湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2010年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第27節(2010年10月24日、日曜日)
- リーグ優勝戦線が盛り上がっていく予感が・・(AvsM, 2-0)
- レビュー
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- 「完敗でした・・」
このゲームはテレビ観戦。冒頭の言葉は、試合後テレビインタビューでの、マリノス木村和司監督のコメントでした。まあ・・そういうことだね。
とにかく、アントラーズの守備がスーパーだった。
前節、ベルマーレ対アントラーズ戦を観た知り合いのジャーナリストの方によれば、その試合でのアントラーズの出来は最悪だったそうな。闘う意志が感じられない・・だから、ロスタイムで、ベルマーレに同点ゴールをブチ込まれたのも自業自得だった・・。
ここのところ三試合つづけて引き分けというアントラーズ。わたしは観ていないけれど、ちょっと「何か」が欠けているらしい。それに、このマリノス戦では、絶対的なエースであるマルキーニョスも出場停止。ということで、様々な視点で、この試合を楽しみにしていました(もちろんスタジアム観戦するつもりだったけれど、所用が重なり、結局テレビ観戦に・・)。
この試合でのアントラーズは危機感にあふれていたと感じた。闘う意志(汗かきの仕事を積極的に探そうとするプレー姿勢・・集中力などなど)が尋常じゃなかった。優勝戦線でグランパスに置いていかれ気味になっていること、またマルキーニョスの欠場など、そんなネガティブな要素が効果的な「刺激」になっている!? まあ・・ネ・・脅威と機会は表裏一体・・なのであ〜る。
アントラーズの守備だけれど、もちろんスタートラインは、互いのポジショニング・バランスをしっかりとマネージしつづける「ポジショニング・バランス・オリエンテッド守備」。でも、チームメイトの誰かが、相手ボールホルダーに対するチェイス&チェックをスタートしたら、そのアクションに連動し、二人目、三人目がポジショニングバランスを「ブレイク」しながら、どんどんと「次」、「その次」のボール奪取チャンスを狙って爆発アクションに入っていくのですよ。
要は、この日のアントラーズの守備では、互いのポジショニングを上手くバランスさせる守備の組織作りプロセスと、それを積極的に崩してボール奪取勝負へいく「意志のブレイク!」のメリハリが素晴らしかったということです。
昔から、守備のプロセス(戦術的な発想と、実際のやり方)について書いてきた。それについては、2001年に発表した、この「長〜いコラム」も参照して下さい。
まあ、見方を変えれば、協力プレッシング守備とも言えるだろうけれど、そこでの成功のカギは、何といっても、少なくとも三人の「ボール奪取イメージ」と「実際のアクション」が正確にシンクロしている(うまく連動している)ということ。だからこそ、チェイス&チェックを仕掛ける者と、次、その次でボールを奪い返そうと狙う者のアクションが、うまく重なり合う。
だからこそ、高い実効レベルでボールを奪い返せる。もちろん、その現象のバックボーンには、マリノス選手たちが、そんなアントラーズの、忠実でエネルギッシュな「連動ディフェンス」に気圧され、動きにスムーズさを欠いていった(まあ・・意志のダイナミズムが見るからに減退していった)ということもある。
サッカーは心理ゲームだからネ。相手を爆発的に押し込んでいくことで心理的なワナにはめ、意気消沈させてしまえばしめたモノなんですよ。要は、相手を、「こりゃダメだ・・」なんていう消極的なマインドに押し込めてしまうということ。
ヨーロッパのトッププロでは、いかに相手を「勘違いさせるか・・」というテーマにも取り組む。
「ここが勝負!!」というマインドを、チーム全体で明確にシェアすることで、「前から積極的に勝負を仕掛けていくプレー姿勢」を急激にアップさせるのです。もちろん、守備のことです。守備こそがすべてのスタートライン。それが「前から積極的に機能」しはじめれば、自然と、次の攻撃も爆発的に活性化していくモノなのです。そして相手は、その勢いに「呑み込まれ」、アクションの量と質が大幅にダウンしてしまう。
そう・・相手を「心理的な悪魔のサイクル」に陥れてしまう・・ということです。
とはいっても、この試合でのマリノスが、心理的な悪魔のサイクルにはまり込んでしまうまでに押し込まれてしまった・・というわけじゃない。それでも、マリノスの「ボール奪取勝負プロセス」に対する姿勢が甘かったことだけは確かな事実だった。
要は、ボールがないところでのアクション(次を狙うインターセプトやアタックアクション・・カバーリングアクション等々)の量と質が、アントラーズの比ではなかった(悪かった)ということです。まあ、たしかに、守備のスタートラインである「チェイス&チェック」の勢いでも、アントラーズとは明確な差があったわけだけれどネ。
だから、シュートチャンスの量と質でも、アントラーズが完璧に凌駕していた。
とはいっても、もちろん、そのことが実際のゴールに即リンクするわけじゃない。「そのこと」もまた、サッカーの醍醐味なのですよ。「勝負のアヤ」というかネ。
完璧にゲームを支配し、チャンスも作りつづけているけれど、どうしてもゴールを奪うことが出来ない・・そうこうしているうちに、相手にワンチャンスをモノにされて負けてしまう・・。
このゲームの直前にテレビ観戦した「J2」、サガン鳥栖vs東京ヴェルディ戦は、まさに、そんなゲームだった。
シュート数は、鳥栖の「18本」に対して、ヴェルディは「6本」。サッカー内容でも、実質的なゴールチャンスでも、完璧に鳥栖が凌駕していた。それに加えて、後半21分にはヴェルディの福田健介が退場処分になってしまう。誰もが、「これはもう・・」なんて感じていた。
でも手負いのヴェルディは諦めなかった。最後の最後まで闘う姿勢を崩さず、まさにワンチャンスという状態で、勇気と強烈な意志をふり絞ったヴェルディ選手がドリブルで突進し、相手のファールを誘ってPKを奪い取ってしまうのですよ。そして終わってみれば、東京ヴェルディが「0-1」のアウェー勝利をモノにしていた。
川勝良一監督は、クラブ存続が危ういというネガティブな状況を、逆に追い風にしてチームを引っ張っている。この試合での内容は誉められたモノじゃなかったけれど、それでも、最後の最後まで勝負を諦めず、小さな可能性に懸けて戦いつづけたヴェルディ。まあ立派な勝利とも言える。プレイヤーの姿勢は、監督を映す鏡・・だからね。
あっと・・ちょっと脱線。言いたかったことは、アントラーズは、そんな鳥栖とは違い、しっかりとチャンスをモノにして「完勝」を完結させたということでした。
主役は、本山雅志と興梠慎三。
この試合でアントラーズが奪った2ゴールとも、この二人が演出しました。本山雅志のラストパス感覚と、興梠慎三の(決定的スペースへの)抜け出し感覚とシュート決定感覚の、夢のようなコラボレーション。
この二つのゴールについては、わたしが言葉で表現するよりも、ユー・チューブなどで実際のシーンを「体感」して下さい。とにかく、観る方だけじゃなく、現役の(特にユース!)選手にとっても、これ以上ないほど効果的な「イメージ・トレーニング素材」だよ。
昨日は、所用が重なったことで、コラムのアップが一日遅れてしまいました。悪しからず・・
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またまた、出版の告知です。
今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。
悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。
4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。
出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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