湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第32節(2011年11月19日、土曜日)

 

良かった・・堀孝史は正しい方向へチームを引っ張っている・・(RvsVE, 0-0)

 

レビュー
 
 まあ・・レッズにとっては、悪くない試合だったと思います。あっと・・サッカーの内容というニュアンスも含めてですよ、もちろん・・

 ということで、サッカーの内容に対する評価ニュアンスとして「悪くない・・」っちゅうのは、今日のレッズの出来からすれば、ちょっと失礼な表現かもしれないね。そう、実は今日のレッズは、とても良いサッカーを展開したと思っている筆者なのですよ。

 人とボールの「動き」が格段に活性化した。だからこそ、局面でのドリブル勝負も「より」効果的に仕掛けていけるようになった。そのディスカッションポイントについて、堀孝史監督に、こんなニュアンスの質問をぶつけた。

 「これで堀さんが監督に就任してから4試合目ということになりましたが、そのなかでは、今日の試合はダントツに良い内容だったと思います・・堀さんは、前戦に三人のドリブラーを置きますよね・・これまでの試合では、その三人がボールを持つと、例外なく人とボールの動きが停滞してしまった・・最前線のフタ!?・・それが、今日は、全体的な人とボールの動きがとても良くなっていた・・そんな私の見立ては正しいのでしょうか?」

 堀孝史は、そんな私の問いかけに対し、一つのポイントに絞って、こんなニュアンスのコメントをくれた。

 「たしかに今日は、人とボールの動きは良かったと思う・・ただ、レッズにとっては、ドリブルも大事な持ち味だということも再認識していただきたい・・我々は、その武器も、効果的に活用していかなければならないのですよ・・」

 「そのためにドリブラーは、突破だけではなく(最後のタイミングで!)勝負のパスも出せる勝負のオプションが維持できなければいけません(それこそが、ドリブルの危険度を最大限にアップさせる!)・・だからこそ周りの味方が、忠実にランニング(パスレシーブの動きを)することが重要なのです・・この試合では、そんな周りのランニングが活性化したと思うのですよ・・まあ、走ってもパスが出てこなかったシーンも多かったですが・・」

 堀孝史は、例によって、とても誠実に答えてくれた。どうもありがとうございました。

 とにかく、このゲーム内容で、わたしの心配が(ある程度は)払拭されたことだけは書いておかなければいけません。

 それは、これまでの3試合で見られた(ドリブル突破に頼り切るという低次元のイメージが支配するような!)単調な攻撃がつづくのだったら、本当にJ2に落ちてしまうという心配でした。

 とにかく私は、堀孝史が正しい方向へチームを引っ張ろうとしていることを確信できたのですよ。ちょっとハッピーな感覚になるのも道理だよね。皆さんもそうでしょ!?

 そう・・、テーマは、勝負ドリブルという仕掛け(スイッチ)によって演出されるチャンスシチュエーションを「多面的に活用する」ことなのです。そして、スペースを攻略し、シュートチャンスを演出する仕掛けプロセスの選択肢(オプション)が広がっていく・・

 ・・そのままドリブルで突破できるチカラがあるから(相手もそのことを十二分に意識しているから)こそ相手ディフェンダーの視線と意識を引きつけられる・・だからこそ、「相手ディフェンスの虚を突くラストパス」という最終勝負オプションの効果レベル「も」格段に高いモノになる・・

 もちろん、そんな勝負ドリブルをブチかましていくまでのプロセスでは、しっかりとした組織パスコンビネーションで相手守備ブロックを揺さぶり、スペースを攻略していく。そのことこそが、ドリブル勝負を「より」効果的なモノにするためのキーポイントなのです。

 セルヒオ、原口元気、梅崎司・・。このゲームでの彼ら(スーパードリブラー連中)は、中央ゾーンのクリエイティブコンビ、柏木陽介とマルシオが主導するコレクティブ(協力作業としての)人とボールの動きの流れに、しっかりと意識して乗っていた。

 そんな「コレクティブな流れ」のなかで演出する、ポンポンポ〜ンという軽快な人とボールの動きからは、以前のような鈍重な雰囲気はまったく感じられなかった。もちろん選手たちにとっても、そんな「軽快な動き」は、とても心地いいモノだったに違いない。

 パスを受けても、すぐにドリブルに入っていくのではなく、相手のプレッシャーや守備ポジショニングバランスをしっかりと意識するなかで、シンプルにパスを回して次のスペースへ全力スプリントしたり、忠実なパス&ムーブを繰り出すことで勝負のコンビネーションをリードしたり・・フムフム・・

 堀孝史は、強い意志をもって、組織と個が高い次元でバランスするような「組織サッカーイメージ」を浸透させようとしている。そのことを体感しただけではなく、彼自身からも言質を取ることができて、ちょっとハッピーに「ホッ」としている筆者でした。

 とはいっても、次週にアウェーで対戦するアビスパは難敵だよ。彼らだってプロ。自分たちの目の前で相手の歓喜を見たくはないでしょ。それに今節の彼らは、アウェーで、山形を「0-5」で葬り去ってしまったんだぜ。とにかく気を引き締めましょう。

 最後に、ヴェガルタの手倉森誠監督との対話。

 「手倉森さんには、チャンスがあったら是非聞いてみたいことがあったんですよ・・それは守備・・いまのベガルタは、失点でダントツのトップですよね・・いまパッと考えられて、そのもっとも重要な要因は何だと思いますか?」

 そんな私の質問に、手倉森誠監督は、即座に、こんなニュアンスの内容をコメントしてくれた。

 ・・J2から上がってきたことで、「まだ」謙虚さがある・・それに、負けたくないという意志も重要なバックボーンだ・・要は、点を取られさえしなければ負けないという意識がチーム全体に強く浸透しているということだ・・また、東北地方を襲った震災という要素もある・・簡単に言ってしまえば、震災にも負けない・・そんな我々の、負けたくないメンタリティーが背景にあると思う・・それが、チーム全体の守備意識を高めている・・

 素晴らしいコメントだね。良いプロコーチだ。彼は、サッカーが本物の心理ゲームだというメカニズムを深く理解している。

 ・・不確実なサッカー・・最終的には、選手一人一人の意志でリスクにもチャレンジしていかなければならない・・また、基本的には受け身の守備は、やり方によっては、それを限りなく能動的なモノへと進化させられる・・

 彼らの守備を観ていて最初に感じたのは、ウェイティングと「行くところ」のメリハリが抜群だということです。

 ・・あくまでも落ち着いてポジショニングバランスを取り、忠実なチェイス&チェックをつづけるベガルタ・・そして、爆発チェイスなど、自分たちから仕掛けていく場面や、ワンツーコンビネーションなど、相手の攻撃にスイッチが入った場面では、まさに「爆発的」な勢いで、有機的に連鎖するアクションをブチかましていく・・もちろんボールがないところでの全力マーキングは言うまでもない(それこそが強烈な意志の発露!?)・・

 とかにく彼らの守備の辞書には、諦めるという言葉は存在しない。どんなチームでも、彼らのスペースを攻略するのは至難のワザだ。フムフム・・

 今日はこんなところです。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。