湯浅健二の「J」ワンポイント


2013年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第21節(2013年8月17日、土曜日)

 

ちょっと例のないドラマチックマッチ(一大逆転劇)だった・・(レッズvsトリニータ、 4-3)

 

レビュー
 
 「あの」現象(ゲーム展開)は、いったい何だったんだろうね。

 もちろん、立ち上がりのトリニータが、立派な、本当に立派な「意志の爆発プレー」を魅せつづけたのは疑いのない事実だけれど・・それにしても・・まあ「それ」もサッカーってことだね・・

 もう一つ。セットプレーって、ホントに危険だよな〜・・なんてね。

 そりゃ、そうだ。どんなに厳格にマークしていたって、「そのポイント」に正確にボールが飛んできたら、どんなに身体を寄せていたって「やられて」しまうんだから。

 だからこそ、デイヴィッド・ベッカムとか中村俊輔とか、正確なキッカーは、とても貴重な存在というわけだ。

 ゲーム展開だけれど、3点ブチ込んだトリニータ選手たちの「意志」が、ちょっと落ち着き気味になっていくのも仕方ないよね。何せ、3点のリードだぜ。サッカーじゃ、それを「セーフティーリード」なんて表現するんだよ。でも・・

 ここでは、その後のレッズが、ゲームの流れを掌握しはじめたことだけではなく、その流れに乗って、興梠慎三が前半24分にブチ込んだ「1-3」となる「追いかけゴール」について言及しておかなければ・・と思った。

 「あれ」は、本当に難しいシュートだった。まさに、興梠慎三の、ゴールゲッターとしての「優れた感覚」を如実に証明するゴールだったんだ。

 あそこで、相手ディフェンダーの動きを正確に「感じ」、自らボールを動かすことで、シュートに対して身体を投げ出す(タックルを仕掛ける!)といった相 手ディフェンダーの対応アクションを「封じて」しまったこと。そして、あの、「トン・ト・ド〜ン!」というリズムの、見事なボール運びとシュート。

 あの「追いかけゴール」がなかったら、確実に、この大逆転ドラマはなかった。だからこそ貴重な、本当に貴重なゴールだったんだよ。スミマセン・・タラレバばかり・・で・・

 そして、こんなゴールの応酬による「興奮」が落ち着きはじめたことで、ゲームが、動的に均衡しはじめていく。

 トリニータが、立ち上がりに魅せた「強烈な意志」を、再びアクティベートしはじめたんですよ。

 そして、ゲームが、どちらかといったら「拮抗」に近い展開になっていくんだよ。その背景には、トリニータが、守備ブロックを微妙に「固め」はじめたこと「も」あった。

 ・・というか、全員で、ダイナミックにボールを(レッズ攻撃を)追い込んでいくようになった・・と、表現した方が正しいかもね。

 そんなゲーム展開を観ているレッズファンの方々は、気が気じゃなかったに違いない。わたしは、結果を知った上でビデオを観ているのですが、ファンの方々は、攻めあぐみはじめたレッズに、フラストレーションを溜めていただろうから・・

 ファンの方々は、もっとガンガン押し込んでいって(積極的にゴールを奪いにいって)もらいたかったに違いない。でもレッズは、いつものような「リズム」で攻め上がっていく。

 でもサ・・そんな組織サッカー的なリズムになりはじめていたからこそ、たまに飛び出す、興梠慎三の「一発タテ狙いの動き」は、とても効果的だった。そう、タテへの決定的パスを「呼び込む」ようなダイナミックな動き。頼もしい・・

 また、後方からオーバーラップしてきた3人目、4人目(例えば鈴木啓太やサイドバック)といった、トリニータ守備にとって「見慣れない顔」が最前線に出現してきても、チャンスの芽が広がるよね。

 そう・・仕掛けの変化・・

 わたしは、興梠慎三の、ボールがないところでの動きの量と質(組織サッカー的な仕掛け)は、効果を発揮しているのだから、もっと原口元気が、ドリブル突破に、積極的にチャレンジすべきだと思っていた(一度だけ勝負ドリブルチャレンジがあったけれど・・)。

 組織プレーと個人勝負プレーをうまくバランスさせることこそが、仕掛けの変化を演出するための、もっとも効果的なツールなんだよ。あっと・・、柏木陽介も、ロングシュートという「仕掛けの変化」を狙っていたっけね。でも・・

 そんな、ちょっと重苦しくなりそうな雰囲気のなかで後半がスタートしたわけだけれど、その立ち上がりに、レッズにとっては、まさしく起死回生と言える2ゴール目が決まるんだ。

 マルシオ・リシャルデスのフリーキックゴール。それも、後半立ち上がりの2分だからね。ゲーム展開が風雲急を告げてくるのも道理・・

 やはり、ゴールこそが最高の刺激なんだ。トリニータもまた、前よりは攻め上がるように「気持ちの変化」を見せはじめたからね。

 そんな、本当の意味で「動的に均衡」しはじめるゲーム展開のなか、レッズが、PKを決めて同点までもっていっちゃう。

 ・・これで、3対3・・個の失点によって、トリニータのプレー姿勢は、どのように変化するだろうか?・・守備を固めて引き分けを狙うのか?・・それとも、あくまでも勝ちにこだわるのか?・・

 ・・まあ、彼らが置かれた状況からすれば、やはり勝ちにいくしかないよな・・あっ、やっぱり、より積極的に押し上げはじめた・・

 ・・そんな展開になったら、本当の意味の実力の差が明確になってくるんじゃないか?・・もちろんレッズに有利の「はず」だけれど・・

 ・・やっぱり、徐々にレッズが、攻守の(人数とポジショニングの)バランスが取れた状態で、より積極的に仕掛けていくようになっている・・そう、レッズがイニシアチブを握りはじめたんだよ・・残りは20分といったところ・・

 そして後半28分、森脇良太が放った一発ロビングラストパスが、決定的スペースへ抜け出した柏木陽介にピタリと合うんだ。

 そのまま胸でトラップした柏木陽介が、決定的なシュートを放つ。でもトリニータGKに、横っ飛びで抑えられてしまう。フ〜〜・・

 ゲームは、ホントに風雲急を告げている。トリニータも、必死に攻め上がってくるようになった。そして、互いに攻め合う、エキサイティングな展開へとゲームが成長していく・・

 そんなタイミングで(後半37分)、鈴木啓太に代わって、山田直輝が登場するんだよ。誰もが、期待で胸を一杯にふくらませたことでしょうね。

 そして、山田直輝が、まさに期待通りに「躍動」するんだ。素晴らしく鋭い「ボールがないところでの動き」。そう、パスを呼び込む動き・・

 そして、自分のところに「呼び込んだ」パスを、ダイレクトでバックパスすることで味方にシュートを打たせようとする。素晴らしく鋭い動きじゃないか。そして後半39分。コトが起こる・・

 コーナーキック崩れの「流れ」のなかから、右サイドの森脇良太が、切り返してクロスを上げる。そのボールが、中央ゾーンに「走り込んできた」那須大亮のアタマにピタリと合うんだよ。

 那須大亮は、その直前のコーナーキックの際に上がってきていた。フ〜〜・・

 その後のレッズは、決して守りに入るのではなく、それまでの「動的な均衡」というゲーム展開を、そのまましっかりとキープした。だから、その後も、チャンスの流れを何度も作り出せていた。

 レッズにとっては、そんなゲームの「締め方」が大事だったと思う。それこそが、次につながる「ポジティブな余韻」をもたらすと思うのですよ。

 それにしても、あまり例のない、大変なドラマチックマッチだった。そして私は、結果を知っていたからこそ、様々な「小さなドラマ」も楽しめた。


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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