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2011_ナビスコ決勝・・アントラーズの実力勝ち・・また様々なテーマをピックアップしました・・(RvsA, 0-1)・・(2011年10月29日、土曜日)

まあ・・ね・・フェアにサッカー内容を評価すれば、「順当なアントラーズの優勝」という表現が当てはまるファイナルだったと思いますよ。

 もちろん、(幸運をも呼び込むような・・!?)レッズの頑張りが、アントラーズの退場を「誘い」、その後は延長までもつれ込むというエキサイティングなドラマにまで発展したわけだから、観ている方にとっては、入場料にオツリがくるってな決勝戦になったわけだけれど・・

 とはいっても、レッズ堀孝史監督が言うように、実力的にはアントラーズに一日の長あり・・という事実は如何ともし難かった。

 またそこには、後半の5分に山田直輝が退場になってから、後半34分にアントラーズの青木剛が退場になるまでには30分あったわけだけれど、その間のゲーム内容と、人数がイーブンになったその後のゲーム展開に、大きな違いが出てこなかったという事実もあるよね。

 「いま堀さんは、アントラーズの方が一枚上という表現をされたが、彼らのどんなところがもっとも上なのだろうか・・?」

 堀孝史監督に、そんな質問をぶつけてみたのですが、例によって彼は、とても立派に、そして誠実に対応してくれましたよ。

 「一枚上という要素のなかでは、やはり経験というか、優れたゲーム運びというか・・その部分が大きいですよね・・前半でも、我々がイニシアチブを取り、積極的にゴールへ向かうという時間帯があったわけですが、そこでアントラーズ守備は、本当にギリギリの(要はファールが目立たない!?)競り合いから上手くボールを奪いかえした(このニュアンスに秘められた意味こそが本物プロの神髄!)・・そして見事な必殺カウンターをブチかましてきた・・そんなところに、アントラーズの優れた経験(優れた勝負感覚)が見え隠れすると思うわけです・・」

 堀孝史。彼がまだ現役だった頃、何度も、彼のプレーに興奮させられたものです。

 無様な沈滞サッカーを展開していたレッズが、後半から登場した堀孝史のスーパーダイナミックプレーによってよみがえり、チーム全体の運動量やハードワークの量と質などが何倍にも跳ね上がったというゲームを体感したことがあります。

 そんな、スーパーな「刺激プレー」は、湘南ベルマーレ当時でも、何度も体感させてもらった。だから何度か、「一人の選手がゲームフローを逆流させた・・」というタイトルで文章を発表したことがあった。

 当時は、まだサッカーマガジンや週刊プレイボーイなどで連載を持っていたし、その他のスポットメディアでも、何度も、堀孝史の攻守にわたるスーパーダイナミックプレーを取りあげたものでした。

 ・・抜群の運動量と優れた(効果的な)全力スプリントをベースに、攻守にわたってハードワークを積み重ねることでチームを強烈に鼓舞する堀孝史・・

 そんなこともあって、ちょっとエモーショナルだけれど(情緒的に過ぎるとは思うけれど)、記者会見での彼の真摯な態度も含め、とにかく堀孝史には頑張ってもらいたいと、心の底からサポートしたいと思う筆者なのです。

 もし堀孝史のことを、自己保身とかの組織内の悪魔的な意図で何らかのスケープゴートに仕立て上げようなどとする動きがあったら、そのときは、もう「やるっきゃ」ないでしょう。とにかくレッズのクラブマネージメントは、とても深〜い、体質的な問題を抱えているようだからネ。

 サッカーを通したスポーツ文化の振興・・その主役は、決して「彼ら」ではなく、生活者の皆さんなのですよ。

 アッと、ちょっと脱線。ということで、堀孝史に対する、ちょっとエモーショナルなサポート。

 それは、プロにあるまじき態度かもしれないけれど、まあ、こんなエマージェンシー(レッズが置かれた緊急事態)だから、そんな「エモーション」を前面に押し出してもいいじゃネ〜か。前にも書いたけれど、「エモーショナル価値」も、サッカーの本質的な魅力の構成要素なんですよ。

 さて・・ということで(レッズを応援しているからこそ!)ここからは「エモーション」とは別の視点で、レッズの戦術的な分析に入ることにします。要は、前戦にドリブラーばかりを置くという攻撃のやり方について・・です。

 原口元気、セルヒオ、そして梅崎司。それぞれは、とても優れた「相手にとって危険なドリブラー」ではあります。でも、相手は、百戦錬磨のアントラーズ守備ブロックだからね、巧みに、まさに巧みに、そして効果的に(またダーティーギリギリで!)レッズが誇るドリブラーを潰しまくるのですよ。

 決して安易に当たりにいかず、粘り強く併走することでドリブルのスピードを落とさせ、仲間と協力プレスを仕掛けて潰してしまう。

 レッズの超速ドリブラーたちは、ほとんどケースで、ドリブルをはじめたら「イメージ的に孤立」してしまう。要は、サポートがいない・・サポートを使おうとしない・・ということだけれど、アントラーズは、そんなレッズの「クセ」をよく知っているから、とにかく効率的に追い込んでいたね。

 サポートがあれば、ドリブルすることで相手守備を引きつけ、必殺のスルーパスで決定的スペースを突いていくことだってできるのに・・。

 それだけではなく、そんな前戦のドリブラーたちのせいで、レッズ両サイドバックも、まったくオーバーラップできなかった。

 多分それは、ナビスコカップ決勝を戦う堀孝史監督の「ゲーム戦術」だったんでしょ。アントラーズの組織的な攻撃を安定的に「受け止め」、柏木陽介とか山田直輝といった「リンクマン」を中心に、前戦のスーパードリブラーの才能を最大限に活用する(必殺カウンター!)。

 どうだろうかネ・・。次のリーグ戦の相手であるジュビロの現場マネージメントは、もちろん「この試合」もスカウティングしているでしょ。だから、アントラーズ守備が魅せた「ドリブラー潰し&必殺カウンターのイメージ」を、しっかりと盗んで活用してしまうに違いないと思う。

 もちろん最後は堀孝史監督の決断になるけれど、わたしは、前戦の「選手タイプ」を、もう少し「うまく組み合わせる」方がいいように感じる。

 例えば、デスポトビッチとかの「ポストプレイヤー&潰れ役」を置くことで、レッズドリブラーたちのイメージを少し「組織パス寄り」に修正するだけではなく、そのことで、相手守備ブロックのボール奪取イメージを攪乱(勝負イメージを揺動)させられるかもしれない。

 また、リンクマン・コンビだけじゃなく、現代サッカーでもっとも重要な意味をもつサイドバックの攻撃参加も、効果的に展開できるようになるはず。

 とにかく、もう少し人とボールを動かさなければ・・と感じていた筆者なのですよ。さて・・

 ところで、サイドバックの攻撃参加だけれど、アントラーズは、本当に素晴らしかったね。左のアレックスと右の新井場徹。サイドハーフだけではなく、小笠原満男や柴崎岳で組む守備的ハーフコンビによる、タテのポジションチェンジのバックアップ(カバーリング)も素晴らしかったからね。

 このところ、アントラーズのサッカーをよく観ていますよ(テレビ観戦が多いけれど・・)。とても優れた、バランスの取れたサッカーを展開していると思う。

 守備については、前述したように、実効レベルの高い、経験豊富なハードディフェンスを徹底している。そんな積極的な(勝負イメージが連動しつづける)ボール奪取アクションがあるからこそ(それぞれの自信と確信、そして相互信頼レベルが高いからこそ!)、次の攻撃でも、積極的に人数をかけていける。

 彼らが魅せるボールの動きは、リーグでも屈指だね。そんな効果的なボールの動き(もちろん人の動きが絶対的なベースだよ!)があるからこそスペースを攻略できる。だからこそ、興梠慎三や大迫勇也に代表される「個の勝負師」連中の才能を最大限に活かすことができる。

 何度アントラーズが(前半の人数がイーブンのときでも!)、組織プレーと個人勝負プレーを効果的にミックスすることで決定的チャンスを作り出したことか。

 ただ、だからこそ、大きな課題が白日の下に曝(さら)される・・。ということで、オズワルド・オリヴェイラ監督に聞いた。

 「このファイナル・・最後には、アントラーズが順当な勝利を収めたけれど、そこに至るまでには、厳しいプロセスがあった・・ご自身もおっしゃっていたけれど、 それは、自分たちで自らを厳しい状況に陥れてしまったという表現ができるかも知れない・・要は、チャンスをゴールに結びつけられないという現象のことです・・」

 「今シーズンのアントラーズは、優れたサッカーを安定して展開している・・スペースを活用してチャンスも作り出している・・でもゴールを決められないことで勝ち点を積み上げられずに優勝争いに加われなかった・・」

 「先シーズンのレッズ、フォルカー・フィンケにも聞いたことがあるのだが・・当時のレッズは、チャンスの量と質からすれば、それをゴールに結びつける確率で、とても低かった(たぶんリーグでダントツのビリ!?)・・ということで、経験豊富なオリヴェイラさんだから聞くのですが、チャンスをゴールに結びつけるという現象の本質的なバックボーンは何だと思われますか??」

 またまた長〜い質問になってしまった。それでもオズワルド・オリヴェイラ監督は、あくまでも真摯に、例によって、ものすごくシリアスな表情で、こんなニュアンスの内容をコメントしてくれた。

 「まず、フォルカー・フィンケ当時のレッズとは比べられないということを断っておきたい・・わたしは、彼らの内実を知らないわけだから・・」

 「チャンスの量と質が、実際のゴールに結びついていないというテーマ・・まあ、チャンスとゴールの比率が見合っていないということだが、それは自分にとっても、とても大きなテーマなんだよ」

 「そのテーマについては、常に選手とも話し合っている・・そこでテーマを探し、ディスカッションする・・もちろん(そこで話し合われたニュアンスをバックボーンに!)選手たちも、しっかりとゴールを奪おうとはしている・・」

 「我々は、安定してゲームをコントロールできていると思っている・・ただ、ゴールを奪えないから勝ち点を積み上げられない・・たしかに何試合かは、とても内容の悪いゲームもあった・・ただ、安定したグッドゲームの方がマジョリティーであることも確かな時日だと思う・・」

 「ゴールをしっかりと決めるというテーマだが・・自分でも、何が足りないのかと常に自問自答している・・もちろん、そこで見出された仮説をトレーニングに応用する努力を積み重ねている・・まあ・・サッカーにおける永遠のテーマということだな・・(最後の文節は、筆者の演出です・・でもオズワルド・オリヴェイラ監督は、そのようなニュアンスを意図していたに違いない・・)」

 このテーマは、私にとってもライフワークみたいなものです。以前、ゲルト・ミュラーとかルディー・フェラーが私に語った表現を引用したことがあるけれど、まあ、要は、心理・精神的なバックボーンが大事という結論かな・・。

 このテーマについては、今後とも繰り返しディスカッションを積み重ねることになるはずです。

 今日は、こんなところです。では・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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