湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第23節(2012年8月25日、土曜日)

 

私は、風間八宏のチャレンジを支持しますよ・・(フロンターレvsグランパス、 0-1)

 

レビュー
 
 試合後の、フロンターレ風間八宏監督は、かなり落胆していたように見えた。

 そりゃ、「あんな内容と結果」のゲームだったから、よく分かる。シュートの総数だけじゃなく、実質的なチャンスの量と質でも、フロンターレが凌駕していたんだからね。それでも・・

 そう、最後は、グランパスが徹底的に追求した「勝つことを最優先するゲーム戦術」が結果を出したんだ。

 ピクシーも、勝つことを徹底的に追求するサッカーをやった・・と、正直に、こんなニュアンスの内容をコメントしていたっけ。曰く・・

 ・・たしかに難しいゲームだった・・でも、プランした通りのサッカーで勝ち点3を奪えたことは良かった・・今日は、本当に、やりたい(やらなければなら なかった!?)サッカーを徹底できたと思う・・それは、戦術的にとても優れたサッカーができたという意味だ・・勝利を目指したゲーム戦術・・それがうまく 機能したんだ・・もちろん最前線の選手たちも、自己犠牲の積極ディフェンスをやったからね・・今日は、本当に勝ちたかったんだ・・

 また、私や他の方たちの質問に対して、こんなニュアンスの内容もコメントしていたね・・

 ・・前回のフロンターレとの対戦では、ホームで負けた・・だから今日はリベンジ・・とにかく、しっかりと勝つことが唯一のターゲットだった・・美しさと 勝負強さがバランスするサッカー??・・そりゃ、オレだって、美しく勝ちたいよ・・でも、主力がこんなに欠けていたら、そう簡単にはいかない・・前節のガ ンバ戦でも、内容は良かったけれど、結局は、大敗を喫してしまった(ホームでの屈辱の0-5)・・だから今日は、とにかく勝つことを具体的なターゲットに 試合に臨んだんだ・・

 ・・フムフム・・

 それに対して、フロンターレ風間八宏監督は、落胆の表情を浮かべながらも、こんなニュアンスの内容をコメントしていた。曰く・・

 ・・本当に残念なゲームを落としてしまった・・その一言に尽きる・・これ以上のゲーム(チャンス)を作るのは難しい・・そのチャンスを決めることが出来ていれば(このタラレバが、彼の落胆を象徴していた!?)・・

 ・・チャンスをゴールにつなげる決定力に問題があったのかって!?・・私は、心理的なニュアンスが強い決定力というテーマを追求するよりも、とにかく、もっと多くチャンスを作り出すことに専心したい・・チャンスが増えれば、おのずからゴールも増えてくるはずだから・・

 さすがに風間八宏。自分が志向する「理想イメージ」を徹底的に追求する強烈な「意志のパワー」をビンビンと放散させていた。いいね・・

 今日のゲームだけれど、たしかに負けはしたけれど、内容的には(風間八宏自身も言っていたように!)とても良くなっていると思う。

 とにかく、フロンターレが魅せつづけた素早いボールの動きと『そのリズム』は、本当に魅力的だし、とても実効レベルが高い。

 チーム全体が、「そのサッカーイメージ」で統一されていることを強く感じる。だからこそ、誰もが、次のパスを期待して「動ける」し、ボールホルダーも、 「ボールを離すリズム」を強烈に意識する。そんなだから、その実効レベルが格段に向上するのも道理。いや、もっともっと良くなる可能性を秘めているとも感 じた。

 風間八宏監督は、ハーフタイムに、こんな指示を出したらしい。

 ・・足許を意識して、出して動く、出して動くというアクションを繰り返そう・・

 もちろん、彼が言う足許パスは、止まっているヤツの足許を言っているんじゃないよ。とにかく、パス&ムーブを、ものすごく意識させている。だからこそ、トントント〜ンという、ワントラップやダイレクトのコンビネーションが回りつづけるんだ。

 つまり、ここで言う「足許パス」とは、スペースへ動いた味方の足許へ「正確なパス」を出す・・という意味なんだよ。それこそが、スペースの攻略を意味するわけだ。

 そんな風に、フロンターレは、何度も、(ゲーム戦術を徹底しようとする)グランパス守備ブロックを振り回し、そのウラの決定的スペースを攻略した。

 そんなだから、フロンターレが、決定的チャンスを多く作り出せたのも道理。わたしは、そんなゲームの流れを楽しんでいたから、唐突に生まれたグランパスの決勝ゴールに、ズッ転(こ)けてしまった。

 わたしも、内容的にも、フロンターレが勝つべきだと思っていたんだ。それも、美しくね・・

 全てのサッカーコーチの理想は、美しく勝つこと。そう、組織と個がハイレベルでバランスする美しいサッカー内容と、強烈な勝負強さの「両面」を兼ね備えるという普遍的なテーマのことです。フ〜〜・・

 でもネ、わたしの質問に風間八宏監督も微笑みながら頷いていたけれど、そんな究極の組織パスコンビネーションサッカーが成功した例は希なんだよ。

 ドイツでも、何人ものサッカーコーチが、志半ばで打ちひしがれたっけね。わたしの友人も、そのうちの一人。それでも彼は、決して諦めずに、ボールを動かすサッカーを追求しつづけた。

 相手ディフェンスの視線と意識を「動きつづけるボール」に釘付けにし、次の瞬間に、勝負のタテパスが(守備のイメージを超越したタイミングの!)勝負パ スコンビネーションがブチかまされる。その快感は、成功した者にしか分からない。わたしは、何人か、そんな数少ないサッカーコーチを知っている。

 このサッカーでは、とにかく「人数」が必要なんだよ。だから、「前後」の、人数やポジショニングのバランスが崩れやすい。

 風間八宏監督は、そのメカニズムをよく知っている。だから、常に三人は、後方に残すようにしているね。そして、相手が下がったら、状況に応じ、その人数を二人にし、もう一人が組織サッカーに加わっていったりする。

 そんな「リスク・マネージメント」も、うまく機能しはじめている。だから、風間八宏が就任した当時の「大量失点」はなくなったよね。

 私は、風間八宏のチャレンジを支持しますよ。とにかく、リーグを活性化させられるかもしれない大きなポテンシャルを秘めた(!?)毛色の変わった「魅力的サッカー」にトライしているのは彼しかいないわけだからね。

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 さて、これで(・・いや、この後レッズの試合をビデオ観戦し、そのコラムも書きますが!)わたしのHPはしばらく休止ということになります。

 明日から海外へ2週間ほど出掛けなければいけなくなったのですよ。ということで、次のコラムは、日本代表のワールドカップ予選(イラク戦)ですかね。それでは、また〜〜・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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