湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第30節(2011年10月22日、土曜日)

 

いまのレッズでは、選手同士が強烈に刺激し合うことこそが必要だ!・・(MvsR, 1-2)

 

レビュー
 
 フ〜〜ッ!

 ・・ゼリコ・ペトロヴィッチ・・クラブマネージメントなどなど・・様々なネガティブ現象に対して言いたいことは山ほどあるけれど・・まあ、言っても(この時点では)何もポジティブに進まないだろうから、止めにしよう・・そして今は、この久しぶりの勝利を前向きに捉えよう・・あとは、クラブマネージメントが、様々な意味で「邪魔」しないことを願うだけだね・・

 スミマセンね(特に、木村和司監督・・)、ということで、この試合「も」レッズを中心にコラムを書き進むことを御容赦ください。

 たしかに「今のレッズ」にとっては、結果だけが大事なことはよく分かる。でも私は、ライフワークとして、選手たちの基本的な「プレー姿勢=意志」の内容にも注目するわけです。「それこそ」が、結果を決定的に左右するわけだからね・・

 その視点で、この重要なゲームを闘うレッズが、ネガティブ要素の方が目立つサッカーをやっていたという事実は無視できない。

 マリノスに先制ゴールをブチ込まれた後、徐々にレッズは攻め上がっていった。でもそこには、マリノス守備ブロックを打ち破ってやろうとする意志(気概)が、まったくといっていいほど感じられなかった。

 要は、攻守にわたるボールがないところでの動きの量と質が高揚していかなかったということです。我々(コーチ)の本質的な仕事は、ボールがないところで何が為されているかを正しく評価することです。「そこ」にこそ、サッカーの本質的な「意味」が内包されているわけだからね。

 木村和司監督が言っていたように、先制ゴールを奪った後のマリノスは、全体的に下がり過ぎてしまうという悪い癖が出た。そんな展開では、レッズがボールをキープする時間が増えていくのも当然の成り行きです。

 だから、表面的にはレッズがゲームを支配しているように見える。でも実際には、ボールを「持たされていた」という表現の方が正確だったのです。でも・・

 ところで「ゲーム支配」だけれど、それは、ボールのキープ率が高いだけじゃなく、相手守備ブロックの組織を(振り回し)崩しながらウラのスペースを攻略できて(しっかりとしたシュートチャンスを作り出せて)初めて許される表現なんだよ。だからレッズの場合は、単にボールをキープしていただけという表現になってしまうわけです。

 とにかくレッズは、(ボールがないところでの動きの量と質とも言い換えられる!)サポートの動きが消極的だから、強烈な意志をブチかますようなタテへの仕掛けを、ほとんどといっていいほど繰り出していけなかった。そして、相手守備ブロックの「眼前」でボールをキープするばかり・・

 そんな、慎重に過ぎる(石橋を叩いても渡らない程の!?)後ろ向きの臆病サッカーに、とてもフラストレーションが溜まったものです。

 たしかに、柏木陽介とか山田直輝といった、強烈な意志に支えられた組織プレイヤーは、何とか人とボールの動きを活性化させようと、スペースへ動き回ってタテパスのターゲットになろうとしていた。でも結局は、笛吹けど踊らず・・

 もちろん、レッズが臆病サッカーにはまり込んでしまう背景要因も分かる。とにかく負けられないわけだからね。それでも、あんなサッカーでは、普通だったら、結果も「最悪のドツボにはまる」ものなんだよ。そして結局は、全てを失ってしまう。まあ、この試合ではツキに恵まれたけれど・・

 サッカーは、イレギュラーするボールを足で扱うという、瞬間的に状況が変化してしまう不確実なボールゲームなんですよ。そんな「基本メカニズム」のなかで成功を求めるわけだから、どこかでリスクを冒さなければ「何かを得る」ことなど叶うはずがない。フ〜〜・・

 それでもレッズは、ツキにも恵まれ、勝ち点3をゲットすることに成功した。それは良かった、本当に良かった。でも、このゲームのように、誰もリスクにチャレンジしていかない後ろ向きの消極サッカーでは、やはりギリギリの危機を克服していけないと思う。

 堀孝史監督。

 ・・オレは、監督就任のオファーを受け容れた・・それは、レッズを愛しているからであり、諸君たちと「J1」に残留したいからだ・・それこそが、レッズファンの皆さんの愛情に報いる唯一の道だ・・とにかく(自己保身だけの!?)フロントのことなど放っておこう・・オレは、もし残留がかなわなかったら、もちろんレッズを去る覚悟でチームをテイクオーバーした・・オレが地位に恋々とすることなどあり得ない・・諸君と、最後の最後まで、全力を尽くして闘い、そして結果に対して全責任を負う・・だから、闘わない者は許さない・・それは、我々仲間に対する裏切りでもある・・もし全力で最後まで闘い抜く覚悟のない者は、すぐにこの場から去ってもらう・・などなど・・

 堀孝史監督が、選手を前に、どんな就任挨拶をした(ゲキを飛ばした!?)かは知らない。でも、特に今のレッズをテイクオーバーする指揮官は、選手一人ひとりの自覚と意志を「極限まで高揚」させられなければならないと思う。その意味でも、堀孝史監督には、期待したい。

 そう・・期待・・。でもサ、この日のレッズのサッカーに、まったくといっていいほど覇気が感じられなかったのも確かな事実だったんだよな〜・・

 要は、選手たちのプレーに、「オレが率先して闘うぞ!」という意志の爆発が感じられなかったということ。そこにあったのは、バックパス、横パスといった安全プレーに終始する、「リスクチャレンジはアナタ任せ」というお定まりの無責任サッカー・・

 サッカーは究極のチームゲームだからネ。一人でも、本当に一人でも、全力プレーをサボったら、その「ネガティブ・ヴィールス」が、すぐにでもチーム全体に波及・蔓延し、動きのない足許(安全)サッカーに終始するようになってしまう。

 だからこそ、そんなネガティブ・ヴィールスを感じた次の瞬間には、選手全員が「怒鳴り合う」ような闘う雰囲気が不可欠なんだよ。でもこの日のレッズからは、そんな、互いに?咤激励するような闘う雰囲気は見えてこなかった。

 あっと・・。とはいっても、梅崎司がスーパーミドルをブチ込んだ決勝ゴールからはじまり(誰もが手に汗握った!?)セットプレーを取られたまくった残りの時間帯では、とても集中した守備で、最後の最後まで虎の子を守り切ったよね。それは、素晴らしかった。

 マリノスのセットプレーには、「あのスーパーキッカー」中村俊輔を中心に、キム・クナン(&小兵コンビ!)や栗原勇蔵、中澤佑二といった「強烈な受け手」もいるわけだから、とても危険なんですよ。それでもレッズは、最後の最後まで、しっかりと集中して守り切った。

 私にとっては、そのことこそがポジティブな現象だったし、選手たちにとっても、とても大きな自信リソースになったに違いないと感じていた。

 ということで「まとめ」だけれど、その骨子は、選手一人ひとりの「覚醒と自覚と強烈な意志」しか、このサバイバル状況を生き延びるスベはないという主張かな・・

 本当のトコロ(現場のグラウンド上で何が起きているのか)は良く分からないけれど・・。とにかく、堀孝史監督の手腕に対して期待するというのが全てのスタートラインだよね。でも私は、「それ」だけではなく、選手のなかで「も」互いに刺激し合うことで、覇気(意志)を極限まで高めていく努力が決定的に重要だと思うわけなのです。

 ・・トレーニングでも実際のゲームでも、集中切れの気抜けプレーに対しては、誰もが強烈な「刺激」を飛ばし合う・・そんな雰囲気を醸成することこそが重要・・監督やコーチぱかりに期待するのではなく、選手のなかでも、そのことに対する納得した合意状態を形成するのだ・・

 ・・テメ〜〜、何をやってんだっ!、もっとシンプルにパスを付けろっ!!・・もっと忠実に(ダイナミックに、強烈に)チェイスしろっ!・・フザケルナよ、オマエが最後までマークに付いて戻るんだよっ!・・相手のボールの動きが止まったのに、どうしてサポートに寄ってこないんだっ!・・どうしてスペースへ走らないんだっ!・・止まって足許パスを待つだけじゃなく、オマエがパスをもらうために動いて戻ってこいっ!・・ビビるなっ!、そのままドリブルで勝負しろっ!・・(そしてポジティブな刺激としても)ミスになったけど、あのチャレンジパス(ドリブル勝負)は良かったゼ〜っ!!・・などなど、サッカーだから「刺激」は千差万別・・

 ここで大事なことは、味方に対して文句を言うことは、自分にとっても、大いなるモティベーションになるということです。文句を言ったら、(普通の神経とプライドがあれば!)自分は「それ以上」に闘わざるを得なくなるわけだから・・

 だから、選手同士の「強烈な刺激」こそが・・、言葉を換えれば、そんな相互の刺激が(健康的に!)飛び交うような雰囲気を醸成することこそが、監督の重要な使命だとも思う。

 とにかく、ここまで来たら、互いに責任をなすり合っても自分がバカを見るだけ。全員が、一人の例外もない全員が、自分主体で「闘い抜く強烈な意志をもつ」以外に生き残る道はない。

 選手は、一人ひとりが、強烈なパーソナリティーを秘めた「個人事業主」なのだから・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。