湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第8節(2012年4月28日、土曜日)

 

得意の速攻を炸裂させたサンフレッチェ・・順当な勝利を収めたレッズ・・(FRvsSA、1-4)(GRvsR、1-2)

 

レビュー
 
 「我々は攻撃的なサッカーを志向し、それを最後までやり抜いた・・気温が高くタフなゲームになったが、最後は4点も奪うことができた・・また守備でも、粘り強くプレーした・・」

 サンフレッチェ、森保一監督が、記者会見で、そんなニュアンスの内容をコメントしていたっけ。

 でもさ、そのコメントを聞きながら、「エッ!?・・攻撃的なサッカー!?・・」なんて、頓狂な(小さな!)声が口をついた。

要は、攻撃的・・という表現に違和感を覚えたのですよ。サンフレッチェは、はじめから圧倒的にボール(ゲームの流れ)を支配し、フロンターレ守備ブロックをズタズタに切り裂いたわけじゃなかったからね。

 たしかに、チャンスの量と質からすれば、「2-8」という大差になってもおかしくない試合だった。サンフレッチェが8ゴールを叩き込んでもおかしくなかったっちゅうことだよ。

 近頃の「J」のゲームじゃ、とても希有な感覚に包まれるような内容になった。それは、もちろん、両チームの「サッカーのやり方」に因るわけです。

 風間八宏監督の「J・デビューマッチ」になったこの試合、彼は、試合前から、マイボールを大事にするサッカー・・というキーワードを発信していたらしい。

 要は、自チーム内で、しっかりとボールを保持・キープし、そこから組み立ててチャンスを作り出す(スペースを攻略し、シュートチャンスを作り出す・・)っちゅうイメージでしょ。

 自チームで『余裕をもって』ボールを保持・キープできるのだったら、もちろん、相手守備ブロックだって振り回すことが出来るはずだし、自ら(自分たちが主体になって)作り出したスペースを、3人目、4人目のフリーランニングも絡んでいくような組織コンビネーションや勝負ドリブルで突いていくことだって可能だよね。そう、バルセロナのように・・

 でもこの試合では、その発想が、まったく機能しなかった(実現できなかった)。

 とはいっても、試合の途中から、志向する「サッカーのやり方」を柔軟に変えるのは至難のワザ。また、とても有名で注目度の高い新任監督、風間八宏が宣言したわけだからね。その意志に(ある意味)逆行するような安定志向のサッカーへ転換を図れるわけがなかった。

 ということでフロンターレは、ゲームドミネーション(ゲーム支配)を目指して、チーム一丸となってしっかりと押し上げ(人数をかけ)ていったっちゅうわけです。そう、選手全員のプレーイメージが、完全に「前のめり」になっていたっちゅうことです。

 それに対してサンフレッチェは、例によっての、ダイナミックな組織ディフェンス(組織的なボール奪取プロセス)を魅せつづける。ちょっと、訳の分からない表現ですね・・スミマセン。

 要は、サンフレッチェが、素早い攻守の切り替えを絶対的ベースに、しっかりと機能する守備ブロックを(すぐに!!)組んじゃうっちゅうことです。まあ、戻りが早いとか、守備ブロックを、柔軟に、そして素早く組織しちゃう・・なんて表現もあるよね。

 でも、決して、全体的に下がって(リトリートして)後方でディフェンスブロックを組織するということじゃないよ。彼らは、あくまでも、「なるべく前」でボールを奪いかえすというイメージで守備ブロックを機能させつづけるんだ。

 彼らの守備では、最終ラインを積極的にコントロールしながら(積極的に押し上げることで全体をコンパクトにする!)相手にタテパスを出させるというポジショニングを取るんですよ。ホント、とてもよく工夫されている。

 そして、ボールへの忠実なプレッシャーを「守備の起点」に、次、その次のインターセプトを狙いつづける。ちょっとカッコイイ表現をすれば、相手攻撃の一瞬のスキを突く「猛禽類のディフェンス・・」ってな感じですかね。

 決して、下がって守備ブロックを固めるというのではなく、あくまでも(なるべく高い位置で!!)ボールを奪い返すという『意志のディフェンス』を魅せつづけるサンフレッチェ。ホント、素晴らしかった。

 そして、森保一のハーフタイム指示にあるように、あくまでもシンプルに(!)カウンター気味の攻撃を仕掛けていく。

 特筆なのは、カウンターの流れに乗ってくる選手が、とても多く、そして強烈な意志を放散していることだね。最終ラインの(スリーバックの一角を占める)森脇良太とか水本裕貴といったディフェンダーにしても、自分がインターセプトでボールを奪いかえしたら、必ず、攻撃の最終シーンまで
攻め上がっていく。とにかく、彼らの確信レベルは、とても高い。

 だからこそ、猛禽類ボール奪取からの、シンプルな(ボールを動かす)リズムと決定的スペースへ抜け出していく強烈な意志に支えられた(!?)必殺ショートカウンター・・ってな表現が相応しいと思う。とにかくサンフレッチェは、「それ」で徹底している。

 だからこそ、森保一が言うように、攻撃的なサッカーという表現に違和感を覚えたのですよ。でも、まあ、攻守にわたって素晴らしく積極的・という意味合いじゃ、たしかに攻撃的なサッカーという表現もあてはまるかもしれないね。

 ということで私は、サンフレッチェが次々と演出する、シンプルな「動き」をベースにした、小気味よいカウンターに舌鼓を打っていました。ホント、「タラレバ」だけれど、あと4点か5点は入ってもよかったね。素晴らしい・・

 フロンターレだけれど、志向すべき「戦術的キーワード」の理解が進まないと、チームの発展が阻害されるかもしれない・・と心配する。

 まあ、要らんお世話だろうけれど、我々コーチは、チーム全体が、すぐにでも共通に理解し合えるような「シンプルな表現」を作り出す努力を惜しんではならないということが言いたかった。

 とにかく、風間八宏のウデに期待しよう。

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さて、ということで、グランパス対レッズ戦も簡単に・・

 テレビの映像作りも、まあ納得できる水準でしたから、書き手のモティベーションも高まるってなもんだ。

 まず、両チームの全体的なサッカー内容に対する評価だけれど、守備でも、(攻撃での)カウンターや組み立てプロセスでも、まあ、レッズに軍配が挙がると思いますよ。だから、順当なレッズの勝利。

 カウンターシーンでは、ポポとマルシオ・リシャルデスに、柏木陽介と両サイドバックが(はたまた、たまにゃ、ボールをインターセプトした槙野智章といった、グランパス守備陣にとって見慣れない顔も・・)まさに有機的に絡んでいく。カウンターだから、なるべく直線的に、時間をかけずに相手ゴールへ迫ることが喫緊の課題だよね。

 もちろん周りのサポートも、「そのこと」を意識し、ボールがないところでの3人目、4人目として、後ろ髪を引かれない勢いで決定的スペースへ飛び出していくんですよ。だから、ポポやマルシオ・リシャルデス、はたまた柏木陽介にしても、迷うことなく決定的なスペースパスを送り込める。

 また組み立てプロセス(遅攻)でも、レッズ組織プレーの存在感が光り輝く。この面では、明確に、レッズに一日以上の長がある。人とボールが、しっかりと動きつづけるからね。

 ところで、そんな組織コンビネーションの流れでは、柏木陽介の機能性が、とても素敵にアップしていると思いますよ。

 まさに水を得た魚。この場合の「水」とは、もちろん、チーム戦術的な理解の浸透(共通理解と実践する意志のレベルアップ!)だよ。ストロングハンド、ミハイロ・ペトロヴィッチの面目躍如。ということで、やっと柏木陽介自身も満足してサッカーが出来るようになった!? フム、フム・・

 とにかく、人とボールが動きつづけるレッズの組織コンビネーション(仕掛け)に、グランパス守備ブロックは、何度も、繰り返し、ウラの決定的スペースや、眼前のスペースをレッズ選手たちに使われていた。

 要は、チャンスの量と質では、完璧にレッズに軍配が挙がるということです。だから、レッズの順当な勝利。フムフム・・

 また守備にしても、相互ポジショニングでの「集散」が、とてもスムーズで効果的だね。要は、ボールへ行く者と、周りで「狙う者」の機能が、うまく有機的に連鎖しつづけているということです。よく用いられる表現を使えば、忠実で高質な連動性・・ってなことになる? まあ、そういうことです。

 最後の時間帯。一人足りないとはいっても、グランパスは、失うモノがないフッ切れた勢いで仕掛けてきた。トゥーリオも、最前線に上がっている(以前は、トゥーリオを中盤でプレーさせたこともあったけれど、今回は、そんな愚策じゃなく、明確なトップに上げた!)。

 こうなったら、もちろんセットプレーが怖い。実際、二度ほど危ない場面を作られた。トゥーリオの面目躍如。でもレッズは、最後まで、バタつくことなく守り切った。

 この最後の時間帯を、まあ安定的に(!?)守り切れたことは、守備のチーム戦術の共通理解と自信の深化という意味合いでも大事な学習機会だったと思いますよ。

 また、先日のナビスコで、自分主体の「素晴らしい闘い」をブチかましつづけた小島秀仁と原口元気も、はつらつとしたプレーを魅せてくれた。

 とにかく、正しいベクトル上を、良い流れで発展、深化している浦和レッズの今後が、自分自身の学習機会としても、とても楽しみです。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。