湯浅健二の「J」ワンポイント


2015年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第3節(2015年3月22日、日曜日)

 

これまでの鳥栖に上積みされていくモノ・・試行錯誤のレッズは攻め切れず・・(マリノスvs鳥栖、1-0)&(サンフレッチェvsレッズ、0-0)

 

レビュー
 
よ〜しっ!!!

そのとき、思わず声が出た。

前半。

幸運もあって、マリノスの突貫小僧、齋藤学がフリーで抜け出し、ゴール前6メールからフルパワーのシュートを放ったときのことだ。

次の瞬間、2人の鳥栖ディフェンダーが、足と身体を投げ出し、見事に、齋藤学のシュートをブロックしたのである。得も言われぬほど美しい創造的(クリエイティブ)ディフェンスだった。

創造的といったのは、もちろん、そのカバーリングに、選手たちの優れた「意識と意志」を感じたから。彼らは、瞬間的に勝負イメージを想像し、そして、勇気をもってアタックアクションを創造したのだ。

そりゃ、声だって出るさ。

そのシーンだけじゃなく、ゲーム全体を通じて鳥栖ディフェンスは、素晴らしく忠実に、そしてダイナミックに、マリノスが繰り出す仕掛けの芽を摘んでいくんだよ。

それは、まさに「高質な連動ディフェンス」と呼ぶに相応しい組織プレーだった。

連動性・・

そこじゃ、1人でも、そう、ほんの1人でも「寝ていたり逡巡したり」したら、ディフェンスの組織全体が(勝負どころでの機能性が!!)崩壊しちゃうんだよ。

だからこそ守備では、チーム全体に共通する「連動イメージ」が深く浸透し、機能していなければならないというわけだ。そして、そこにこそ、監督のウデが如実に見えてくるのである。

だから私は、鳥栖のプロコーチ、森下仁志さんに、心からの拍手をおくっていた。

とはいっても、森下仁志さんが会見で言っていたように、何度か、その「イメージ描写≒集中力≒意志」のレベルに問題が生じたっけ。そして、そのウチの一つが失点につながった。

まあ残念な結果には終わってしまったけれど、彼らは、正しいベクトル上をひた走っているわけだから、まったくブレずに、「自分たちのサッカー」を突き詰めていくでしょ。

「これまで」の鳥栖に、一味ポジティブポイントが加わった「森下イズム」。いいね・・

あっと・・試合。

全体としては、やはりホームのマリノスがイニシアチブを握っていたとするのがフェアな評価だろうね。もちろん彼らは、押し上げていくなかで、何度かはチャンスも作りだした。

でも、そのほとんどはセットプレーから。そう、流れのなかでは、肝心な勝負ポイントで、ダイナミックで忠実な鳥栖のディフェンスに抑え込まれちゃうんだよ。

まあ、マリノスも、まだまだ「これから」っちゅうことだね。

でも、アデミウソン。

この試合でも先発したアデミウソン。

前節のゲームでは、その優れた個の才能レベルにしては、攻守ハードワークを、積極的に「探す」というプレー姿勢(組織サッカーに対する意識と意志)に問題があると感じた。でも・・

そう、この試合では、そんなネガティブな印象を、完璧に払拭してしまうグッドパフォーマンスを披露したんだよ。たぶん前節は、来日してから、まだ日が浅かったこともあったんだろうね。

たしかに、鳥栖ディフェンスに「狙われて」いたことで、自由自在の「才能プレー」は叶わなかったけれど、それでも、組織サッカーの担い手として、上手いダイレクトパスを駆使したコンビネーションをリードするなど、「世界」を感じさせる存在感は発揮した。

私は、このアデミウソンの「本当のプレー姿勢」を確認できたことで、中村俊輔とラフィーニャが復帰してきたときの楽しみが増えたと思った。

記者会見の直後、立ち話になったけれど、そのコトを、エリク・モンバエルツ監督に聞いたのだけれど、彼も、同じように、とても楽しみにしていると言っていた。

繰り返すけれど、このテーマのポイントは、中村俊輔、アデミウソン、そしてラフィーニャという天才連中がそろい踏みし、彼らがコアになった優れた組織サッカーのなかで、互いに「使い・使われる」というグループ戦術メカニズムを存分に機能させる・・ということだよ。

何か、いまからワクワクしてくるじゃないか。

あっと・・最後に・・

ゲームが終了する直前に飛び出した、豊田陽平の絶対的(同点ゴールの!)ヘディングシュートチャンス。

あの瞬間、誰もがフリーズし、鳥栖の同点ゴールを確信したでしょ。でも・・

何だったんだろうね、あのシーンのコノテーション(言外に含蓄される意味)は。

もちろん、マリノスGK榎本哲也のスーパーセーブだったことは確かな事実だし、マリノスの誰もが彼に感謝していたでしょ。

でも、「あのレベル」の決定的ピンチに追い込まれたコト(鳥栖が、あの絶対的チャンスを作り出したコト!!)の意味合いは?

まあ、また時間を置いて考えてみることにしましょう。

では、テレビ観戦した(これから観ま〜す!!)、サンフレッチェ対レッズ・・

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さて、サンフレッチェ対レッズ。

またまた、ゲームの構図は、組織的に攻め上がるレッズの攻撃を、「厚く」受け止め、そして、シンプルに(カウンター気味に)、素早くタテへ仕掛けていくサンフレッチェ・・ってな感じになった。

もちろんサンフレッチェは、全体的に下がり、受け身に守備ブロックを組織する・・なんていう、前近代的な消極ゲーム戦術(堅守速攻!?)なんてモノじゃなく、あくまでも、「積極的にボールを奪いかえしにいく!」という意識とイメージだよ。

この表現のニュアンスは、とても微妙だよね。

いまの「J」のクラブで、守備ブロックを固めて相手の攻撃を「受け止め」、そこからロングカウンターを繰り出していく・・なんていうチームは、ほとんどいないよ。

そうではなく、守備の組織をコンパクトにまとめ(前述した鳥栖のようにスリーラインを短いスタンス=間隔=で組織し!!)、受け身に、相手の仕掛けを「待つ」のではなく、あくまでも積極的にボールを奪い返しにいく(そのチャンスを積極的に演出する!)という姿勢。

とはいっても・・

そう、ゲーゲンプレスで有名になった、ユルゲン・クロップ率いるボルシア・ドルトムント、テクニカルGMラルフ・ラングニックが戦術コンセプトを作りあげ たザルツブルク、そのザルツブルクからレーバークーゼンへ移籍したロジェ・シュミット、ディエゴ・シメオネ率いるアトレティコ・マドリー等など。

ボールを奪われた次の瞬間には、何人もの最前線の選手たちが、ボール周りに、激烈エネルギーを内包する「協力プレス網」をブチかましちゃうような、守備の「やり方」のことだよ。

そんな、「ラジカルなボール奪取勝負コンセプト」を明確に実践しているのは、言わずと知れた、ベルマーレのチョウ・キジェと、松本山雅の反町康治。

でも、鳥栖やサンフレッチェは、チト違う。

もちろんチャンスがあれば、最前線からボールを追いかけ回し、そこに、何人もの味方が参加してくるような「前からの積極プレス」をブチかますことはあるけれど、それは、どちらかといったら希。

もちろん前述した、ショートカウンター狙いの、最前線ボールを失った次の瞬間から協力プレスを爆発させる「世界のクラブ」にしても、そのプレスをかわされたら、スッと、素早くポジショニングバランス・オリエンテッドな守備ブロックを組織するんだよ。

あっと・・チト、脱線。難しいディスカッションに入りそうになった。

この、守備の「機能性」というテーマにつては、追い追い、新連載「The Core Column」で取りあげることにしましょう。そろそろ、モティベーションの集約度もアップしてきているからね。

ということで、サンフレッチェ対レッズ。

言いたかったことは、サンフレッチェが、とても効果的に(カウンター気味に!?)素早く前へ仕掛け、チャンスを作り出していたっちゅうことです。まあ、「The Hiroshima」という決定的シーンは作れなかったけれどネ。

それに対してレッズは、どうも、うまくチャンスを作り出せない。

サンフレッチェの守備ブロックが強かったこともあるけれど、やはり、勝負のコンビネーションを成功させるための絶対的な条件である「ボールがないところでの動きの量と質」が不足していると感じた。

だから、人とボールの動きも「加速」せず、効果的なコンビネーションも、うまく機能させられない。

レッズの場合は、こんなゲーム展開が、これからも主流になるでしょ。だからこそ、相手の守備ブロックを「開かせ」なければいけないんだよ。

そう、たまには、(例えばズラタン狙いの!?)長い放り込みアーリークロスを入れたり、この試合で森脇良太がブチかましたようなミドルシュートを多用したり。

そんな攻撃の変化があれば、相手守備ブロックも、もう少し「開く」でしょ。

そうしたら、もっと頻繁に、サイドゾーンを崩して切れ込み、そこから決定的な「マイナス・クロス」を送り込めるようにもなるし、ドリブル突破のチャンスも増えるはず。

とにかく今のレッズでは、人とボールの動きの量と質をアップさせる(もちろんコンビネーションの流れの加速と、3人目、4人目フリーランナーの促進)とい う「王道」だけじゃなく、ちょっとアバウトでもいいから、相手守備が「ビックリ」するような勝負プレーもブチかましていくことが肝要だと思っている筆者な のですよ。

それにしても、今シーズンの「新人連中」は、パフォーマンスが高みで安定しないなど、まだまだ馴染んでいないね。

橋本和にしても、石原直樹にしても、ズラタンにしても、高木俊幸にしても、武藤雄樹にしても、加賀健一にしても・・

でも彼らが、大いなる希望を持てるだけの能力を有していることは確か事実だからね。彼らのこれからに「も」期待しましょう。

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 最後に「告知」です。

 実は、ソフトバンクではじめた「連載」だけれど、事情があって、半年で休止ということになってしまったんですよ。

 でも、久しぶりの「ちゃんとした連載」だったから、とてもリキを入れて書いていた。そして、そのプロセスを、とても楽しんでいた。自分の学習機会としても、とても有意義だったしね。

 そして思ったんですよ、この「モティベーション機会」を失ってしまうのは、とても残念だな〜・・ってね。

 だから、どこかで連載をはじようかな・・と、可能性を探りはじめた。そこでは、いくつか良さそうなハナシもあったし、メルマガでもいいかな・・なんてコトも考えた。

 でも・・サ、やっぱり、書くからには、できるかぎり多くの方々に読んでもらいたいわけですよ。でも、可能性がありそうな(メルマガも含めた)連載プラットフォームとしては、やはり私のホームページにかなうモノはなかった。

 ということで、どうなるか分からないけれど、とにかく、私のホームページで、新規に、連載をはじめることにしたのです。

 一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」

 そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」

 とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書こうかな。もし、うまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れてから立ち上げた新ビジネス」、そして「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。

 ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、一週間ごとにアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。

 もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。

 まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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