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2011_女子サッカー親善試合・・「それしかない」という強み・・(INAC神戸vsアーセナル、 1-1)・・(2011年11月30日、水曜日)

どうも皆さん。昨夜は、所用が重なったこともあってコラムをアップできませんでした。ということで、簡単に・・

 でも、まず「これ」から入りましょうか。わたしが、二宮清純さんと交替で連載している「商工ジャーナル」のコラム、「スポーツ・ビート」で発表した文章です。

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 「日本の女子代表は、サッカーの本質ともいえる高度な組織サッカーで優勝を勝ち取った・・強烈な意志に支えられたクレバーなチーム戦術・・それは、サッカーの本質的な価値と魅力、そして将来あるべき方向性を世界中にデモンストレートしたのだ・・」

 「なでしこジャパン」が世界チャンピオンに輝いた熱気のなか、ドイツ(プロ)サッカーコーチ連盟が主催する国際会議がはじまった。

 冒頭の挨拶で、連盟のホルスト・ツィングラーフ会長は、エキサイティングに編集された「なでしこの軌跡」が映し出される大スクリーンをバックに、深みのある表現で賞賛したものだ。

 サッカーをプレーする上で大事になってくるのは、パワーやスピードに代表されるフィジカル要素、ボールを扱うテクニック、組織的なパスやコンビネーションを支える戦術的な理解と実践力、そして心理・精神的な要素などだ。

 そのなかで、なでしこが、他のチームを圧倒した要素はあっただろうか?

 なでしこが展開した攻守にわたる組織(戦術的)プレーは、たしかに世界の賞賛を集めた。とはいっても、それが、ドイツやUSAとの圧倒的なフィジカルの差を、余りあるほど補ったかといったら、大きな疑問符がつく。

 ドイツやUSAもまた、なでしこ同様、戦術的にも洗練されたサッカーを展開したのだ。ただそこには、大きな違いがあった。

 ドイツやUSAは、ドリブル突破などの個人プレーで局面を打開できたし、スピードや高さを前面に押し出した最終勝負も繰り出していけた。それに対し、なでしこには、組織パスサッカーしか選択肢がなかったのだ。

 その事実こそが、彼女たちの強さのバックボーンだった。オプションがないという弱みを、逆に自分たちの唯一の「強み」として特化し、それをチーム一丸となって極限まで追求したのだ。

 パスを出す方と受ける選手のイメージがハイレベルでシンクロする。だから人とボールの動きがピタリと重なり合う。流れるような組織コンビネーションで人々を魅了したのも道理だった。

 自分たちには「それ」しかないという事実。だからこそ、最後の最後まで集中できた。一人の例外もなくチームプレーに徹し、決して諦めずに「それ」を繰り返せた。そこで彼女たちが魅せた驚異的な精神力(粘り)は、世界中の人々に感動と勇気を与えたものだ。そう、その「チーム一丸の統一された精神力」こそが他を凌駕していたのである。

 フィジカルで明らかに不利だった「なでしこ」が、互いに助け合う徹底的なチームプレーで世界の頂点に立った今回の女子ワールドカップ。世界サッカーにとっても、とても価値ある学習機会となった。それは、私だけではなく、世界のエキスパートたちも共有する総括だった。

 もう一つ確かな事実がある。それは、彼女たちが、日本にとって大切なアイデンティティー(誇り)になったことである。(了)

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 このコラムは、なでしこジャパンがワールドカップを制したことで、(二宮清純さんとの連載の順番を入れ替えることで!)急遽発表することになりました。

 今、その文章を読み返しながら昨日のゲームを反芻しています。そして、やはりなでしこジャパンには「それ」しかないよな・・と再認識していた次第。そう、究極の組織サッカー。

 昨日の記者会見でも、INAC監督、星川敬さんが同じようなニュアンスのことを言っていた。「カウンターでも個の勝負でもチャンスを作り出せる他国とは違い、我々(日本の女子)がゴールを奪えるのは、クロスとセットプレーからだけ・・」

 もちろん、そのクロスボールにしてもフリーキックにしても、スポットを絞り込んだ究極のピンポイント最終勝負ですよ。そして、「そこ」で直接決めてしまったり、その勝負でこぼれたボールを(忠実にサポートに上がってくる味方が!?)粘り強く押し込んでいく・・フムフム・・

 昨日のゲームでも、可能性の高いチャンスは、流れるような組み立てからのスルーパスや、ピンポイントをイメージした鋭いクロスボール(ニアポスト勝負など!)がメインだった。

 全体的なゲームの流れだけれど、チーム戦術的な(もちろん技術も伴った!)能力で一日の長がある日本が牛耳っている。全員のイメージが明確に、そして有機的に「連鎖&連動」しつづける素晴らしいコレクティブ(組織)ディフェンス(星川敬監督に拍手!!)から、人とボールが、素早く、広く、そして有機的に連鎖しつづけるスムーズな「動き」を魅せつづける。

 それは、それは、素晴らしい組織サッカーです。

 相手と、イメージ的には「身体の質量が半分」くらいの小兵プレイヤーが、まさに大木をかいくぐるかのような素晴らしく軽快なコンビネーションで(相手の)背後にある決定的スペースを攻略していくんだからね、まさに爽快そのものですよ。

 そんな昨日のゲーム展開を思い出しながら、「これしかない」ということが、チーム戦術的なイメージを統一、徹底させるという意味合いも含めて、たしかに強力な武器だという事実を再認識していた。フムフム・・

 それにしても、女子サッカーは日進月歩だよね。昨日のゲームでも、サッカー的な(個々のプレーの内容的な!?)常識イメージをベースに観戦しても、以前のようなストレスは、ほとんど感じなくなっている。

 もちろんスピードやパワー、また戦術能力的にも男子とは比べようがないコトは確かな事実だけれど、「そのこと」を大前提として・・要は、男子サッカーとは別物の「女子サッカー」というカテゴリーとして観れば、とても面白く楽しめるということです。

 当事者意識や参加意識を持てれば(おらが村のチームとして気持ちを入れ込めれば!)、シーズンを通して、ものすごく楽しめること請け合いだね。

 何せ彼女たちは、女子サッカーというスポーツカテゴリーでは、世界の超一流なんだから・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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