湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第32節(2012年11月17日、土曜日)

 

浦和レッズ・・久しぶりに、良い内容に結果もついてきた・・(レッズvsサンフレッチェ、2-0)

 

レビュー
 
 いや、久しぶりに面白いゲームだった。まったく眠くならなかった。あっ・・不謹慎・・スミマセン・・

 興味深いゲームになった主なバックボーンは、何といっても「色々なゲーム内容の揺動」にあったと思います。まあ、変化に富んだ勝負マッチだった・・っちゅうことだね。

 その最たるモノが、前半と後半では、まったくゲーム内容が変わったこと。

 まず、前半。

 たしかに、(リーグ優勝を意識して!?)ちょっと硬くなったサンフレッチェだったけれど、わたしは、それでも「彼ら独特」の強さはみせつけたと思っています。

 まず何といっても、素晴らしい組織ディフェンスに注目しなきゃいけない。

 そこでは、チェイス&チェックやトラップの瞬間を狙うアタックなど、さまざまな守備プレー(ボールを奪い返すプロセスイメージ)が、とてもハイレベルにシンクロしつづけるんだよ。

 そして、ミハイロ・ペトロヴィッチも言っていたように、そんな強固なディフェンスブロックを基盤に、攻撃となったら、フッ切れたマインドで、とても危険なカウンターや組織オフェンスを仕掛けていく。

 その中心は、もちろん「ザ・ヒロシマ」。

 一発勝負のタテパスと、佐藤寿人を中心としたパスレシーバーのウラスペースへの走り抜けが見事にシンクロする「ザ・ヒロシマ」。それには、レッズ守備が、強烈に「ザ・ヒロシマ」を意識していたとしても、完全に阻止できないほどの勢いが込められている。

 それだけじゃなく、「組み立て」からの攻撃も、明らかにレッズを上回っていた。

 ワン・ツー・スリーというコンビネーションの切れ味は、まさにゾーリンゲン(チト古い!?)。

 とにかく彼らは、パス&ムーブを、忠実に、そして爆発的に繰り返すんだ。そして、ボールがないところでの「勝負の動き」のイメージを正確にシェア出来ているからこそ、ボールホルダー(次のパスレシーバー)も、迷いのない勝負パス(スペースパス)を送り込める。

 また、サイドからの仕掛けも危険この上ない。前半だけでも、2本は、クロスからの決定的なチャンスメイクがあったね。

 一つは、右サイドから、ファーサイドに走り込む佐藤寿人へ正確なクロスボールが合わされたシーン。もう一つは、左サイドから、レッズゴールのニアポスト スペースへ走り込む(これまた!)佐藤寿人にピタリと合わされた決定的クロスシーン。どちらも、とても危険なニオイを放っていた。

 そんなサンフレッチェに対し、全体的には、より多くボールをキープしているように見えるレッズだったけれど、その仕掛けは、まさに鈍重そのものだった。

 前節、フロンターレ戦のコラムでも書いたけれど、誰も、サンフレッチェ最終ラインのウラに広がる決定的スペーへ「抜け出して」いかないんだよ。だから、どうしても、ボールの動きが単調になってしまう。

 要は、サンフレッチェ守備ブロックの「眼前ゾーン」でしか、仕掛けの動きが出てこないっちゅう体たらくなんだ。これじゃ、サンフレッチェ守備だって怖くないし、余裕をもって次のボールの動きを予測し、正確にボール奪取をイメージできるでしょ。

 ことほど左様に、全体的な(表面的な!?)ゲームの動きとは関係なく、深層における「本当の勝負の流れ」は、徐々にサンフレッチェへと偏っていったというわけです。

 でも、そこはサッカー。実質的なゲームの流れとは関係のない次元でコトが起きちゃうんだよ。それは、サンフレッチェが、ゲームの実質的なペースを握りはじめてから10分くらい過ぎた前半41のことでした。

 そのとき、何か、サンフレッチェの組織的な守備アクションが止まったように感じられた。

 ボールを持った鈴木啓太が、前のスペースへドリブルで上がっていったシーンのことだよ。そして鈴木啓太が、余裕をもって、最前線の右サイドでタテへ抜け 出そうとしていた梅崎司の前方スペースへ、まさに測ったようなタイミングとコースの決定的スルーパスを送り込んだんだよ。

 相手ディフェンスのプレッシャーを抑えるようにブチかました梅崎司のシュートも見事だったけれど、この先制ゴールでは、何といっても、鈴木啓太のラストスルーパスが秀逸だったね。

 鈴木啓太は、前節でも、ゴールにつながる素晴らしいスルーパスを決めたし、この試合じゃ、その後半に、相手ディフェンスの中央をブッちぎってドリブルシュートまで決めちゃった。

 かなり純度の高い、クリエイティブな組織(汗かき)プレイヤーだからこそ、そんな鈴木啓太の派手な活躍に対して、心の底からの(素直な)称賛の感情が湧き上がってきた。

 あっと・・先制ゴールシーン。そこでは、サンフレッチェ守備の「一瞬の気抜け」という現象も特筆かもしれない。あれほど高い集中力をキープしていたサンフレッチェが、まさに一瞬・・。フン・・まあ、それもサッカーっちゅうことだね。

 ところで、鈍重だった前半のレッズの攻撃。

 ミハイロ・ペトロヴィッチが、ハーフタイムに、「もっとスペースへの飛び出しを意識しろ!」と活を入れたとか。彼もまた、前半の攻撃に・・、特に最前線のボールがないところでの動きの量と質に不満だったんだろうね。

 最前線の動きが(もっと!)活性化すれば、おのずとスペースが生まれ、後方からのオーバーラップの勢いもアップするってなもんだ。

 最前線がウラの決定的スペースへ走り抜けたっていい。そうすれば、必ずヴァイタルゾーン(相手ペナルティエリアのセンター外側の際)にスペースが出来るからね。

 また、最前線が戻ってボールを受けたら、その背後にスペースが出来る。でも前半は、そんな活発な動きは限定的だった。

 そう、サッカーでは、ボールがないところでの動きの量と質こそが生命線なんだよ。

 キーワード・・。「勝負は、ボールがないところで決まる・・」とか、「クリエイティブな無駄走りこそが、本物の創造性をアップさせる・・」とかサ。

 あっと・・、ということで後半。

 もちろんサンフレッチェは、より積極的に攻め上がっていく。当然「それ」は、守備ブロックを「少し開ける」ことを意味する。

 とはいっても、決してレッズは、リトリートして(全体的に下がって!)守備ブロックを厚くしたわけじゃない。そこがミソなんだ。

 そんなだから、ゲームが、俄然エキサイティングなモノへと成長していくのも道理だった。そう、本物のガチンコ勝負。まさに、意地と意地がせめぎ合う「動的な均衡」状態ってな具合。

 そんなダイナミックなゲーム展開を観ながら、「そうそう・・ゲームがオープンな仕掛け合いになったら、やっぱりレッズは強いよな・・」なんて思っていた。

 もちろん、リードされているサンフレッチェの方が、より積極的に攻め上がっていく。

 でも、レッズも負けじと、強烈な勢いのサンフレッチェ攻撃(サイドからのクロス攻撃や、素晴らしいリズムのコンビネーション等など)を、ギリギリのところで抑え込み、必殺のカウンターをブチかましたり、全体的に押し返していくなど、逞しさも魅せたんだ。

 そんな「シーソー状態」が、とても興味深かった。

 とにかく、下がって守ったら、多くのケースで守り切れず、後足が悪いだけの結果に落ち込んじゃうのがオチだからね。そんなこともあって、最後の最後まで「押し返す強い意志」を魅せたレッズに、拍手していたっちゅうわけさ。

 鈴木啓太の追加ゴールも、そんな流れのなかから生まれたっけね。その後は、サンフレッチェも、何度か決定的シュートを放ったし、レッズも決定機を作り出した。

 たしかに「チャンスの量」はサンフレッチェが勝っていたけれど、レッズも(カウンターだけじゃなく!)全体的に押し上げ、何度も組織的な攻撃を仕掛けていったんだよ。

 とても、とてもハイレベルなエキサイティングマッチではありました。あ〜、面白かった。

 ということで、リーグもあと2試合を残すだけとなった。そして、「ACLへのキップ争い」も、降格リーグも、俄然ヒートアップしていく。とにかく、残り2週間、お互い、とことんサッカーを堪能しましょう。

 あっと・・明日は、「J1昇格プレーオフ」があったっけ。わたしは、横浜FC対ジェフ千葉を観戦する予定。


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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