湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第11節(2011年5月15日、日曜日)

 

サッカー内容で、セレッソがレッズを凌駕したゲームでした・・(RvsC, 1-1)

 

レビュー
 
 「とても優れたサッカーを展開できたと思う・・だから、結果は残念だ・・良いサッカーを展開できたけれど、最後は勝てなかった・・ゴールを決め切れなかった・・このところサッカー内容は良くなっているが、これからチーム総合力をアップさせていく発展プロセスでは、ゴール決定力がメインテーマになっていくと思う・・」

 記者会見で、セレッソのレヴィー・クルピ監督が、そんなニュアンスの内容をコメントしていた。

 まさに、おっしゃるとおり。レッズの倍のシュートをブチかましたセレッソ。そんな表面的な数字の比較だけではなく、実質的なチャンスの量と質という視点でもレッズを凌駕した。セレッソは、試合を、実質的にドミネート(支配)していたのです。

 もちろん、皆さんも観られたとおり、ポゼッション(ボールキープ率)という視点では互角の時間帯もあった。ただ、ボールを奪いかえしてから繰り出していく「仕掛け」の危険度という視点では、完全にセレッソに軍配が挙がるのですよ。

 いつも書いているように、要は「スペース活用」の差ということだね。いかにスムーズに、そしてタイミングよく、フリーな味方までボールを動かせるかというポイントのこと。次のボールホルダー(パスレシーバー)が、ある程度フリーでボールを持てば、もちろん、ドリブル勝負だけではなく、コンビネーションからのラストパスだって、「より」余裕をもって仕掛けているっちゅうわけです。

 そんな危険なチャンスシーンが、セレッソの攻撃ではてんこ盛りなのです。もちろんレッズも、主に原口元気のドリブルから、何度かはチャンスの流れを演出したし、危険なクロスボールも送り込んだ。でも、ゴリ押しのドリブル勝負やアバウトな放り込み、はたまた止まっている味方への(要は、セレッソ守備が狙っているレッズ選手の!)足許パスを繰り返したって、簡単にセレッソ守備ブロックに潰されるが関の山なんですよ。

 とにかくレッズの仕掛けには「動き」がなさすぎる。そして、ゴリ押しのドリブル勝負ばかりが目立つ。彼らには、コンビネーションイメージがないのだろうか?? まあ、コンビネーションを成就させるためには、人数が要るし、ボールがないところでの動きも活性化しなければならないからね・・。とにかく 「あれ」じゃ、相手守備ブロックは、数プレー前から、レッズの最終勝負シーンが明確に見えているでしょ。これじゃネ。フ〜〜・・

 逆に、セレッソの攻撃を受け止めなければならないレッズの守備ブロックは、あまりにも簡単に、そして効果的に、ボールを(スペースへ)動かされていた。これじゃセレッソに、「そこ」から、とても危険なチャンスを作り出されてしまうのも道理だよね。

 やっぱりさ、サッカーの絶対的なベースは守備にあり・・なんだよ。

 守備・・。その具体的な目的は、相手からボールを奪い返すことだけれど、そのために、汗かきのハードワークも含め、一人ひとりが何をやらなければならないか・・というイメージが、どうもうまく「連鎖」していない。

 優れたディフェンスは、「個の才能」に頼れる部分が少ないんだよ。選手一人ひとりが、決してサボらず、忠実に、その時点でやらなければならないことを「実効あるカタチ」で実行しつづけなければ機能しない。そこでは、決して中途半端な「ぬるま湯プレー」をしちゃいけない。

 例えば、自分のミスでボールを奪われ、すぐに相手ボールホルダー(相手のドリブラー)を追いかけるというシーン。

 そこで、必死に、とことん必死に追いかけ、全力のプレッシング(チェイス&チェック)を仕掛ければ、もちろん周りのチームメイトたちは、その守備の起点プレーを基に「次のボール奪取ポイント」をイメージ出来る。でもサ、追いかけはするけれど、それが「ぬるま湯」で・・要は「アリバイ的な」チェイシングだったら、周りの味方にとっちゃ、もう迷惑千万なのです。そう・・セルヒオ・・

 要は、いつも書いているように、守備は「純粋」なチームワークなのですよ。だから、一人でも、ホントに一人でもサボったら(アリバイ守備をしたら!)決して、守備の組織コンビネーションが機能することはない。そして、「サボリマインド」というネガティブな「心理ビールス」が、瞬間的にチーム全体に蔓延し、周りの足が止まってしまう。フ〜〜・・

 とにかくレッズの守備は、まったくといっていいほど歯車が噛み合っていないんだよ。イメージ(意志)が連鎖していない・・とでもいいますかネ。

 ・・チェイス&チェックには入るけれど、強固な意志をブチかますような「ダイナミズム」が感じられない・・ちょっと「アリバイ気味」・・だから「次のボール奪取を狙う味方」にしても、気合いが乗らずに、後手後手の対応になってしまう・・そんなだから、ポジショニングも中途半端になり、結局はセレッソに、どんどんと次のスペースへボールを運ばれて危険な最終勝負をブチかまされてしまう・・フ〜〜・・

 もし、全員の積極的な意志が「有機的にシンクロ」するようなスムーズなボール奪取シーンが重なれば、必ず、次の攻撃での「動き」も良くなるものなのです。優れたサッカーは、攻守にわたる「クリエイティブなムダ走り(ムダ仕事)」を積み重ねていくことでしか達成できないわけだからネ。

 本当に、レッズのことが心配です。

 とにかく、攻守にわたるハードワークへの「意志」が、あまりにも頼りない。ゲームの立ち上がりでは、とてもよいリズムで流れに乗っていくケースもあるのに、時間が経つにつれて、意志が目立ってダウンしてしまうのです。その落差は、とても大きい。

 それには、前戦(スリートップ)のポジショニングを固定しすぎるだけじゃなく、彼らの仕掛けイメージをも型にはめすぎているということがあるのかもしれない。だから、典型的なステレオタイプサッカーに落ち込んでしまっている!? 攻撃の絶対的なコンセプトは、広さと変化。その両方とも、いまのレッズには欠けている!?

 とにかく今のレッズは、まずなんといっても、全体的な運動量をアップさせることで、守備を(ボール奪取のプロセスを)活性化する作業に集中しなければいけません。全員が、強い意志をもって守備からゲームに入っていくのです。

 それがあってはじめて、次の攻撃での「動き」を、チーム全体で相乗的に活性化できるのですよ。そして、自らのイニシアチブでゲームの流れをコントロールしていく・・。

 とにかく、全体的なサッカーイメージ(チーム戦術)を、チームで再確認する必要がありそうな感じだね。そう、攻守にわたる意志の統一。それがあってはじめて、組織プレーも相乗的な効果を発揮しはじめるわけだから・・。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。