湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第4節(2012年3月31日、土曜日)

 

とても面白いテーマに注目しました・・また矢島慎也についても・・(RvsFR、1-1)

 

レビュー
 
 いや、ホント、二人も退場者を出したのに、レッズはよく引き分けに持ち込んだ・・

 だから、フロンターレの相馬直樹監督に聞いた。

 「レッズに二人の退場者が出た・・いま相馬さんは(勝ち切るチャンスだったにもかかわらず!?)決勝ゴールを奪えなかったのは残念だと言われた・・わたしも、そう思う・・だから聞きますが、それならば何故(フロンターレ攻撃のときに)後方に、そこにいる必要のない選手が一人、二人と余ってしまうような状況が見受けられたのでしょうか?・・もっと、ゴール前に人数を掛けていけば・・例えば、こぼれ球を狙う要員が増えるという意味合いも含めて、もっと効果的なチャンスメイクが出来たと思うのだが・・」

 「最後の時間帯には、ジェシに上がれと指示を出した・・ただ、結局その指示をうまく徹底させられなかった・・それは残念だったが、おっしゃるように人数をかけたとしても、うまくいくとは限らない・・わたしは、前の人数を増やすよりは、慌てずに、しっかりとボールをキープして組み立て、サイドのゾーンから(数的に優位なカタチを作り出して!?)崩していく方が効果的だと思った・・ただ結局は、仕掛けを急ぎすぎた等でパワーダウンしてしまったわけだが・・」

 相馬直樹監督は、例によって誠実に、そんなニュアンスの内容をコメントしてくれた。フムフム・・

 この試合は、とても興味深いゲーム展開(game development)だった。

 立ち上がりは、皆さんも観られたとおり、フロンターレがゲームを支配した。強烈な「意志」をブチかます積極的なプレッシングサッカー。でもフロンターレが、そんなポジティブな流れのなかから決定的チャンスを作り出したかといったら、そうでもなかったよね。

 そして、5分もしたら、今度はレッズが、ペースアップしながら押し返していくのですよ。徐々に・・

 そんなゲームの流れは、いまのレッズの典型的な「ゲーム展開イメージ」なのかもしれない。ミハイロ・ペトロヴィッチも(わたしの質問に応え)ゲーム戦術イメージとして、(阿部勇樹や槙野智章が、あまりサポートに上がっていかなかったことも含めて!?)立ち上がりは慎重に・・という指示を出したと言っていたっけ。

 そしてレッズは、フロンターレのパワフルなプレッシングサッカーを受け止め、徐々に(より人数を掛けていくことで!)押し上げていったというわけです。

 私は、そんなゲームのなかでの成長プロセスにこそ、いま彼らが取り組んでいる(志向する)組織サッカーのエッセンス(成長を支えるモティベーション)が内包されている・・と感じていました。

 その時間帯における(レッズの)成長プロセス。わたしは、期待も込めて、心から楽しんでいた。でも、そんなタイミングで、レッズが先制ゴールをブチ込んでしまうのですよ。前半9分のこと。

 「プロセス」を楽しんでいたから、実は、ちょっと心残りでもあったネ。何せ、様々な「エネルギー」を内包するゴールは、サッカーを構成する要素を一変させちゃうわけだから・・

 その先制ゴールは、ホントに目の覚めるようなスーパーゴールだった。梅崎司の爆発ドリブル突破&(超正確な!)高速クロス。そして最後は、これしかないというタイミングに飛び込んだ「ポポヘッド!」。鳥肌が立った。

 でもサ、そのゴールで、徐々にペースアップする成長プロセスに乗っていたレッズ選手たちの「プレーイメージ」が、ガラリと変容しちゃうんだよ。リードしたからことで、「より」慎重になったっちゅうのかな〜・・

 もちろん失点したフロンターレは「勢い」を増幅させていく。それに対してレッズは、ゲーム立ち上がりのような慎重姿勢のプレーに「戻って」しまうのです。

 ここからが、このコラムのテーマということになりますかね。プレーのイメージが「落ち着いてしまったところ」から、再びペースアップしていくのは容易じゃない・・というテーマ。

 ミハイロ・ペトロヴィッチは、ハーフタイムに、決して守りに入るな!・・もう一点取りにいけ!・・とゲキを飛ばしたということだけれど、いかんせん、いまのレッズでは、(まだ!?)グラウンド上のシーダーシップが希薄だよね。わたしは、阿部勇樹に期待しているんだけれど・・

 とにかく、後半のレッズ選手たちのプレー姿勢は、まさに「守りに入って」いたのです。たしかに、ボールがないところでの汗かきアクションの量と質も含めて(!)守備は質実剛健だった。だから、フロンターレも、簡単にはチャンスを作り出せなかった。

 でもレッズ選手たちのプレー姿勢は、そんな「雰囲気」に乗ってしまったんだろうね、どうも、だんだんと受け身になっていったと感じられた。

 たしかに(前半でも、後半にも)カウンターの流れに乗った梅崎司のスーパードリブル突破を起点に、二度、三度と、誰もが息を呑む決定機を作り出した。でも私の目には、そんな危険なカウンターも、どちらかといったら「偶発的な現象」に映っていた。

 そこでは、「次」の効果的カウンターを繰り出すことを明確にイメージして「ボール奪取勝負」を仕掛けていくのとは違う、ちょっと「下がり気味」の雰囲気が蔓延していたと感じられたのです。だから、カウンターを意図した積極的なディフェンス・・とは、基本的に様相を異にしていた。

 まあ、平たく言ったら、フロンターレの攻撃に対して自信(過信!?)を持ちはじめたレッズ選手たちのなかに、あんな攻撃だったら、もうダイジョウブ・・守りきれる・・なんていう安易な雰囲気が蔓延していたっちゅうことです。

 でも、後半13分。そのフロンターレに、同点ゴールを決められちゃう。それは、偶発的なモノじゃなく、明らかに必然的な失点でした。

 そしてレッズが、前述したように、「そこ」から十分にペースアップしていけないという心理的な「ドツボ」にはまってしまったっちゅうわけです。

 「全体的な勢い」でフロンターレに押されているわけだからね、十分な余裕を持てなくなっていた(!?)阿部勇樹と槙野智章が、二度もつづけてファールを冒してしまうのも、まあ・・必然だったのかもしれないね。

 ことほど左様に、私にとってこのゲームの「展開プロセス」は、ものすごく興味深いモノだったということが言いたかった筆者でした。

 最後に、若武者、矢島慎也についても一言。

 たしかに才能はある。でも、今日のパフォーマンスには、正直、とても落胆させられた。

 私が言っているのは、もちろん「意志の内実」。

 その量と質を推し量るのにもっとも相応しいのは、もちろん、攻守にわたるボールがないところでのアクションの量と質です。要は、チェイス&チェックとか、パスを呼び込む全力(爆発)フリーランニングといった、究極の(汗かき)チームプレーの量と質のことです。

 正直、矢島慎也のプレー姿勢(意志の内実)には、腹まで立てていた。

 あれ程の才能に恵まれた若者なのに、サッカーにおいてもっとも重要なボールがないところでのアクションの量と質に問題を抱えている・・それって、日本サッカーにとっての大きなマイナスじゃありませんか・・少なくとも「闘う姿勢」だけは誰にも負けないという自負を持たなければ、絶対にプロ選手として大成しない・・

 要は、意志の内実。繰り返しになるけれど、彼の才能を考えれば、いまの彼のプレー内容には全くなっとく出来ないし、本当に「惜しい」と思う。

 とにかく、これからも矢島慎也のプレー内容(進化プロセス)に注目しよう。「そこ」にも、ミハイロ・ペトロヴィッチのウデ(ストロング・ハンド)が明確に見えてくるはず。期待してまっせ・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。