湯浅健二の「J」ワンポイント


2013年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第33節(2013年11月30日、土曜日)

 

実質的なゲーム内容とは逆の、まさに「サッカー的な現象(結果)」だった・・レッズは完敗・・(マリノスvsアルビレックス、 0-2)(鳥栖vsレッズ、 4-1)

 

レビュー
 
もう、ホントに、ビックリした。

アルビレックスが、全体的なゲームの流れからすれば、まさに「唐突」といった先制ゴールをブチ込んじゃったんだ。

後半27分。コーナーキックからのこぼれ球を、川又堅碁の右足が一閃。

・・と、ここまで書き出したけれど、どうもうまく筆が進まない・・フ〜〜ッ・・何たって、レッズが大敗したっちゅうニュースが飛び込んできたからね。

いかん・・いかん・・私は中立であるべきジャーナリストなのに・・

でも、「J」開幕当時から、ドイツ留学時代の「戦友」、故森孝慈さんがチームを率いたり、その後もドイツ系の監督や選手が多く活躍したことで、奥寺康彦が「出戻った」ジェフ市原(千葉)とともに思い入れがあるレッズだから・・

ということで、レッズが「終戦」を迎えたというニュースには、お恥ずかしながら、ちょっとモティベーションがダウンしちゃったんだよ。

何か、ゲーム経過を「数字」で追いかけてみると、前節同様に、タイミングの良い(偶発的な!?)先制ゴールをブチ込まれ・・その後は、押し込むけれどゴールを奪えず、逆に、相手のカウンターに失点を重ねた・・なんていう試合展開だったことがうかがえる。

今シーズンのレッズの進化を目の当たりにしながら、実の成果「も」とても楽しみしていたから、落胆も大きかったんだよ。お恥ずかしながら・・

・・あっと・・とにかく、マリノス対アルビレックス・・

この試合では、やはり、(柳下正明アルビレックス監督も言っていたとおり!?)ゲームが進むにしたがって、徐々にマリノスが実力の差を感じさせていった・・という展開だった。

たしかに前半は、アルビレックスが仕掛けた中盤からの協力(連動)ディフェンスが、とてもうまく機能していた。

そして、その流れのなかから、前半5分には、田中亜土夢からのパスを受けたアルビレックスFW岡本英也が、ものすごく巧みなトラップ&フェイントで横浜マーカーを振り回し、最後は右足を振り抜いた。

素晴らしいシュートだったけれど、でも横浜GKの正面。その一連の勝負シーンには、誰もが、好調アルビレックス強し・・という印象をもったに違いない。でも・・

そう、その直後から、徐々にマリノスが盛り返していったんだよ。

柳下正明監督は、前半は、自分たちがイメージしたとおりのサッカーが出来ていた・・と語っていた。まあ、彼のイメージでは、「ゲームのリズムをうまく演出し、掌握できている・・」という印象だったんでしょ。でも・・

たしかに、全体的な流れは互角に近いモノだったかもしれない。でも、攻撃での「攻め切るチカラ」という視点では、明らかにマリノスに軍配が挙がる。

仕掛けの最終段階における、マリノスの「危険度」は、明らかに、アルビレックスの「それ」を上回っていたんだよ。

感覚的な表現で、申し訳ないけれど・・

例えば、ドリブル勝負にしても、コンビネーションにしても・・

マリノスが仕掛けていくプロセスの方が、アルビレックス守備ブロックの「ウラの決定的スペース」を攻略できる雰囲気という視点で(まあ実際の現象的なプロセスでも!!)、より確固たる「輪郭」を持っていたんだよ。

そのことを象徴していたのが・・

・・前半22分の、齋藤学のドリブルからのサイドチェンジパスと、まったくフリーの中町公祐がピタリと重なり合い、(その中町が)ダイレクトシュートをブチかましたシーン(GK正面!)・・

・・また、その11分後(前半33分)に、中村俊輔のスーパーな「タメ」から放たれたタテパスを受けて(ドゥトラが)送り込んだクロスボールを、マルキーニョスが、まったくフリーでヘディングシュートをブチかましたシーン(これまたGK正面!)・・

この二つの、絶対的な決定機を観ながら、たしかに全体的なゲームの流れでは、うまくリズムに乗っているアルビレックスだけれど、最後の、まさに「肝心なところ≒小さなところ」で完璧にやられてしまった・・それも二度もつづけて・・

・・という事実を噛みしめていた筆者だったのです。

そして後半は、そんなゲーム全体の(見た目での!?)流れが、どんどんとマリノスへと傾いていくんだよ。それでも・・

そう、後半18分に起きた、スーパー俊輔のコーナーキックを、飛び込んだ中澤佑二がフリーヘッドしたシュートが、わずかにアルビレックスゴールを外れて いったシーンまで、マリノスは、前半のような(優れた組織コンビネーションからの!)決定的チャンスを作り出せていなかったんだ。

ところで、この中澤佑二のフリーヘディングシーンだけれど・・

中澤佑二の「走り込みプロセス」を観れば、それが、本当に「特別」なヘディングシュートだったことが分かろうというモノです。

中澤佑二は、大きく弧を描くように「回り込み」、そして最後は、全力でゴール正面のスペースへ(彼のことをケアーしていた相手選手の眼前スペースへ!!)、突っ込んでいった。

まさに、「そこ」にボールが来ることを200%確信していたに違いない「勢い」の、走り込み。

中村俊輔のキックに対する絶対的な信頼・・

ヤツのキックは、必ず「ここ」に来るっ!!

それです。

そりゃ、マリノスのセットプレーでの確信レベルが天井知らずになるのも道理だよな。

とにかく、デイヴィッド・ベッカムも「しかり」だけれど、天才的キッカーを擁するチームには、ものすごいアドバンテージがあるんだよ。

もちろん、「それ」をコーチがしっかりと(チームメイトたちのイメージシンクロ作業も含めて!)活用すればのハナシだけれど・・ね。

でも、この試合では、スーパー俊輔の「天才」が完全に活かされることはなかった。

ところで、その中村俊輔に対するマーク・・

私の目には、ブラジルの天才ボランチ、レオ・シルバが、要所で中村俊輔を、確実に「抑えていた」ように見えた。

もちろん、守備的ハーフコンビの成岡翔と(中村俊輔に対するマークを)受け渡しはするけれど、それでも、肝心なときは、いつも、レオ・シルバが中村俊輔を抑えに掛かっていた・・と見えた。

でも、そのことについて柳下正明さんは、こんなニュアンスの内容をコメントする。曰く・・

・・(中村俊輔のマークについては)・・その時点で近くにいる選手がマークし、イメージとして「自由にさせない」という抑え方を徹底させた・・

・・俊輔については、一人が(オールコートで)マークしていも、ハズされるのがオチだ・・それよりも、受け渡しをしながら、肝心なところで自由にプレーさせないというイメージの方がうまく機能する・・

・・また、一つの例だが・・俊輔は、後ろからファールを「誘う」プレーが上手いから、彼が後ろ向きでボールをキープしたら、決して無理にアタックしないという約束事もあった・・

フムフム・・

まあ、その「スーパー俊輔」潰しのアイデアはいいと思うけれど、私の目には、中村俊輔のレベルを超えた「危険度」を感じていたレオ・シルバが、指示を出しながら、肝心な所では「自分がいく・・」というイメージで対処していたに違いないと思ったんだよ。

そして、それが、殊の外うまく機能した・・

もちろん、「それ」も、柳下正明監督の「イメージ作り」に内包されていたに違いないけれど・・

そんな「小さなコト」もまた、このアルビレックス勝利の隠れたシークレットポイントだったということだね。

一つの結果には、本当に様々な「小さなコトの積み重ね」があるんだよ・・

もちろん、「それ」がポジティブな結果だったとしても、ネガティブであったとしても・・ね。

結局は、そんな「ポジネガの小さなコトの積み重ね」が、明確に、最終的な結果のバックボーンを指し示しているのかもしれない。

これは、いい視点かも・・

世界中のトップコーチ連中は、そんな「小さなコトの積み重ね」という分析テーマを基に、本当に集中して仕事をしているわけだからね・・

まあ、そりゃ、今に限ったコトじゃないか・・フ〜〜ッ・・

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さて、鳥栖対レッズ・・

表題にも書いたけれど、まあ、レッズは完敗だった。

たしかに、前半、後半を通じて、何度か決定的なチャンスは作りだした。特に、前半に柏木陽介がつづけざまに魅せた積極的なシュートチャレンジに乾杯!!

そのシーンを観ながら、「それだよ、それっ!! アンタには「その」才能が満ちあふれているんだよ・・っ!!」なんて声を上げていたっけ。

来シーズンには、そんな「一皮剥けたアグレッシブな柏木陽介」が観たいっ!!

ということで、このコラムで「まず」強調しなければならないのは、何といっても、鳥栖がブチかましつづけた、見事な攻守のハードワークでしょ。

その結果として、「フェア」に2点のリードを奪い、後半は、得意の堅守速攻で、これまたフェアに、ゲームの流れを抑制し切った。

ゲームの流れを「揺動させる」というのが、後半のレッズがやらなければならかったサッカー。

そんな意図が、まったくといっていいほど機能しなかった。

要は、押し上げていったけれど、その最後の仕上げになるべき仕掛けに「変化」がなかったということ。

・・槙野智章の「ココゾッ!」のドリブル勝負!・・柏木陽介の「ココゾッ!」の爆発ミドルシュート!・・両サイドからの、アーリークロス(もちろん、後方 から、鈴木啓太か阿部勇樹が、全力スプリントで相手ゴール前まで突進する!)・・もちろん阿部勇樹のロングシュートや、両サイドのドリブル突破・・等な ど・・

そんな仕掛けの変化がなく、チーム全体が、同じ「リズム」で漫然と攻め上がっていった・・という印象ばかりが残る。

それじゃ、鳥栖ディフェンスブロックは、まったく怖くない。実際、彼らは、とても余裕をもってハードワークをブチかましていたっけ・・

もちろん、鳥栖の守備ブロックが「カチッ」とした組織を固めていた・・ということもあるけれど、その頑強なブロックを、いかに不安定にさせるのか・・というテーマに、レッズ選手たちが積極的にチャレンジしていた・・という印象もないのですよ。

それにしても鳥栖選手たちの、まさに地中から間欠泉が吹き出してくるような「強烈な意志」は、何なのだろうか。

もちろん、ユン・ジョンファン監督のマインドが「乗り移った」に違いないけれど、乗り移らせた、優れた心理マネージャーとしてのユン・ジョンファンも大したものだ・・と思う。

たしかに今シーズンは、エンジンが掛かるまでに時間はかかったけれど、「その後」は、まさに期待通りのサッカーを展開してくれた。それが、大物食いも含む4連勝につながった。

レッズにとっては、前節のフロンターレ戦と、この鳥栖戦は、ものすごく貴重な「学習機会」だったと思う。

様々な視点で(何種類もの!)ビデオを編集し、それを「備忘録」として、確実に引き継いでいかなければならないと思う。

特に、こんなタイプのビデオ編集・・

・・相手守備が強固にブロックを作りあげたときの攻めの内容(仕掛け内容≒ボールと人の動き&個人勝負の内容etc.)・・ロング&ミドルシュートシーン・・オーバーラップのとき「前後のポジションチェンジ」の機能性・・最終勝負シーンでの「大きな変化」・・等など・・

まあ、私が言うまでもないことだとは思うけれど・・

でも、最終戦には、来シーズンの「ACL」が掛かっているからね。とにかく・・最後まで・・

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 最後に「告知」です。

 実は、ソフトバンクではじめた「連載」だけれど、事情があって、半年で休止ということになってしまったんですよ。

 でも、久しぶりの「ちゃんとした連載」だったから、とてもリキを入れて書いていた。そして、そのプロセスを、とても楽しんでいた。自分の学習機会としても、とても有意義だったしね。

 そして思ったんですよ、この「モティベーション機会」を失ってしまうのは、とても残念だな〜・・ってね。

 だから、どこかで連載をはじようかな・・と、可能性を探りはじめた。そこでは、いくつか良さそうなハナシもあったし、メルマガでもいいかな・・なんてコトも考えた。

 でも・・サ、やっぱり、書くからには、できるかぎり多くの方々に読んでもらいたいわけですよ。でも、可能性がありそうな(メルマガも含めた)連載プラットフォームとしては、やはり私のホームページにかなうモノはなかった。

 ということで、どうなるか分からないけれど、とにかく、私のホームページで、新規に、連載をはじめることにしたのです。

 一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」

 そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」

 とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書こうかな。もし、うまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れてから立ち上げた新ビジネス」、そして「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。

 ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、一週間ごとにアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。

 もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。

 まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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