決定的スペースを攻略したり、まったくフリーで上がってきた三人目の選手が決定的なミドルシュートをブチかます等、何本か、たてつづけに決定的シュートチャンスを作り出した。でも、そのほとんどが、アントラーズGK曽ヶ端の正面に飛んでしまうのですよ。
そんなシーンを見ながら、思ったものです。こりゃ・・後半には、盛り返してくるに違いないアントラーズに、勝負強さの象徴とも言える粘りのゴール(マルキーニョスの個人勝負やカウンター、小笠原がキッカーのセットプレーによるゴール!?)を決められて、結局エスパルスは、そのまま突き放されちゃうんじゃないか・・ってネ。
ここまで書いてきて、先週の「J−リーグ・コラム」を思い出した。レッズ対アルディージャ戦から抽出した、チャンスをゴールに結びつけるというテーマ・・。そのコラムは「こちら」。
そのコラムでは、うまく表現できていなかったかもしれないけれど、ここまで書いてきて、「決定力」の核心は、やはり心理・精神的な部分にあり・・というテーマを反芻したくなったのです。
決定的シュートチャンス・・。そのとき選手は、シュートを打つこと「しか」考えない。もっと言えば、ほとんどの選手が、シュートを打つというアクションにだけ全神経が「占拠」されてしまう・・ということです。
でも、その瞬間に、シュートを実際にゴールへ入れるという「現象」にとって、もっとも大事になってくるファクター(要素)は、そのシュートを「ゴールに入れる」ということに対する確信イメージを持てているかどうか・・ということなのですよ。
やっぱり難しいな・・、その瞬間における心理・精神的な「メカニズム」を、分かりやすくクリアに表現するのは・・。
わたしは、このことについて、ドイツの伝説的スーパーコーチ、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーから、こんなコトを言われたことがあります。例のダミ声で・・
「おまえナ〜〜・・たしかにシュートチャンスを作り出すことは大事だけれど、そこで仕事が終わったなんて思ったら大間違いなんだぞ・・ホントの仕事は、そこから始まるといっても過言じゃないんだ・・そのチャンスを、しっかりと、本物のゴールに結びつけるという作業は、並大抵のことじゃないんだよ・・」
ヴァイスヴァイラーは、チャンスを得た選手が、「よし!・・いただき!!」と、ホンモノの心の(イメージ的な)余裕をもって、ボールをゴールに入れられるかどうかというのが、「究極のテーマ」だと言っていたのです。
ヴァイスヴァイラーと、当時のケルンの(まあ・・ドイツ代表の)エース・ストライカー、ディーター・ミュラーとの「サシでのシュートトレーニング」。それは、もう、壮絶だったんですよ。
いくらディーターがシュートを決めても、決してヴァイスヴァイラーはオーケーを出さない。「そんなシュートじゃダメだ・・オマエの確信が感じられない・・オマエは、シュートする瞬間に、自分の蹴ったボールが、ゴールに飛び込んでいくシーンを明確にイメージできていない・・」
それって・・とても理不尽な要求じゃありませんか?? 横で、そのトレーニングを観察していた私は、そう思った。でも、そんな「究極のテンションが支配する雰囲気」のなかで、徐々にディーター・ミュラーが、ヴァイスヴァイラーの意図するところを感じ取っていったらしいのです。
・・自分がシュートするとき、ボールが、ゴールに吸い込まれていくシーン「まで」明確にイメージすることが出来る・・そして、しっかりとチャンスをゴールに結びつけることこそが、ホンモノのプロの仕事なのだ・・そんな意識と強い意志をもってシュートに入っていく・・
そんな苦しいトレーニングを経たディーター・ミュラーが、後にこんなことを言ったことがあった。・・シュートシーンにおいて、それを決めるという強烈な意志がベースだったからこその「究極の落ち着き」を獲得できた・・
ちょっと話題が「明後日の方向」へ行っちゃったけれど、前半のエスパルスが外しまくった「決定的チャンス」による刺激で、そんなテーマにまで思いを馳せていた筆者だったのでした。あははっ・・
最後になりましたが・・。わたしは、攻撃の目標はシュートを打つことであり、ゴールは、単なる結果にしか過ぎない・・なんて言います。それは、今日のテーマからすれば、ちょっと矛盾する。
まあ・・「シュートを打つこと」という攻撃の目標アクションには、前述した、ゴールを決めるという「確信的な(心理・精神的)ファクター」も含まれるという風に(ちょっと事後的ではありますが)ご理解いただければ幸いです。あははっ・・
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またまた、出版の告知です。
今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。
悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。その本に関する告知記事は「こちら」です。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。
4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。
出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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