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2011_J2_第7節(予定繰り下げゲーム)・・前田俊介という「天賦の才」・・(FC東京vs大分トリニータ, 1-2)・・(2011年10月26日、水曜日)

 「前田俊介ですが・・この試合では、とても素晴らしいプレーを展開したと思います・・それは、田坂さんが、前の三人の選手タイプをうまく組み合わせたからに他ならないと思うのですよ・・」

 「ボールを持ったら、まさに天才的な前田俊介・・たしかに、それ以外の状況では(ボールがないところでの動きでも守備でも)サボリまくるのに、とにかくボールを持ったら、まさに天才・・だから、彼がボールを受けたら(ポストになったら!)周りの味方もガンガン上がっていく・・彼に対する絶対的な信頼を感じる・・」

 これは、私が、トリニータの田坂和昭監督にぶつけた質問です。わたしの質問ですからね、短いはずがない。あははっ・・

 「そんな前田俊介に対し、以前とは違い、デカモリシは、しっかりと汗かきプレーにも徹するし、(前田俊介がボールを持ったら)しっかりとスペースへ走ったりもする・・また先発で、スリートップの一角に入った(本来は守備的ハーフを務める!?)永芳卓磨も、最前線からの守備も含めて、しっかりと汗かき(サポート)プレーを展開する・・要は、前田俊介の才能を活かすための選手タイプのバランスという意味合いで、田坂さんのウデを感じたというニュアンスの質問なのですが・・?」

 この試合でのテーマは、大分トリニータの天才、前田俊介に絞り込ませて下さい。

 たしかにこの試合では、(大熊清監督が言うように)ちょっとバランスを欠いた「ゴリ押しの仕掛け」が目立ち過ぎたことで、結局はチャンスをモノに出来なかった(そして久しぶりの敗北を喫してしまった)実力チームのFC東京というテーマをピックアップすることも出来る。

 でも私は、とにかく「天才マエダ」のプレーが冴えわたっていたことで、「実効ある才能プレー」というテーマを逃す手はない・・と思ったわけです。

 天才的なプレーが「素晴らしい実効も」発揮する・・っちゅうグラウンド上の現象は、とても希(まれ)だからネ。わたしは、本当に久しぶりに、そんな「天才現象」に舌鼓を打てたことで、これはピックアップしない手はない・・とキーボードに向かうことにした次第なのです。

 皆さんもご存じのように、わたしは「似非(エセ)の天才」は大嫌いです。

 要は、自らが秘める天賦の才に溺(おぼ)れ、忠実な汗かきプレーもせずに足許パスばかりを要求する(うぬぼれの!)怠惰な選手。それでいて、ドリブルで相手を抜き去ってチャンスを作り出すなど、勇気と責任感をもって、一人で状況を切り開いていくような気概(強烈な意志)もないような、格好だけの選手。

 そんな輩(やから)に限って、ボールをこねくり回して相手に囲まれてしまう・・そして、仕方なく逃げの横パスを出すだけじゃなく、足も止めて次の足許パスを待つばかり・・また、チャンスなのに、リスクを冒してドリブル突破にチャレンジせず、カッコつけのボールキープ(似非のタメ!)から逃げのパスを出す・・もちろん守備は、味方にとって迷惑千万な中途半端プレーばかり・・等など・・ホント、観ていて腹が立つ。

 これまでの前田俊介も、典型的な「似非の天才プレイヤー」という印象の方が強かった(まあ、彼のプレーを観たのはそんなに多くないけれど・・)。だから、これまで所属したサンフレッチェやFC東京でも、期待されながら、まったくといっていいほど(その才能に見合った!)活躍ができずにいた。それが・・

 「おっしゃる通り、前の三人については、全体的な機能性がアップするように選手タイプを組み合わせたつもりです・・今日の試合では、それが上手く機能した・・森島(デカモリシ)をトップに据えるだけではなく、たまに前田をトップに置き、周りの二人にシャドー的なイメージを与えたり、後方からの押し上げも含めて、積極的にタテのポジションチェンジにもトライさせた・・」

 トリニータ田坂和昭監督が、そんなニュアンスの内容をコメントします。

 「我々は3-4-3というシステムを採用しているわけですが、攻めでは、ファイブトップになるというイメージを与えていますし、守備にはいったらファイブバックをベースに組織づくりするというイメージを作り上げたつもりです(もちろん田坂さんが言うのは、受け身に下がって守備の組織を作るという意味合いじゃないよ・・念のため・・)・・」

 「もう一つ付け加えたいのですが・・前田俊介は、決してサボりまくっているわけじゃありませんよ・・たしかに以前はサボる傾向が強かった・・でも、厳しいトレーニングを通し、いまでは(ボールがないところでも・・攻守にわたって!?)しっかりと走れるようになっていると思っています・・ということで今後は、前田俊介は、ボール周りだけの選手じゃないとご認識いただければ幸いです・・」

 田坂和昭監督に、決然と、そのような指摘をされてしまった。

 田坂さん・・申し訳ありませんでした・・たしかに私の認識不足かもしれません・・とにかく、トリニータのためだけではなく、日本サッカーのためにも、あの「天才」を、実効あるカタチで発展させてくれているに違いない優れた仕事に対して、敬意と感謝の意を表します。

 あっと・・その前田俊介の具体的なプレーだけれど・・例えば・・

 ・・後方からのパスを受ける前田俊介・・もちろん相手ディフェンダーが、背後から迫力のチェックをブチかましてくる・・でも前田俊介は、そんな状況でも、まったく動じることなく、余裕をもってボールをキープしてしまう・・

 ・・そんな「生意気」なボールキープに熱くなったディフェンダーが、より強くプレッシャーをかけてくるのも道理・・でも次の瞬間、前田俊介の「天才」が光り輝く・・スッと、相手のプレッシャーをすり抜け、あろうことか、そのディフェンダーの背後のスペースへ抜け出てしまうのだ〜・・

 ・・ホント、ビックリした・・それが、一度や二度ではない・・何度も、何度も・・強者ぞろいのFC東京ディフェンダーが、一人の選手の「単独プレー」で、背後を取られてしまう・・そのFC東京の強者ディフェンダーには(この試合では今野泰幸は出場停止だったけれど・・)あの森重真人や徳永悠平といった猛者がいるんだからね・・とにかく、前田俊介の才能はホンモノだ・・

 ・・だからこそ、前田俊介が、最前線でボールを持ったら(ホンモノの実効あるタメ!!)周りのチームメイトたちが、それこそ脇目も振らずに最前線へ飛び出していく(いける)のも道理・・また、以前だったらドリブルで「行き過ぎ」ることで、無駄にボールを奪われるというシーンが多かったが、いまでは、それも少なくなっている・・ドリブルしていても、相手を引きつけてからのスルーパスなど、常に次の「実効プレー」をイメージしながら勝負ドリブルを仕掛けていると感じる・・フムフム・・

 ・・ロスタイムに入った直後のシーン・・最前線で前田俊介がボールを持ち、例によってFC東京ディフェンダーを翻弄する・・この頃には、FC東京ディフェンダーの誰もが(どうせ奪い返せないと!?)ボールをもつ前田俊介に、本格的なアタックを仕掛けなくなっている・・ちょっと様子見のFC東京ディフェンダー・・そして、そんな相手の消極マインドを見透かすかのように、「天才」前田俊介が、スッ、スッと、スペースへとボールを動かしていく・・

 ・・そのシーンを観ながら、鳥肌が立った・・天才だ!・・そして、そんな天才的ドリブルからタイミングよく放たれたサイドチェンジパスによって、逆サイドを上がりつづけたトリニータ選手が完璧なフリーシュートを放つのですよ・・ホントに溜息が出た(決勝ゴールは、同じような勝負ドリブル&必殺パスを魅せたデカモリシのスルーパスからだったけれど)・・

 ・・トリニータでは(田坂和昭監督も語っていたように)そんなカウンタープロセスについて、選手たちが明確なイメージを共有していると感じる・・いや、ホント、素晴らしいよ・・

 ということで私は(もちろん他のジャーナリストの方々も含めて!?)、こんな素晴らしいサッカーを魅せるトリニータの現在の順位が、とてもそぐわないモノだと感じていた(まあ前半は、いまの彼らの順位そのままっちゅうお粗末なサッカーだったけれどネ・・あははっ・・)。

 そのことについて質問を受けた田坂和昭監督は、「そうなんですよ・・我々のテーマは、より安定したサッカーが展開できることなんです・・」と語っていたっけ。

 というわけで、大分トリニータの前田俊介。たしかに「この試合」では天才プレーが光り輝いたわけだけれど、チームとともに、前田俊介もまた、攻守にわたる汗かき仕事も含めて(!?)、この試合で魅せたパフォーマンスをよりアップさせ、それを高みで安定させることを最大のテーマにしなければいけません。

 そうすれば、必ずや、それに見合った評価と何らかの「フェアな報酬」を勝ち取ることが出来るはずです。ちょっと楽しみが増えたね・・。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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