湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第13節(2011年5月28日、土曜日)

 

立ち上がりは良かったレッズだけれど・・(RvsAL, 1-1)

 

レビュー
 
 「ビッグチャンスは、ウチの方が多く作り出したと思う・・ほとんどはカウンター気味の流れだったが、それもまた、攻め上がってくるに違いないレッズ対策の一環だった・・」

 試合後の記者会見、アルビレックス黒崎久志監督が、そんなニュアンスの内容をコメントしていた。

 たしかに、ゲーム全体を通した決定的なチャンスの量と質という視点では、アルビレックスに軍配が挙がるだろうな〜・・でもサ、ゼリコ・ペトロヴィッチが言っていたように、前半の立ち上がりから20分くらいまでは(要は、セットプレーから先制ゴールを奪うまでは)、久しぶりにレッズが良いサッカーを展開したことも確かだったよね。

 まず、ゲームを通した「ビッグチャンス」の量と質。

 このポイントについては、ゼリコ・ペトロヴィッチが、「柏木や高崎のチャンスなど、レッズも良いシーンを作り出した・・レッズが劣っていたとは思わない・・」と主張していたけれど、ロペスのバー直撃シュートだけではなく、決定的チャンスにつながるような「ニオイ」を発する仕掛けプロセスも含めれば、まあ、明らかにアルビレックスの方が上だったとすることに異議を唱える方は少ないに違いありません。

 とはいっても、前半立ち上がりのレッズが、久しぶりに良いサッカーを展開したのも確かな事実だった。

 そのバックボーンは、何といっても、スリートップではなく、エジミウソンと高崎寛之のツートップでこの試合に臨んだことでしょ。その背後に、攻撃的ハーフコンビのマルシオと原口元気がポジショニングし、その後方には、鈴木啓太と柏木陽介の守備的ハーフコンビが控える。

 マルシオと原口元気のサイドハーフコンビだけれど、決して彼らは、タッチラインゾーンにビタッと張り付くのではなく、柔軟にポジションをチェンジしていた。そして、シンプルなボールタッチから、チャンスとなったら、勇気をもったドリブル突破にもチャレンジしていった。そのメリハリあるチャレンジプレーもまた、レッズの危険なダイナミズムを加速させた。

 またツートップが、とても元気に、タテのスペースへ飛び出していたことも、レッズ攻勢の原動力の一環だった(アルビレックス最終守備ブロックを引き連れて行くことで、バイタルエリアなどにスペースを作り出してもいた!)。

 特に高崎寛之。たしかにまだ、最前線からのディフェンス(汗かきのチェイス&チェック)や決定的フリーランニングなどで課題を抱えてはいるものの、ボールがないところでの動きの量と質、またチャンスでの決定力などで徐々に存在感をアップさせていることは、とても興味深い出来事ではあります。なにせ「あの」高崎だからネ〜。環境をベースにした意識と意志の改善!? さて〜〜・・

 そうそう・・。そんな、具体的な発展を遂げているチームメイトがいる半面、セルヒオ・エスクデロといった古株のパフォーマンスは、本当にだらしない。もう何度も書いているけれど、とにかくセルヒオには、「攻守にわたって(ボールのないところで)全力で走りながらギリギリまで闘うということを自然なプレー環境にする・・」というトレーニングテーマを与えるべきだね。

 そのテーマのトレーニングについてだけれど、わたしには、具体的な成功体験がありまっせ。

 セルヒオのような「天賦の才」で、攻守にわたる汗かきプレーが出来ない・やらない選手を、とにかく走らせた。200メートルの全力ダッシュ・・また、サッカーに最も適したスプリント距離である400メートル(また800メートルもアリ)を、かなり限界に近いタイムで走らせる・・それを、各種目、一日で、少なくとも20-30本はやらせる・・選手がクタクタになっても、決して妥協しない・・そんな「走ることを自然な環境にするためのハードトレーニング」を、とにかく継続する・・

 もちろんシーズン中だったら、1週間の中日を目処に、毎週一回から二回といったところですかね(もちろん、イングリッシュウイークの場合は難しいけれど・・)。

 そのうちに、彼らにとって、「走り回ること」、「攻守にわたるハードワーク」、「チームメイトのミスをカバーするような汗かきプレー」などなどが、まったく苦もなく実行しつづけられるようになるのですよ。

 ちょっと話題が逸れちゃったようにも思うけれど、高崎寛之のイメチェン傾向プレーに触発され、セルヒオや梅崎司といった「才能」連中にとって、攻守にわたるハードワークが「自然な環境」になったら、本当に素晴らしいよな〜〜・・なんて夢を見ていた筆者なのでした。

 最後に、選手たちの「意識と意志」について、もう一度、主張させてもらうことにします。

 ・・とにかく、絶対的な運動量を増やすことで、攻守にわたる「ボールがないところでのハードワーク」にしっかりと実が詰まってくれば、おのずと、組織プレーのコンテンツも充実してくるはず・・そして組織コンビネーションが上手く回りはじめる・・そうすれば、相手ディフェンスブロックの背後に広がる決定的スペースだって攻略できるだろうし、個のドリブル勝負だって、より効果的に繰り出していけるはず・・

 ・・そして、そんなポジティブな流れを作り出せれば、誰にとっても気持ちよいサッカーを展開できるだろうし、そんな善循環を回せるようにになったら、ゼリコ・ペトロヴィッチだって(基本ポジションが守られなくったって!?)決して文句を言うはずがない・・もちろん、あくまでも、選手個々の、強い意識と意志をベースにしたハードワーク(全力スプリントの積み重ね)が絶対的バックボーンだよ・・フムフム・・

 立ち上がりのレッズのサッカーに前向きな雰囲気が感じられたことで、コラムのニュアンスを、ちょっとポジティブなモノにしてみました。とはいっても、ゼリコ・ペトロヴィッチがいみじくも語っていた集中の途切れたマーキングミスは言うまでもなく、先制ゴールを奪ってから後半にかけてのサッカーは元の木阿弥(もとのもくあみ)だったし、同点にされてからの盛り返しにしても、「絶対に勝ち越してやるぞっ!!」という強烈な意志が感じられなかったよな〜〜・・。さて・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。