湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第17節(2012年7月7日、土曜日)

 

両チームの「ゲーム戦術」が、ガップリ四つに組み合った勝負マッチだった・・(RSvsGR、 1-2)

 

レビュー
 
 試合の前日、レイソルのネルシーニョ監督が、下記のようなニュアンスの内容をコメントしていたとか。曰く・・

 ・・グランパスとは、いつも、高いレベルの競り合いになる・・空中戦は、グランパス得意とするところ・・でも我々も、ハイボールやロングボールへの対処 など、今年のACLで、相手の高さを効果的に抑える経験を積めた・・リーグの上位チームはダンゴ状態・・誰もが勝ち点3を狙っている・・もちろん我々もそ うだ・・

 また試合後の記者会見では、ピクシーが、「レイソルのカウンターを効果的に抑えられたし、エースのレアンドロ・ドミンゲスも無力化できた・・ゲームの内容からすれば、我々の順当勝ちだと思う・・」なんていうニュアンスの内容をコメントしていたっけね。

 だから両チームの監督さんに聞いた。まずピクシー・・

 ・・おっしゃるように、グランパスは、多くの時間帯でイニシアチブを握った・・また、両サイドを起点に危険な攻撃を仕掛けたし、何度か決定的なチャンス も演出した・・ただ逆に、レイソルも(イニシアチブを握られながらも)少なくとも3回は、いま監督が抑えたと言われたレアンドロ・ドミンゲスを中心とした (ショート)カウンターで決定的チャンスを作り出した・・「そのコト」についてコメントいただけませんか?・・

 それに対するピクシーの(こんなニュアンスの)コメントが秀逸だった。サスガに、百戦錬磨の強者だ。味がある。曰く・・

 ・・そう、たしかにレアンドロ・ドミンゲスにもチャンスを作られたし、サイドを崩された(ゴールラインに平行に送りこまれる!)トラバースクロスからもピンチに陥った(わずかに田中順也の足が届かなかった絶対的チャンス!)・・

 ・・でもサ、オレ達がやってるのはサッカーなんだぜ・・100パーセントのパーフェクション(完全性)なんてあり得ない・・95パーセントは完全にゲー ムを掌握したって、残りの5パーセントでは綻(ほころ)びが出る・・それがサッカーなんだよ・・我々にだって、ケネディの100パーセントチャンスがあっ たわけだからな・・それがサッカーなんだ・・

 次にネルシーニョ監督にも、こんなニュアンスの質問を投げた。

 ・・まさに、(このコラムの冒頭で紹介した)昨日の監督のコメントどおりのゲーム展開になったわけですが、グランパスの高さやサイドからの仕掛けを、ど のくらい効果的に抑えられたとお考えですか・・先ほどピクシーは、レアンドロ・ドミンゲスを完璧に抑え込んだぞっ!って胸を張っていたんですが・・

 こちら(ネルシーニョ)も、「サスガ、勝負師!!」っちゅう内容をコメントしてくれた。そのニュアンスは、こんな感じ・・

 ・・グランパスは、ある意味で「特化」した強みをもっていると言えるよな・・それは、高さやサイドゾーンからの仕掛け・・全体を通して分析すれば、うま く抑えられたトコロもあったし、逆に、やられたトコロもあった・・特に、ハイボールを送りこまれ、「高さ」に負けて落とされたボールを、全て抑え込むのは 難しかった・・

 ・・でも、グランパスの2点目(決勝ゴール)はオレ達のオウンゴールだったろ!?・・まあ、全体として観たら、オレ達は、グランパスの「高さ」を効果的 に抑制したって言えるんじゃないか!?・・彼らに、一発ヘディング勝負のチャンスを簡単にゃ作らせなかったわけだから・・上手くいったトコロもあるし、や られたトコロもあった・・まあ、それがサッカーなんだよ・・(この最後の部分は、筆者の創作・・アハハッ)・・

 要は、このゲームは、両監督の思惑(ゲーム戦術)が、ガップリ四つに組み合った勝負マッチだったっちゅうことです。その視点でも、とても興味深い学習機会ではありました。

 うまくいったトコロもあるし、やられてしまったトコロもあった・・。両監督が、図らずも口にした「同根」のニュアンスだったわけだけれど、そこには、「そう・・それがサッカーなんだよ」っちゅう深〜い哲学的な意味合いも内包されている。

 監督は、次の試合では、この試合の内容と、次の相手の強みと弱みを正確に分析するなかで、「うまくいったトコロ」を増やし、「やられてしまったトコロ」を減らすことに全力を傾注する。

 それも、イレギュラーするボールを足で扱うサッカーだから、100パーセントの完璧はない・・という事実を大前提にしながらも、そのパーフェクション(完全性)を志向する(選手たちに志向させる!)・・のです。

 100パーセントじゃなかったけれど、まあ・・と、「ある程度」満足してしまったら、そこで進化が止まってしまうわけだから・・

 ということで、監督さんは、対外的には、ミスもあるし100パーセントの完璧なんて無理さっちゅう「サッカーの論理的な前提」をベースに話し、チームの 内部的には、とことん「完璧」を追求する・・っちゅう、二枚舌的な「したたかさ」も備えていなきゃいけないのです。あははっ・・

 とにかく、誰もが、口々に「面白かったナ〜」なんて話し合うほどエキサイティングな勝負マッチだった。もちろんレイソル関係の人々の表情からは悔しさが伺えたけれどネ。

 最後に、両チームの戦術的なテーマで気付いたところを簡単に・・

 グランパスでは、中盤のアンカーであるダニルソンを「重心」に、その前で動き回るカルテット(藤本淳吾、大川佳純、永井謙佑、そして金崎夢生の4人組)が、攻守にわたって、とても素敵なハーモニーを奏でていたね。

 ダニルソンが上がれば、藤本淳吾と大川佳純が効果的にカバーする・・とかネ。でも、永井謙佑(右サイド)と金崎夢生(左サイド)は、ともに、出来るかぎり「自分たちの」サイドゾーンを効果的に活用するというイメージでプレーしていた。

 要は、この両サイドハーフは、両サイドバックとタテのポジションチェンジも含め、それぞれのサイドゾーンの攻略に集中していたということです。その機能性が、このところ良くなってきているっちゅうことなんだろうね。

 この試合でも、何回か、効果的なサイド(コンビネーション)攻撃から、そのまま危険なクロスボールを送りこんだり、センターゾーンへ入り込んでドリブルシュートをブチかましたりしていた。

 対するレイソルも、例によっての、攻守にわたる高質な組織サッカーから、レアンドロ・ドミンゲスやジョルジ・ワグネルが個の勝負プレーをミックスしてい くという危険な仕掛けを魅せてくれたけれど、どうも、先発した水野晃樹が気になった。攻守にわたって、十分に「仕事を探せない」。レイソルの前半の出来が 良くなかった大きな原因になっていた・・と思う。

 そんな前半に対し、工藤壮人や田中順也が入った後半は、サッカー内容が好転していった。そして、交替出場した日本選手が動き回る(組織コンビネーション が回りつづける)なかで、レアンドロ・ドミンゲスとジョルジ・ワグネルの「個人勝負プレー」が炸裂するのですよ。でも、結局は前半のレアンドロ・ドミンゲ スのヘディングシュートしか決めきれなかった。

 たしかに、グランパスがゲームの流れのイニシアチブを握る時間帯の方が多かったけれど、実質的な内容は、まあ、互角。だから、両チームの「ゲーム戦術」が、ガップリ四つに組み合った勝負マッチだった・・っちゅうことです。


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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