The Core Column


The Core Column(58)_真のバランス感覚・・(2017年7月30日、日曜日)


■浦和レッズのミハイロ・ペトロヴィッチが解任された・・

ホントにご無沙汰してしまった。

チト「まとまり」に欠けるかもしれないけれど、今回は、レッズのミハイロ・ペトロヴィッチが解任されたことを起点に、日本サッカーが目指すべきベクトルについて思うところを表明しておこうと思い、キーボードに向かうことにした。

もちろん短く、短く・・

ミハイロの解任については、攻守の集中力(意識と意志のレベル)が減退していたことも含めて、仕方のない部分もあったと思う。

わたしは「最後の半歩が出ていない・・」と表現するけれど、そのテーマについては、レギュラーコラムで書いたから、「そちら」もご参照あれ。

とはいっても、ミハイロが、サンフレッチェやレッズで為した、日本サッカーへの深い貢献は、イビツァ・オシムとともに、歴史に残ると思う。

そのことについては、ご賛同いただける方も多いに違いない。

・・走るサッカー・・美しく勝つサッカー・・などなど・・

その本質は、何といっても、攻守にわたるリスクチャレンジ(選手たちの勇気)にあった。

そう、意志。

また、そのエッセンスを別な言葉で表現すれば・・

さまざまな攻守ハードワーク(サッカーにおける本質的な仕事!)を積極的に「探す」というプレー姿勢を植え付けたこととも言えそうだ。

イレギュラーするボールを足で扱うことで、不確実な要素が満載されたサッカー。

だからこそ私は、サッカーを、究極の「意志のボールゲーム」と呼ぶことに躊躇(ちゅうちょ)しないのだ。

とはいっても、さまざまな意味合いで「生もの」とも表現できるサッカーチームのことだから、一度「分散」してしまった選手たちのマインドのバランスを、再び一つのベクトルに乗せ、高みで安定させる作業は、難しい。

そこでは、究極の「刺激」が必要とされるのだ。

たとえば、監督の交代・・。

ミハイロ・ペトロヴィッチに対しては、心からの「ねぎらいの言葉」をおくりたい。

■日本サッカーにとって、とても価値のあった2016年シーズンの「J」・・

価値・・

それは、ダイレクトパス・コンビネーションも含め、リスクチャレンジ志向で、人とボールを活発に「動かす」という真の組織サッカーを標榜した二つのクラブが、「J」の頂点に立ったことだ。

頂点・・

もちろん、年間を通した「勝ち点ベース」の称号だ。

長い年月を掛けて創り上げていくべき「伝統的な価値」を浪費し、その継続プロセスを途中でブッ壊すような「刹那的な興行」である、でっち上げの「チャンピオンシップ」などは、論外だ。

この、プロサッカーの「真の価値」というテーマについては、2シーズン制へ移行する前に発表した「このコラム」をご参照あれ。

あっと・・

そう、2016年シーズンの「J」では、風間フロンターレと、ミハイロ・レッズという、まさに「美しく勝つサッカー」を標榜する二つのチームが、最後の最後までしのぎを削ったのだ。

でも結局は、そんな努力が、「結果だけ」を追い求める戦術サッカーにうっちゃられてしまった。

とはいっても、そのチャンピオンシップで勝ったチームに与えられたタイトルが、単なるでっち上げの「金儲けトーナメント」の結果だと言うことは、誰もが知っているんだよ。

もちろん、クラブワールドカップで抜群の存在感を発揮した(当時の)アントラーズの勝負強さを否定するつもりはない。

それもまた、プロサッカーにおけるアトラクションの一つなんだよ。

そう、美しさと、結果「命」という二つのサッカーベクトルの対峙。

でも・・

■「J」でのベクトルが、ふたたび「安全志向」に偏りはじめている!?・・

要は、(ショート)カウンターサッカーという、結果「だけ」を求めるサッカーが、再び主流に躍り出ようとしていることだ。

もちろん、以前のような、「リトリートして守備ブロックを固め、しっかり守って長いカウンターを仕掛けていく・・」なんていう時代遅れの考え方じゃない。

そうではなく、守備に入ったときの、前戦からの人数&ポジショニングバランスの整理をベースにブロックを整備し、受け身ではなく、あくまでも積極的にボールを奪いにいくという姿勢のサッカーのことだ。

でも、そのほとんどは、攻撃的な発想ではなく、あくまでも「相手のミスに乗じる・・」という基本アイデアであることは否めない。

だから・・ということもあるのだろうけれど、ボールを奪っても、絶対的に有利な状況にある一人、二人を除いて、その流れに積極的に乗ってくる選手は少ない。

そして周りのチームメイトたちは、次のディフェンスを考え(その呪縛から逃れられず!?)、人数&ポジショニングバランスを優先するイメージでプレーする。

そんな安定志向では、不確実なサッカーで真の発展を遂げることは望めない。

もちろん、そんな「戦術サッカー」でも、全体的に攻め上がる状況は出てくる。

テーマは、「そんな状況での人数の掛け方」なのだ。

極端に言えば、風間八宏もミハイロも、もちろんイビツァ・オシムも、攻めに入ったら、チャンスがある誰もが、積極的に攻めの流れに乗り、最後の勝負シーンまで絡んでいけ・・と言うでしょ。

そう、リスクチャレンジ。

別な表現をすれば、組織的な組み立ての流れのなかでは、チャンスを見計らった者は、だれでも、積極的にバランスを崩していかなければならない・・ということだ。

■だからこその「真のバランス感覚」・・

このテーマは、ドイツでも、昔からディスカッションされてきた。

特に「現場の人間」の間で・・

要は、サッカーの質を向上させるためのリスクチャレンジに、より積極的にトライさせるための、チーム内の相互信頼の醸成・・ということだ。

そう、積極的にバランスを崩していかなきゃ、優れて美しいサッカーなんて実現できるはずがない・・という共通理解があるんだよ。

自分が(次の守備で!?)ケアーしなきゃいけない相手選手やスペースを放り出し、眼前のチャンススペースへ飛び出していく・・

また守備では、自分のマークを放り出して、3人目の相手選手がフリーで入り込もうとしている決定的スペースへ急行する・・

そんな、積極的にバランスを崩していくクリエイティブアクション。

もちろん、リスクは大きい。

でも、だからこそ、チームの緊張感を高め、覚醒レベルを格段にアップさせ、次の守備でのバランス再構築への強烈な「意志」が炸裂するというわけだ。

最高に素早い攻守の切り替え・・そして、そこから効果的な守備ブロックをスムーズに再構築してしまう!?

そう、それもまた、典型的な「真のバランス感覚」と「強烈な意志」がグラウンド上に反映された結果としての現象だろう。

■チト唐突ではあったけれど・・

今回は、ミハイロ・ペトロヴィッチが更迭されたというニュースと、昨日(2017年7月29日、第19節)の、フロンターレ対ジュビロ戦のゲーム内容に触発され、「エイヤッ!!」で、コラムを書き上げた。

内容的には、まだディスカッションを深めなきゃいけない部分は、とても多いとは思うけれど、そんな「内的な思考プロセス」を繰り返していたら、筆が進むはずがない。

ということで、今回は、ホントに「エイヤッ!!」で、コラムをアップすることにした。

実は、「気づき・・」というテーマでも、かなり思考が深まっているんだ。

だから、次には、今回の「足りなかった内容」と、その「気づき」というテーマをコラボさせて文章を発表したと思っている。

では・・また・・

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「The Core Column」の全リストは、「こちら」です。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 





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