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- 2007_オシム日本代表・・「小さなコト」が徐々に改善され、着実に世界トップとの最後の僅差が縮まっている・・(日本対エジプト、4-1)・・(2007年10月17日、水曜日)
- 「ゲームの密度は濃くなっている・・ゲーム中に密度の濃いプレーをより長く出来るようになってきている・・」
イビツァ・オシム監督の記者会見での弁です。それだけではなく、彼はこんなことも言っていた。「目指すサッカーの方向性が明確に見えていること・・そのベクトル上で常に進歩していること・・それが大事なのだ・・」
オシム監督は、今日のゲームの内容に満足していたということです。自分が志向するサッカーコンセプトが着実にチーム内に浸透しつつあることに対する実感。そこには、「小さなコト」を修正する地道な作業が実を結びつつあるという意味合いもあります。
例えば、チェイス&チェックの(≒守備の起点を演出する)やり方・・例えば、相手からボールを奪い返すプロセスでの、ボールがないところでの微妙なマーキングポジション・・例えば、仕掛けの流れのなかでのボールがないところの動きの量と質・・例えば、ボールを持った選手の視線や、ボールの持ち方の微妙な変化によって、次のパスの可能性が(パスを受けた味方のプレーの可能性が)何倍にも増幅するという事実・・などなど、数え上げたらキリがない「小さなコト」。それこそが、世界トップサッカーとの「最後の僅差」を縮めていくための絶対的なキーポイントなのですよ。
イビツァ・オシム監督は、そんな「僅差を縮めていくプロセス」に、少しは満足しはじめているということでしょう。もちろん、それらの小さなコトに強烈にこだわりつづけるオシム監督のマネージメント姿勢に対する理解が、トレーニング(合宿)を通じ、チームのなかに徐々に浸透していったからこその進歩とも言えるわけです。
アジアカップやクラーゲンフルト(オーストリアでの4か国トーナメント)でのトレーニングレポートでも取り上げたように、そこでは、本当に様々な「小さなコトの修正」が地道に行われていたのですよ。まあ、気の遠くなるような作業ではあります。でも、選手たちの理解が進めば、選手たち自身による「主体的な調整メカニズム」も活性化するようになってくるはずです。要は、相互に意見をぶつけ合うという「チーム内でのディベート体質」が発展するということです。
イビツァ・オシム監督の満足げな表情の背景には、そんな、チームの「内的な相互刺激」による発展メカニズムの活性化を体感できたこともあったに違いないと思っている筆者なのです。とはいっても、「エジプトがベストメンバーで臨んできたらどうだったのかというテーマは残る・・まあ、そのときは(相手が強くなったときには)もっと集中してプレーできていただろうけれど・・」と気を引き締める。
決して(安易に)満足せず、常に課題を探しつづけるイビツァ・オシム監督。もちろんその絶対的ベースには、志向する理想イメージがあります。全員守備、全員攻撃のトータルフットボール・・。
[理想]マイナス[現実]イコール[課題]。イビツァ・オシム監督は、常にこの公式をイメージしながらチームを引っ張っているんでしょうね。
ところで、オシム監督の次に記者会見をおこなったエジプト代表のコーチ。「日本は、素晴らしい組織的なサッカーを魅せた・・エジプト選手も、日本の組織的なサッカーから学んだことが多かったことだろう・・」と、日本が展開した組織サッカーを手放しで誉めちぎっていた。エジプトはアフリカのチームだからね、これは面白いテーマだと、こんなことを質問してみた。
「エジプトはアフリカに属しています・・アフリカのサッカーは、個人のチカラが強調されるというイメージがある・・それでも、エジプトはちょっと違う・・私は、エジプトが、より組織的なサッカーを志向しているという印象をもっているのだが・・?」
「たしかにアフリカサッカーは個人プレーに頼る傾向が強かった・・それでも、選手たちがヨーロッパでプレーするようになったことで、組織プレーも発展してきた・・エジプトのサッカーは、アフリカとアジアとアラブのサッカーのミックスということで進歩してきたと思う・・とにかく、日本の組織プレーは素晴らしかった・・」
ちょっと舌っ足らずの回答だったけれど、まあ彼も、エジプトは典型的なアフリカサッカーとはちょっとニュアンスが違う・・ということが言いたかったんでしょうね。このゲームでも、組織と個がある程度うまくバランスしたコレクティブなサッカーを展開していましたよね。そんな積極的なプレー姿勢に対しては、我々も敬意(感謝の意)を表さなければいけません。何せ、日本が良いプレーを出来たのも、彼らがしっかりと攻め上がってきたからに他ならないのですからね。
ボールをしっかりと動かしながら、ある程度の人数をかけて押し上げてくるエジプト。それをガッチリ受け止め、鋭く、人とボールを動かしながら仕掛けていく日本代表。そうです。そこには「人の動き」で大きな差があったのですよ。それが、両チームのサッカーの質の差の背景にあったわけです。
局面勝負では、日本選手もタジタジという場面があるなど、個人的な能力では日本に優るとも劣らないエジプト。でも、全体的なサッカー内容では、日本に凌駕されてしまう。やはりサッカーの基本は組織プレーにありということです。「個の才能」が活かされるかどうかは、組織プレーの「質」によって決まってくるのですよ。そして、その組織プレーの「質」を決めるもっとも重要なファクターこそが、ボールがないところでの人の動き・・というわけです。
要は、エジプトの、ボールがないところでの人の動きの「量と質」が、日本と比較してかなり劣っていたということです。たしかにボールは動くけれど、それにしても足許パスばかりが目立っていたのです。
そんな攻撃の内容は、もちろんエジプトの守備の「質」にも大きな影響を与える。攻撃と守備は、プレーイメージ的に「表裏一体」ですからね。要は、「ボールがないところで勝負が決まる」という戦術的コンセプトの理解度、浸透度に、エジプトが(いや・・今回来日したエジプト代表チームが・・という表現の方がフェアでしょうネ)抱える問題の本質があるということです。だからエジプト守備ブロックは、日本の組織的な攻めについてこられずにウラスペースを突かれてしまうというシーンが目立っていたのですよ。そこでの主役は、もちろんボールなしの動きでした。
日本が演出した最初のチャンスシーン。そこでは、左サイドの駒野が繰り出した、パスを呼び込む「ボールがないところでの全力フリーランニング」が素晴らしい効果を発揮しました。もちろん、駒野が狙うタテのスペースへ出された正確なタテパスも素晴らしかった(山岸からだったか大久保からだったか・・)。まさに、ボール絡みプレーと、ボールがないところでのプレーの有機的な連鎖。また、その直後の前半9分には、加地のフリーランニングから(パス&ムーブから)素晴らしいクロスが送り込まれるというシーンもあった。この試合では、両サイドが活躍したわけだけれど、もちろんその背景には、両サイドハーフの「効果的なバックアップ」があったことは言うまでもありません。要は、効果的なタテのポジションチェンジということです。
そして次のテーマが、中盤での「ダイナミック・カルテット」。ここでは、最前線から下がり気味で、セカンドストライカーというニュアンスの方がつよかった大久保も含めましょうか。ということで、ダイナミック・クインテット。鈴木啓太、中村憲剛、遠藤ヤット、山岸智、そして大久保嘉人。良かったですよ、ホント。
特に、中盤の底で、攻守にわたって抜群のダイナミズムを発揮しつづけた鈴木啓太。彼がベンチに下がってから、どうもエジプトの中盤が、より積極的に機能するようになったという印象が残っています。要は、ダイナミックに相手ボールホルダーへ「詰めていくアクション(起点演出プレー)」が減退したということです。そのことで、エジプトは前へのエネルギーを増幅させることができた。それ「も」、エジプトの勢いが増幅したバックボーンにあったと思います。
とにかく、この試合で日本代表が魅せた高質なサッカーの絶対的バックボーンは、素晴らしい中盤ディフェンスにあったわけですからね。立ち上がりに加地や駒野が魅せた、相手ボールホルダーに対する爆発的な「寄せ」の動き(要は、相手ボールホルダーに対するチェイス!)。そこで演出された守備の起点プレー(相手ボールホルダーの動きを止めてしまうプレー)に、有機的に連動する協力プレス。そして、ボール奪取の次の瞬間には、ズバッと「散開」して繰り出される、鋭い組織的な仕掛け。ホント、素晴らしかったわけですが、そんな協力アクションをリードしていたのが、鈴木啓太と中村憲剛だったわけです。
そして中村憲剛。素晴らしい「牛若丸」ぶりでした。彼については、クラーゲンフルトでのオーストリア戦、スイス戦、そしてフロンターレの試合レポートなどを参照してください。例えば「これ」とか「これ」。私は、鈴木啓太と同様に、いまの中村憲剛(そのプレーコンテンツ)も、この日本代表にとってなくてはならない存在(機能ファクター)だと思っているのです。
まあ、鈴木啓太、中村憲剛、中村俊輔、遠藤ヤット、稲本潤一、松井大輔、山岸智、羽生直剛、藤本淳吾、山瀬功治、橋本英郎、そして(ものすごくポリヴァレントな)阿部勇樹と今野泰幸・・などなど、ライバルがひしめくミッドフィールドだから、オシム監督が言うように、「健全な競争環境」が整いつつあるということです。楽しみです。
ちょっと書きすぎ。疲れました。もう1時だから、これからオリンピック代表のゲームを観ることにしようかな・・。それとも、もう寝て、帰宅してから観戦しようかな(自宅ではビデオに録ってあります)・・。さて・・。
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しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。
基本的には、サッカー経験のない(それでもちょっとは興味のある)ビジネスマンの方々をターゲットにした、本当に久しぶりの(ちょっと自信の)書き下ろし。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というコンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影しているスポーツは他にはないと再認識していた次第。サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま三刷り(2万部)ですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞、東京新聞の(また様々な雑誌の)書評で取り上げられました。またNHKラジオでも、「著者に聞く」という番組に出演させてもらいました。その番組は、インターネットでも聞けます。そのアドレスは「こちら」。また、スポナビの宇都宮徹壱さんが、この本についてインタビューしてくれました。その記事は「こちら」です。
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