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2011_ナビスコカップ・・レッズに、久しぶりのポジティブな変化の兆しを感じた・・(レッズvsモンテディオ, 2-0)・・(2011年6月5日、日曜日)

また「これ」だよ〜〜・・

 レッズが陥っている停滞サッカーのことです。立ち上がりの数分間は気合いが入る(人とボールの動きが活性化するような雰囲気だけは感じられる)けれど、その後は、まさに鳴かず飛ばずという沈滞サッカーになってしまう。まったく人とボールが動かず、足許パスを出してはモンテディオ守備にインターセプトされたり、トラップの瞬間を狙われてアタックされたり。

 こんな体たらくだから、もちろんモンテディオ守備ブロックの裏スペースを攻略できるはずもない。モンテディオ守備にとっても、自分たちの眼前で展開される足許パスだから、まったく怖くないし、余裕をもって次のボール奪取勝負のイメージを描ける。フ〜〜・・

 とにかくレッズ選手は、走ることを忘れてしまった・・と思う。

 例えば守備。その絶対的ベースである「チェイス&チェック」にしても、まさにお座なりだし、それがダイナミックに機能しないから「次」を狙えない。だから周りも、漫然と、基本的なマーキングポジションを取っているだけ。そして、自分の近くの敵にボールが回されてきたら、遅ればせながら・・ってな雰囲気で間合いを詰めていくだけ。これじゃネ・・

 また攻撃でも、人の動きが緩慢の極み。スペースへの抜け出しフリーランニングや、後方からのダイナミックなサポートの動きといった、ボールがないところでのアクション(動き)の量と質が、とにかく、ハンパじゃなく最低最悪なのです。

 だから、相手を惑わす組織コンビネーションなんて出てくるはずがない。スッとスペースへ抜け出してパスを受け、シンプルに展開して「爆発パス&ムーブ」をする・・そんな、『強い意志が込められた!!』ダイナミックな組織コンビネーションを積み重ねていけば、以前のような素晴らしい組織サッカーが甦ってくるはず・・そして、そんな組織パスプレーによって相手守備の薄い部分にボールを運べれば、個のドリブル勝負だって、より効果的に繰り出していける。でもサ・・

 もう、何か、観ているのが辛くなってしまったですよ・・ホントに。

 何せ、選手たちのフラストレーションが肌身に感じられるわけだからネ。彼らにしても、自分たちのサッカーが、まさにジリ貧の停滞サッカーだと体感しているはずなのです。でも、どうやったら、その深みから抜け出せるのか分からない・・サッカーは、究極のチーム&心理ゲームだから、一つでも歯車が狂ったら、そのネガティブビールスが、瞬間的にチーム全体を冒してしまう・・フ〜〜・・

 誰が悪いというわけじゃないんだよ。サッカーでは、「やらなくても・・行かなくても」、その消極プレーが目立つことはないからね。もっと言えば、「行かなければ」、ミスをする危険を完璧に回避することだって出来るんだよ。

 それこそが、サッカーが秘める、究極の「心理的な落とし穴」「心理的なワナ」っちゅうわけです。フ〜〜・・

 だからこそ、監督という「ストロング・ハンド」が必要になる。そう・・「人間の心理・精神的な弱さ」と闘う、強烈な意志とパーソナリティーを備えたストロング・ハンド・・

 ちょっと、愚痴が過ぎた。

 そしてここから、コラムに本題に入るわけです。そうです。後半の残り20分くらいから、レッズのサッカーに光明が見えはじめたのですよ。そこで私も、ハッと目が覚めた。

 残り20分・・というのは正確じゃないかもしれないね。まあ・・田中達也が登場し、マルシオが守備的ハーフ(センターハーフ・・リンクマン・・後方からのゲームメイカー)に下がった辺りの時間帯から・・っちゅうことです。とにかく、何かが変わりはじめた。

 その「何か」とは、選手たちの「意志」の内実ということなのかもしれない。彼らのなかに溜まっていたフラストレーションが、弾けた!?

 そのキッカケは、もちろん、田中達也の、攻守にわたる(ボール絡み&ボールがないところでの)ダイナミック汗かき(組織)プレー。その「刺激」が、周りのチームメイトたちを鼓舞していった!? わたしは、そんな達也のプレー姿勢が、少なくとも、その後のレッズが魅せた「ダイナミックな変身」の一つの重要なキッカケになったと思っているのですよ。

 もちろん、右サイドに張り付いてはいるけれど、彼の場合は、あくまでも「基本ポジション」というイメージだからネ。必要とあれば、どんどん中に入っていったり、逆サイドや自軍ゴール前まで戻ったりする。

 そんな、チームのダイナミズムが再生していくプロセスで、マゾーラが登場し、エジミウソンとツートップを組んだ。

 彼には、プレーすることが必要だね。スピードやテクニック&パワーなど、とにかく能力は高い。でも、何か「肝心なところで、気の抜けたミスをする」悪いクセがある。とはいっても、この試合では、とても粘り強い競り合いプレーを魅せたし、思い切った(素晴らしいスピードにあふれた)突破ドリブルも披露した。また、そんな勝負の流れのなかから、「エイヤッ!」といったフッ切れたシュートを何本も飛ばした。彼のパワフルで正確な左足キックは、とても魅力的だね。

 相手にとって脅威ということになれば、それだけで相手守備ブロックの「バランス」を崩せるんだよ。そう・・マゾーラは、味方にとっての『スペースメイカー』としても機能できるキャパにあふれているっちゅうわけです。

 それに、いまの彼は、とても「ハングリー」だとも感じるよね。何かを成し遂げたい・・と、心から渇望している・・と感じる。だからこそ、いくら集中の切れた(無様な)ミスを繰り返したとしても、とにかくプレーさせることが大事だと思うわけです。

 そして最後に登場した(レッズの牛若丸!!)山田直輝。素晴らしいプレー姿勢を魅せつづけた。心理ダイナミズム(=チームにとってのポジティブな刺激)を放散しつづけた。彼が入るだけで、人とボールの動きが大幅に活性化する・・なんてことまで感じた。

 とにかく、山田直輝が魅せる、シンプルプレーと、勇気をもったリスクチャレンジプレーは特筆だった。特に、勝負の組織コンビネーションをリードしようとする強烈な意志には感銘を受けた。

 そして思った。そう・・「これ」なんだよ・・いまのレッズに欠けているのは・・強烈な意志こそが、いまのレッズに必要なんだ・・いまのレッズには、山田直輝が必要なんだよ・・

 基本ポジションをキープさせようとする指揮官の意図は尊重しましょう。それでもサッカーは、生き物だからネ。一度「勝負の流れ」がスタートしたら、もう基本ポジションなんて関係なく、とにかく全員で、ウラの決定的スペースを狙うんだよ。

 もちろん、勝負ドリブルで相手を置き去りにしてもいいし、組織コンビネーションでスペースを突いていってもいい。でも・・まあ・・組織パスプレーが、やっぱりスタートラインだよね・・それによる、活発なボールの動きがあれば、自然と、スペースを効果的に使えるようになるし、原口元気に代表される(それに今日からはマゾーラも!?)勝負ドリブルが、これまでの何倍もの実効を発揮する!? フム〜〜・・楽しみだね。

 そんなダイナミックサッカーが機能しはじめたら、基本ポジションを極力維持しようなんていう意図は、意味をなさなくなるはず。何せ「そんな戦術イメージ」は、選手の能力が限られているから・・という後ろ向きの発想から出てきたものだからね。

 もっと選手を信じて自由を与えましょう。やらなかったら、容赦しなければいい。また、選手たちが自主的にチャレンジしはじめ、「それ」がうまく回りはじめたら、指揮官だって黙らざるを得ない。

 そんな視点でこれからのレッズの「展開」を観察したら、とても面白いかもしれないね。

 あっと・・最後に、マルシオの守備的ハーフについて。とてもいい。ホント、素晴らしかった。

 ・・必要とあらば、何十メートルも、相手のパスレシーバーを全力で追いかける・・また局面での競り合いでも、「これぞ才能!」といった素晴らしく粘り強いボール奪取勝負を魅せる・・また、イマジネーションにあふれたカバーリングも上手い・・などなど・・

 もちろん、長く観察したワケじゃないから無責任なコトは言いたくないけれど、この試合で魅せたマルシオのパフォーマンスは、まさに「本物のボランチ」のソレでした。

 ・・マゾーラ・・山田直輝・・田中達也・・梅崎司・・原一樹・・まあ、セルヒオについては、強烈な、「走ること(&守備)に対するトレーニング」と「コンビネーションに対するイメージトレーニング」が必要だけれどネ(いまのセルヒオではライバルにはなれない!?)・・

 今のレギュラークラスの選手たちが、健全な競争環境によって「ポジティブな刺激」を与えられるという心理環境を整備することも監督さんのタスクなんだよ。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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