湯浅健二の「J」ワンポイント


2013年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第28節(2013年10月5日、土曜日)

 

またまた2試合のレポートです・・(レッズvsアルディージャ、 4-0)(FC東京vsアントラーズ、 1-4)

 

レビュー
 
今日も2試合を簡単に・・

まずレッズ対アルディージャ戦から・・

前半のレッズは、先制ゴールも含め、攻守にわたって素晴らしくダイナミックなサッカーを展開したと思います。特に、前からの(忠実な)チェイスをベースに、次、その次と、有機的に連動しつづけるダイナミックなディフェンス(ボール奪取プロセス)が心地よかったね。

だからこそ、次の攻撃でも足が止まらず、アルディージャ守備ブロックを振り回してチャンスを作りだせた。

また、先制ゴールを奪ってから「も」ダイナミックに攻めつづけ、数回の決定的なシーンも含め、しっかりとチャンスも作りだした。でも、決め切れない・・

前節のベルマーレ戦でも(現象的には!?)同じような展開になったよね。

でも、ベルマーレ戦と比べたら、この試合でレッズ選手が魅せた「追加ゴールを挙げることに対する意志」は、とても強かった・・と感じた。

まあ、前節のベルマーレ戦から、何かを学んだということだね。

あっと・・、レッズがゲームを支配するという展開になった背景には、前半9分にアルディージャのニールが退場になったこと「も」あったよね。でも・・

そう、この試合でのレッズ選手たちは、ニールの退場と先制ゴール(阿部勇樹のPK)という「甘い誘惑」にも気を緩めることなく、しっかりと「追加ゴール」を狙いつづけたんだよ。

数的に優位になることによって気持ちにスキができ、攻守ハードワークの量と質がダウンする・・なんて無様なことになっても不思議じゃなかったにもかかわらず・・ね。

とにかく、この試合のレッズは、そんな「心理的なワナ」をハネ退けて走りつづけ、11対11のときよりも多く、攻守両面で、数的に優位なカタチを演出しつづけたんだ。

それは、とりも直さず、少なくとも彼らが、アルディージャ選手たち以上のハードワークを実行しつづけたことの証だよね。

そんな彼らのプレー姿勢(強い意志)を観ながら、頼もしく思ったものです。でも・・

そう、後半の立ち上がりでは、レッズの意志エネルギーが減退し、一人少ないアルディージャの反抗を許す時間帯が増えていったんだよ。

もちろんそこでは、フッ切れたアルディージャが、攻守にわたって意志のパワーを大きく増幅させたこともあった。

このことは、とても微妙なニュアンスだから、注意深く書くけれど・・

不確実な要素が満載されたサッカーでは、どちらかのチームの戦う意志のパワーが、相手のそれを少しでも上回った次の瞬間には、ゲームの流れが、意志パワーで上回ったチームへと急激に傾いていくという「グラウンド上の現象」が頻繁に起きるのですよ。

これまでに何度も書いたけれど、その昔、ドイツ伝説のスーパープロコーチ、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーから、「こんな教え」を授かったことがあるんだ。

「いいか・・瞬間的にでも、相手を勘違いさせられたら、大きなチャンスを掴めるんだぞ・・そう、自分たちの方が強いと勘違いさせることで、相手の足を止め てしまうんだよ・・だからこそ、勝負を仕掛けていくときには、全員が、一人の例外もない全員が、レベルを超えた勢いでガンガンと前からプレッシャーをブチ かましていかなければならないんだ・・」

そう、レッズ対アルディージャ戦の後半・・

相手のショートカウンターやセットプレーも含め、レッズは、何度か決定的ピンチに見舞われた。また、アルディージャ渡邉大剛を、安易に「中央ゾーン」へ持ち込ませたことで、決定的なミドルシュートもブチかまされた(GK山岸の好セーブで事なきを得たけれど・・)。

前半の圧倒的なゲーム内容があったことで、レッズ選手たちの意志が、ちょっとイージーな方向へと振れてしまった!?

まあ、そうかもしれない。

たしかに全体的なゲームの流れは掌握していたけれど、うまくチャンスを作り出せないだけではなく、カウンターのチャンスも決め切れないレッズ。逆にアルディージャの、フッ切れた鋭い仕掛けからピンチに陥るシーンも増えていった。

そんな展開を観ながら、「これは・・」なんて心配になったものです。でも・・

そう、一発カウンターの流れから、中央ゾーンでボールをもった柏木陽介が、逆サイドのタテへ、正確なロングパスを送り込んだんだよ。

それが、まったくフリーでオーバーラップした宇賀神友弥にピタリと合う。もちろん中央ゾーンでは、原口元気が、超速スプリントで相手マーカーを置き去りだ。

そして最後の瞬間に、宇賀神友弥からのダイレクトのグラウンダークロスが、ピタリと、走り込む原口元気とリンクした・・っちゅう次第。

見事な、本当に見事なカウンター追加ゴールではありました。

そして勝負がついた。

その後も二つのゴールを加えたけれど、勝負の行方は、「その2点目ゴール」で決着したよね。

ということで、最後に、興梠慎三について。

・・タテへの抜け出しと、ロングフィードの「トラップ&コントロール」良し・・だから、そこでのポストプレーの効果レベルも良し・・また、抜け出してパス を受け、フェイントやスピードで相手を置き去りにしてしまうドリブル勝負良し・・ヘディングも良し・・全般的なシュートも良し・・

とにかく、興梠慎三は、類い希なほどハイレベルな実効価値を内包する「補強」ではありました。

とにかく、いまのレッズが最も必要とする「スピアヘッド・タイプ」として、その特長が、奇跡のようにピタリとはまった興梠慎三ではありました。

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さて、国立競技場で行われたFC東京vsアントラーズ。

アントラーズが「1-4」というスコアで制したわけだけれど、実質的なゲーム内容は、その結果とは、かなり異なったモノだった。

要は、FC東京が、とても立派なサッカーで、ゲームを支配しつづけたということです。

まあ、とはいっても、複数ゴールを奪ってリードしていたアントラーズは、守備ブロックを強化することで、「落ち着いた展開」へとゲームをコントロールしようとしていたわけだから、FC東京が、ゲームを支配して攻め上がっていくのも道理だよね。

だからこそ・・ということで、言いたかったのは、「あの」強いアントラーズ守備ブロックが、FC東京の攻めに崩され、何度も、決定的ピンチに陥ったということなんですよ。

まあ、そのほとんどのチャンスシーンで、打たれた(ヘディングされた)最後のシュートが、アントラーズGK曽ヶ端準の正面に飛んだり、枠を外れてしまったわけだけれど、それでも、シュートの瞬間は、誰もが、「アッ・・ゴールだっ!!」と、身体を硬直させたに違いない。

それほど決定的なチャンスを、FC東京は、繰り返し作りだしていたんだよ。

ことほど左様に、そこでFC東京が展開した、とても魅力的で、相手にとって危険極まりない「組織サッカー」は、見応え満点だったのですよ。

この前(レッズ戦以前に)FC東京を観たのは、ホームのマリノス戦だったけれど、そのときは、サッカーの内容で、明らかにマリノスの後塵を拝していた。

その頃と比べれば、この日のFC東京は、格段に優れた組織サッカーを魅せていた。

人とボールが、本当に「小気味よく」動きつづける。そして、その動きの「先」には、アントラーズ守備ブロックのウラに広がる決定的スペースがある・・ってな具合。

FC東京の選手たちは、アントラーズ守備のウラ(決定的スペース)を明確にイメージして攻め込んでいったんだよ。

彼らには、確信があった。観ているコチラも、それを感じた。

だからこそ、あの堅いアントラーズ守備が、何度も攻略された・・。そんなシーンは、そうそう観られるモノじゃない。

もちろん「そんな高質サッカー」が展開できたのは、FC東京選手たちの、ボールがないところでの動きの量と質がハイレベルだったからに他ならない。

実際、選手たちが、タテのポジションチェンジを繰り返しているシーンを目撃したっけね。

でも結果は、1-4だぜ。

アントラーズの先制ゴールは、遠藤康。右サイドからのカーブシュートを、逆サイドの上隅にブチ込んだ。

2点目は、加賀健一からボールを奪い取り、そのままFC東京ゴールに蹴り込んだダヴィのゴール。

そして、ランコ・ポポヴィッチが言うように、これが決定的な失点になったのだが、その、アントラーズの3点目。

これは、ちょっと「異質」なゴールだったね。

もちろん、小笠原満男が右足で放ったシュートは、見事の一言だったけれど、そのシュートへ至るまでの小笠原満男のドリブルが、まったくフリーで、誰もチェックに入ってこなかったのだ。

だから小笠原満男は、余裕をもってドリブルで進み、そしてフリーで、シュートを放った。それは、美しい軌跡を描いて、東京ゴールの(これまた!)右上隅に吸い込まれていった。

この3点とも、「個のスキル」によるものだった。

それに対してFC東京が作りだした決定的チャンスのほとんどは、組織コンビネーション(ラストパスやラストクロス)から生み出されたモノだった。

フムフム・・

まあ、とにかく、アントラーズが魅せつづける「勝負強さ」は、本物だ。

今度、連載をはじめた「The Core Column」で、その「勝負強さ」の本質を探求してみようかな。

とにかく、ここにきて、アントラーズもまた、優勝争いに参戦してきた。面白くなってきたじゃありませんか。

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 最後に「告知」です。

 実は、ソフトバンクではじめた「連載」だけれど、事情があって、半年で休止ということになってしまったんですよ。

 でも、久しぶりの「ちゃんとした連載」だったから、とてもリキを入れて書いていた。そして、そのプロセスを、とても楽しんでいた。自分の学習機会としても、とても有意義だったしね。

 そして思ったんですよ、この「モティベーション機会」を失ってしまうのは、とても残念だな〜・・ってね。

 だから、どこかで連載をはじようかな・・と、可能性を探りはじめた。そこでは、いくつか良さそうなハナシもあったし、メルマガでもいいかな・・なんてコトも考えた。

 でも・・サ、やっぱり、書くからには、できるかぎり多くの方々に読んでもらいたいわけですよ。でも、可能性がありそうな(メルマガも含めた)連載プラットフォームとしては、やはり私のホームページにかなうモノはなかった。

 ということで、どうなるか分からないけれど、とにかく、私のホームページで、新規に、連載をはじめることにしたのです。

 一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」

 そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」

 とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書こうかな。もし、うまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れてから立ち上げた新ビジネス」、そして「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。

 ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、一週間ごとにアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。

 もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。

 まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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