湯浅健二の「J」ワンポイント


2013年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第9節(2013年5月3日、金曜日)

 

2試合のコラムを一気に書き上げた・・(マリノスvsアントラーズ、1-1)(フロンターレvsグランパス、2-1)

 

レビュー
 
 どうも皆さん。今日も、2試合。だから、簡潔なショート&ショートで・・

 まず、マリノス対アントラーズ。

 とにかく、両チームともに守備が強いからね、まったくといっていいほど、流れのなかからはチャンスを作り出せなかった。

 まあ前半には、両チームともに、まったく同じプロセスから、ポストとバーを直撃するシュートを放つという絶対的チャンスは作りだしたけれどネ・・

 それは、高い位置でボールを奪い返してサイドへ展開し、そこから、ファーポストのスペースへ(要は、相手ディフェンスブロックのアタマを越していくような!)一発勝負クロスを送り込むというカタチだった。

 それは、それで、とてもエキサイティングだったけれど、結局、流れのなかから作りだしたチャンスは、それくらい。あとは、ショートカウンターとセットプレーからがほとんどだったね。

 選手や監督さんは、互いに良さをつぶし合った・・なんていうニュアンスの内容をコメントしていたらしいけれど、わたしは、次の等々力へ向かうため、テレビの監督フラッシュインタビューを待っていられなかったから聞いてません。

 とはいっても、全体的なサッカー内容では、マリノスに一日の長があったというのが私の総合評価です。

 そう、中村俊輔という「一日の長」。

 チームは、攻守にわたって、完璧に、俊輔を中心に仕掛けの流れが形成されている。

 「それ」で、チームのイメージが、完璧に統一されているんだよ。中村俊輔の才能は、紛れもないホンモノだから、そりゃ、ものすごい実効ダイナミズムが生み出されるはずだよね・・

 あっと・・、試合後には、著名なベテランジャーナリストの方が、「意気地無しのサッカーだったね・・両チームとも・・」なんて、つぶやいていたっけね。

 そう・・。両チームともに、3人目、4人目が、勇気をもって押し上げていけなかったんだよ。だから、仕掛けプロセスに人数が足りない・・ダイナミズムが足りない・・。

 マリノスにしたって、中村俊輔がいても、結局は足りなくなっちゃう・・

 まあ、「その現象」のバックボーンは、互いにチカラを認め合っていることで、慎重にならざるを得なかった・・っちゅうことだね。

 そう、仕掛けた方が「割りを食う・・」ってな、イヤな感じの、微妙な勝負(心理)環境(勝負のアヤ・・!?)。フンッ・・

 ちょっと金言を一つ。ヘネス・ヴァイスヴァイラーに、こんなことを言われたことがあったんだ。

 「オマエな〜・・サッカーは、不確実な要素がいっぱいだから、ホンモノの心理ゲームとも言えるだろ・・だから、相手を勘違いさせた方が勝ちなんだよ・・ 相手に、オマエたちが強いと思い込ませたり、押しこまれているって勘違いさせたりな・・要は、勇気が大事だということだ・・それを上手く回せば、それがホ ンモノの自信を形作っていくのさ・・」

 そんな深層のサッカー心理メカニズムこそが、百戦錬磨の強者プロコーチ連中の、もっとも大事な企業秘密の一つなんだよネ。あははっ・・

 あっと・・脱線・・スミマセン・・

 ・・ということで、「静的」な均衡状態がつづいていたゲーム・・

 それが、後半28分、フリーキックのこぼれ球から、野沢拓也に、「うまく」先制ゴールを決められてからは、まさに風雲急を告げちゃう。そしてゲームが、まったく別物サッカーへと成長していっちゃうんだよ。

 そう、失うモノがなくなったマリノスが、爆発的なパワープレーをブチかましはじめたんだ。ヘディングの強い栗原勇蔵をトップへ上げてね。

 ガンガンとハイボールを放り込むマリノス。最後の数分間は、交替出場したファビオまで上がり、後方にはドゥトラともう1人が残るだけ・・なんていう総攻撃を仕掛けていった。そして・・

 ドゥトラのハイボールを、上がっていたファビオがヘディングで流し、それがキッカケで、両チーム入り乱れたヘディングの応酬になっちゃう。そして最後に、ファビオのところにボールがこぼれてきた・・っちゅう次第。

 同点ゴールが決まった瞬間、グラウンドのマリノス選手とベンチは狂喜乱舞。それまでの「静的な均衡」がウソのようなエキサイティングな結末になったという次第でした。

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 さて、次は、フロンターレ対グランパス。

 こちらは、最初から、両チームの攻撃のダイナミズムが入り乱れまくっちゃったぜ。

 そんな仕掛け合いに敗れたピクシーは、こんな風に、悔しさをにじませていた。曰く・・

 ・・両チームともに攻撃的なサッカーを展開した・・ファンにとっては、とても楽しい観戦になったはずだ・・でも、最後は負けてしまった・・そのことは、 本当に残念で、悔しくて仕方ない・・もちろん、最後まで全力で戦った選手たちを誇りに思っているさ・・でも、ゲーム内容からすれば、もっと得られるものが あってもよかったんじゃないか・・まあ、もう少し運が必要だったということか・・

 そうだね。ゲームの内容からすれば、引き分けがフェアな結果だったとは思う。

 でも、全体的なチャンスの量と質という視点では、僅かにフロンターレに軍配に上がると「も」思うけれど・・ネ。

 要は、相手が攻め上がってきている状況で、フロンターレの方が、より効果的にカウンターを仕掛けられていたっちゅうことです。

 そう、もちろん、復帰した牛若丸を中心にね。

 とにかく、中村憲剛が魅せる、ゲームメイク&チャンスメイク&カウンターのコーディネイションは、まさに超一流なんだよ。

 あっと・・。この試合では、山本真希も、攻守にわたって、とてもスマートで鋭い忠実プレーを展開していたよね。決して、彼が決勝ミドルを決めたから書くわけじゃないよ。

 いや、この試合では、中盤のカルテット(ボランチの牛若丸と山本真希、攻撃的サイドハーフの大島僚太と小林悠)と、最前線コンビ(矢島卓郎と大久保嘉人)の全員がよかった・・と書くのがフェアなんだろうね。

 とにかく、この試合では、久しぶりにフロンターレの組織プレー「リズム」を堪能できたからね。

 風間八宏さんとも、監督会見で話し合ったけれど、私は、フロンターレのサッカーでもっとも重要なキーワードは、(人とボールの)動きと、そのリズムだと思っているんですよ。

 ボールの動きが、リズミカルに回りはじめたら、もちろん、周りの「人」も動きはじめる。そして、ボールの動きが加速し、スペースへと(人と一緒に!)送り込まれていく・・ってな感じなんだよ。

 もちろん、ニワトリが先かタマゴが先か・・っちゅう議論もあるよね。そう、パスが先か、パスを呼び込む人の動きが先か・・っちゅう議論。まあ、あまり堅苦しく考えずに・・なんてネ。

 とにかく、よいリズムでパスが回るから、周りの味方も、次のパスを「呼び込む」ような動きを繰り出しやすい。そりゃ、そうだ。次のパスに対する「確信レベル」がアップするわけだからね。

 そのリズムの中心にいるのは、もちろん牛若丸。

 ただ、その周りのチームメイトたちも、あくまでも主体的に、その「リズム」を作ろうとしたり、その李ずに乗ろうとしたりするんだ。だからこそ、チーム全体が、人とボールの動きをベースに「相乗効果的に躍動」する。

 私は、そんなフロンターレサッカーに舌鼓を打っていた。そして・・、ある選手に対する期待がふくらんでいった。

 そう、後半41分に、小林悠と交替してピッチに入ってきた、レナト。山本真希の決勝ゴールを、完璧にアシストした、レナト。

 わたしは、レナトが、この日のフロンターレが魅せた「リズミカルな組織コンビネーションサッカー」に、本当の意味で「乗っかって」欲しいと心から願っているのですよ。

 これまでは、「ボールのスムーズな動きを阻害する・・」なんていう後ろ向きの個人プレーも多かったレナト。でも、才能と能力は、この決勝ゴールのアシストでも証明されたように折り紙付きだからね。

 そんな「個の才能」が、フロンターレ的な「組織サッカーのリズム」に、本当の意味で「乗っかったら」、そりゃ、鬼に金棒でしょ。

 彼だって、その「動きのリズム」に乗れば、これまでの何倍も、秘めたる(ドリブル勝負の)才能を光り輝かせることが出来るという「事実」を体感するはずだからね。

 なんたって、よりフリーでボールを持てれば、より有利なカタチで、勝負ドリブルをブチかましていけるわけだから・・

 そのためにも、レナトには、フロンターレ的な組織サッカーのリズムの有用性をしっかりと認識し、それに乗っかってくれることを心から願うわけなのです。

 ホントだよ。世界のトップサッカーじゃ、才能レベルが高ければ高いほど、「まず」組織コンビネーションに乗るところから入っていくのが効果的だという理解が進んでいるんだよ。そう、自分自身のためにも・・ネ。

 まあ、とにかく、風間八宏のウデに期待しましょう。


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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