湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第27節(2011年9月24日、土曜日)

 

最終勝負プロセスに差が見えていた・・(AvsR, 0-0)

 

レビュー
 
 さて〜、何を、どのように書きはじめようか。やっぱり、最終勝負プロセスの内実・・っちゅうテーマかな。

 たしかに結果は引き分けに終わった。でも、そこで展開されたサッカーの内容は、完全にアントラーズのモノだった。とにかく、(ゴールのニオイがプンプンするような)決定的チャンスの量と質で、ホームのアントラーズが完全にレッズを凌駕したことは明らかな事実だったのですよ。

 たしかに両チームは、個人的な才能のレベルで差があるというわけじゃない。でも、個のチカラの単純な総計とは別次元の、チーム戦術という「接着剤」によって練り上げたチーム総合力という視点では、アントラーズに分があるということですかね。

 あっと・・またまた分かり難い表現になってしまった。要は、特に攻撃の(それも最終勝負プロセスの)内容で、アントラーズに一日以上の長があったということです。

 アントラーズの仕掛けプロセスでは、ボールがないところでの優れた人の動きと、それをベースに演出されるボールの動きが(選手一人ひとりが描く仕掛けイメージが)とてもスムーズにリンクしているのですよ。

 そして、「それ」をベースに、スルーパスやクロスボールを(決定的)フリーランニングに合わせることで(フリーランニングがパスを呼び込むことで!?)決定的スペースを突いていくだけじゃなく、遠藤康や大迫勇也、後半になって登場した興梠慎三といった個の才能連中が、タイミングよく勝負ドリブル&シュートをブチかましたり、ワンツースリーといったコンビネーションを繰り出していったりと、アントラーズの仕掛けプロセスは変化に富んでいる。

 彼らは、バーを直撃した遠藤康のドリブルシュートや、コンビネーションから抜け出したアレックスの折り返し(余裕ありすぎた田代有三がシュートミス!)、はたまた大迫勇也のドリブルシュートやコーナーキックからのこぼれ球の直接シュート、コーナーキックからの中田浩二のヘディングシュート、興梠慎三のシュート等など、決定的なチャンスを作り出しつづけたのです。

 それに対してレッズ。

 このことは以前から何度も指摘しているのだけれど、今のレッズの攻めが内包する決定的な問題点は、シュートチャンスを作り出す最終勝負プロセスにおいて、ラストパスやコンビネーションで「も」相手守備のウラに広がる決定的スペースを突いていく(そしてシュートを打つ!)という発想が希薄なことです。

 要は、組織パスで最終勝負を仕掛けていくというイメージが決定的に欠けているということ。そして、最終勝負プロセスはドリブルに頼り切るようになってしまう。

 だから、フリーランニング(ボールがないところでの動きの量と質)がアップしない。だから選手は「足許パス」を待つばかりになってしまう。だから、コンビネーションも機能しない。これではアントラーズ守備を怖がらせられるはずもない。

 もちろん原口元気やマルシオ、後半から登場した梅崎司といった個の才能が繰り出すドリブル勝負は危険だし、見せ場ではあるのだけれど、いかんせん「それだけ」というのでは、あまりにも弊害が大きすぎる。

 たとえば、一人が戻り気味にフリーランニングしてタテパスを受ければ、その背後にスペースができるし、そこを、後方からオーバーラップする「3人目」、「4人目」が活用する・・とか、とにかく一人でも、相手ディフェンスの背後に広がる決定的スペースへ(忠実に、そして繰り返し)走り抜けることで、相手守備ブロックの組織を「アンバランス」にし、そこで出来たスペースを使う・・とか・・

 そんな組織プレーのマインドがチーム内で共有できていれば、自然と「人とボールの動き」も活性化するだろうし、ドリブル勝負にしても(相手との一対一の状況を作り出しやすくなるから!)より効果的に仕掛けていけるようになる。

 でも、いまのレッズは、シュートへいくための最終勝負プロセスをドリブル勝負に頼り過ぎている。だから「最前線の動き」が活性化せず、全員が、アクションに入った味方のドリブルを「見るだけ」になってしまっている。

 以前にも書いたけれど、ボールがないところでの動きの量と質に代表される組織プレーのマインド(共通の仕掛けイメージ)をチーム内に浸透させるのは、とても骨の折れる作業なんですよ。そして時間もかかる。

 フォルカー・フィンケ時代は、その組織マインド(コレクティブ・プレーのマインド)が、かなり進化した。でも今は、その積み重ねが、完全に霧散してしまった。

 もう手遅れなのだろうか・・??

 レッズの選手たちが一生懸命にプレーしているのは良く分かるけれど、いかんせん、「そこ」にあるべき共通の(組織パスサッカー的な)勝負イメージが希薄なんだからね。だから最終勝負プロセスも、個人勝負プレーを「ブツ切り」に積み重ねていく・・っちゅうことになってしまう。フ〜〜・・

 とにかく、最終勝負プロセスに入ってからのボールがないところでの人の動きの量と質では、アントラーズに一日以上の長があり、だからこそ、決定的チャンスの量と質でもレッズを凌駕したと考えている筆者なのでありました。

 まだ時差ボケがひどく、昨日も十分に寝られなかった。ということで、とても眠い(実際、書きながら、一瞬気を失ってしまった・・あははっ)。そんなだから、思考の広がりや深さにも支障をきたすのも仕方ないか・・。

 その他にも、アントラーズ、オズワルド・オリヴェイラ監督が指摘した、PKを与えるべきファールの判断基準というテーマや(確かにこの試合でも明らかなPKシーンはあったよね・・)、レッズ、ゼリコ・ペトロヴィッチ監督が会見で述べた、選手たちは一生懸命に努力し、良い結果を残すために全力を尽くしている(彼は選手を誇りに思っている)というテーマなどもあるけれど、今日はここまでで御容赦アレ。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。