湯浅健二の「J」ワンポイント


2015年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第30節(2015年10月3日、土曜日)

 

レッズは、この試合でも、貴重な学習(イメージトレーニング)素材を得た・・(レッズvs鳥栖、1-1)

 

レビュー
 
「そうなんですよ・・前半は、槙野智章と森脇良太が、サイドゾーンで積極的に絡んでくる仕掛けに苦労させられたんです・・だから、そこのところを少し工夫しました・・」

試合後の監督会見で、鳥栖、森下仁志監督が、「後半のゲーム内容は大きく好転したが・・?」という質問に対して、そんなニュアンスの内容をコメントしていた。

たしかに、ハーフタイム(監督)コメントの情報シートにも、「レッズのサイド攻撃をケアすること・・」なんて書いてあったっけ。

サスガに、優れた策士(プロコーチ)の森下仁志さんだね。

今シーズンは、攻守にわたる粘り強い「積極(意志の)」サッカーは高みで維持できているモノの、ケガ人にも泣かされ、どうも結果に恵まれていなかった。

そんな今シーズンについて、森下仁志さんは、こんなふうに表現していたっけ。

・・たしかに今シーズンは、内容の割には結果をうまく引き寄せられていなかった・・でも、やっとケガから癒えた(主力の!?)メンバーが戻ってくるから、ここから巻き返していきますよ・・

フムフム・・。

あっと、ゲーム。

前半は、(前述したように!)レッズが、チーム総合力の「差」を魅せつけた。鳥栖ディフェンスブロックを崩し、何度も決定的スペースを攻略してチャンスを作り出したんだよ。

その(主な!?)ベースは、もちろん、サイドゾーンでの「動き」。

ここで言う「動き」とは、人とボールだけじゃなく、スペースの動き・・というニュアンスも含まれる。

要は、「人とボールと状況を動かす」ことで、鳥栖ディフェンスを翻弄したっちゅうことだ。

その、サイドゾーンからの仕掛け。

いつも書いているように(そして鳥栖の森下仁志監督も言っていたように!!)、レッズ両サイドゾーンからの仕掛けは、そこでの「動き」がうまく機能すれば、ホントに破壊的。

鳥栖ディフェンスが四苦八苦させられるのも道理だ。

そう、両サイド(センター)バック、両サイドバック、そして両サイドハーフで構成する、両サイドの「タテの創造性トリオ」が、抜群に危険な(効果的な!)仕掛けを繰り出すんだ。

タテ方向のポジションチェンジ(≒ディフェンスでの相互カバーリング意識!!)をベースに、爆発的な(ダイレクト)コンビネーション&ドリブル突破という、組織プレーと個の勝負プレーを、最高にコラボレートさせちゃうんだよ。

あっと、そのメンツ(まあ書くまでもないだろうけれど)・・。

左サイドは、槙野智章、宇賀神友弥、そして言わずと知れた武藤雄樹の「創造性タテトリオ」。

また右サイドは、森脇良太、関根貴大、そして梅崎司。

とにかく、ヤツらが展開する、「組織」と「個」がハイレベルにバランスした仕掛けプロセスは、観る者を魅了するぜ。

そして、そんな「サイドゾーンの創造性トリオ」をマネージするのが、(これまた!?)言わずと知れた柏木陽介と阿部勇樹っちゅうわけだ。

特に柏木陽介。

そういえば、彼について言及する機会は、ちょっと少なめだね。

そうなんだよ。彼のパフォーマンスが(槙野智章と同様に!!)素晴らしく高みで安定し、「そのこと」が当たり前になっていることで、コラムのテーマとして「抽出」され難くなっちゃうんだ。

スミマセン・・ね、柏木さん、(スーパーマンの!)槇野さん。

でも今回は、彼(柏木陽介)が、再び日本代表に選出されたこともあって、チト、書いてみようと思った。

でも、そう思ったのはいいけれど、そこでハタと考えざるを得なくなってしまった。何を、どのように書いたモノか・・。

そう、柏木陽介は、攻守にわたる抜群の「コレクティブ(組織)ゲームメイカー」だから、その一つひとつをピックアップするってのは大変な作業になっちゃう(読む方も大変でしょ!?)。

皆さんも観られている通り、彼がブチかましつづける、攻守にわたるハードワークとクリエイティブワークの量と質は、心からの賞賛に値するし、感動的でさえあるよね。

でも、それらを一つひとつ・・となると・・。

ということで、ここでは、「これ」にスポットライトを当てることにした。一発(勝負)ロングパス。

前述したように、レッズのサイド攻撃は、素晴らしく効果的です。

そして、だからこそ、「たまに」柏木陽介が中心になって繰り出す、一発ロング(タテ)パス攻撃が、「仕掛けの変化」という視点で、とても、とても大きな効果を発揮するんだ。

ターゲットは、言わずと知れた興梠慎三。

また後半では、ズラタン「も」、しっかりとウラの決定的スペースへ抜け出し、タテの一発ロングパスを受けていた。

あっと・・前半の内容だった。

そんな、変化に富んだレッズの仕掛けが、前半には、殊の外効果的に機能したんだ。そのことが言いたかった。

両サイドゾーンからブチかます、「組織」と「個」の抜群のコラボレーション。だからこそ、たまに繰り出す「一発ロング」が抜群の効果を発揮する。

そして鳥栖ディフェンスは、そんな「変化に富んだ仕掛け」に驚かされ、かなりタジタジってなことになってしまっていた。

でも・・

そう、後半は、レッズが繰り出すサイドゾーンからの仕掛けが、かなり「抑制」されはじめたんだ。

策士、森下仁志のウデの見せ所。

まあ、見た目には、サイドゾーンでの守備人数を「増やした」ようにしか見えないだろうけれど、実際には、様々な「戦術的守備ファンクション」が機能していた・・と、思う。

まあ、森下仁志さんと鳥栖選手たちのプレーイメージ(ゲーム戦術的意図)が、具体的に、どのようなモノだったのかまでは、明確には分からないけれど・・さ。

とにかくレッズは、鳥栖ディフェンスに、自分たちの代表的な(自信に裏打ちされた!)攻め手の一つをうまく抑制されてしまったというわけだ。

そして彼らの攻撃での「動き」が、徐々に停滞気味になっていったんだよ。

皆さんも観られた通り、前戦に「人数はいる」けれど、彼らの動きは活発じゃなかったでしょ。特にタテ方向の動きがね・・。

そのコトについてミハイロは、こんな風に表現していたっけね。曰く・・

・・選手たちは、積極的に攻め上がろうとしていた・・でも、急ぎすぎてしまうことで、前戦の「人の密度」が高くなり過ぎてしまう・・早いタイミングで「前」へ行き過ぎていたんだ・・

・・彼らは、相手守備ブロックを「引き出す」というアイデアも持たなければいけなかった・・

・・例えば、鳥栖ディフェンスラインとの間に20メートルのスペースがある・・そんな状況で、サイドでフリーになっている味方へ横パスを出しても、何もはじまらない・・

・・そんなときこそ、前戦の選手が戻り気味に走ったり、鋭いタテパスを入れたりすることで、ゲーム全体を、タテ方向に「揺動」させなきゃいけなかった・・

・・それがなければ、鳥栖ディフェンスは、常に(前を向いて!)自分たちの前のゾーンで勝負できる・・それじゃ、ウラのスペースを突いていこうったって、難しい・・

フムフム・・。まあ、そういうことだね。

とにかく後半のレッズは、「仕掛けプロセスに対するイメージ」という視点で、完璧に「袋小路」に追い込まれてしまったんだ。

そんな状況を打開していくリーダーシップが、柏木陽介や阿部勇樹に期待されているわけだけれど、いかんせん、周りが、「笛吹けど踊らず・・」ってな感じに落ち込んでしまっていたからね。

そして逆に、完璧なカウンターを「二つ」、決められかけてしまう。

「そこ」では、またまた「神様になった西川周作」に助けられた(また二つ目の大ピンチシーンでは相手の空振りにも助けられた!?)。

まあ、とにかくレッズには、このゲームで得られた「学習機会」を、ビデオなどのイメージトレーニング素材を存分に活用することで、残り4ゲームに活かすことを期待しましょう。

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ところで、ワケの分からない、1.ステージ、2.ステージ・・という「興行」について。

メディアは、「1.ステージ優勝」なんていうテーマで盛り上がっている。

でも・・ね・・

皆さんもご存じのように、「J」に関わっているサッカー人は、絶対に、『年間最多勝ち点チーム』を目指さなきゃいけないんだよ。

以前の「2ステージ制」とは違い、今シーズンからの「それ」では、シーズンが終了したとき、『年間最多勝ち点チーム』が一番エライってことになるはずだからね。

その後のトーナメントは、まさに「興行」。

そして「J」の歴史には、『年間最多勝ち点チーム』と『興行チャンピオン』の両方が刻み込まれる。そうじゃなきゃ、10年、20年後に、「昔」と比べられる、同じ基準のチャンピオンがいなくなっちゃうからね。

だから、「J」に関わっているサッカー人は、そして読者の皆さんも、『年間最多勝ち点チーム』をイメージしてシーズンを楽しむっちゅうわけだ。

この「テーマ」については、新連載「The Core Column」で発表した「このコラム」も参照してください。そこじゃ、いかに2ステージ制が、世界の主流フットボールネーションが築き上げた「伝統」に逆行しているのかというディスカッションを展開しました。

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 最後に「告知」です。

 実は、ソフトバンクではじめた「連載」だけれど、事情があって、半年で休止ということになってしまったんですよ。

 でも、久しぶりの「ちゃんとした連載」だったから、とてもリキを入れて書いていた。そして、そのプロセスを、とても楽しんでいた。自分の学習機会としても、とても有意義だったしね。

 そして思ったんですよ、この「モティベーション機会」を失ってしまうのは、とても残念だな〜・・ってね。

 だから、どこかで連載をはじようかな・・と、可能性を探りはじめた。そこでは、いくつか良さそうなハナシもあったし、メルマガでもいいかな・・なんてコトも考えた。

 でも・・サ、やっぱり、書くからには、できるかぎり多くの方々に読んでもらいたいわけですよ。でも、可能性がありそうな(メルマガも含めた)連載プラットフォームとしては、やはり私のホームページにかなうモノはなかった。

 ということで、どうなるか分からないけれど、とにかく、私のホームページで、新規に、連載をはじめることにしたのです。

 一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」

 そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」

 とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書こうかな。もし、うまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れてから立ち上げた新ビジネス」、そして「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。

 ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、一週間ごとにアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。

 もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。

 まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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