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2011_ランコ・ポポヴィッチ(町田ゼルビア監督)・・(2011年11月23日、水曜日)

観てきました、JFL、町田ゼルビア対ホンダロックSC。結局「4-0」で、来シーズンからの「J2」入りを目指すゼルビアが大勝を収めた。

 とはいっても、実際の展開としては、決して、ゼルビアがゲームを支配して相手をボコボコにしたっちゅうワケじゃありません。ゼルビアが前半40分に先制ゴールを決めるまでは、ホンダロックの粘り強いディフェンスと危険なカウンターで、勝負がどうなるかは神のみぞ知る・・っちゅうゲーム展開だったのですよ。ただ・・

 たしかに攻めあぐんでいたゼルビアだったけれど、先制ゴールを決めるまでにも、何度か、必殺スルーパスで、ホンダロック守備のウラに広がる決定的スペースを攻略していたのです。それは見事な「タテの必殺コンビネーション」。特に、ギリギリのタイミングで出されるスルーパスの受け手として抜群の動き出しを魅せつづけた勝又慶典には大拍手でした。

 わたしは、合宿中の関塚ジャパンと、ゼルビアとのトレーニングマッチを観ました。そこでは、ゼルビアが展開した「スーパー組織サッカー」に圧倒された。私だけじゃなく、関塚ジャパンも・・

 とにかく、攻守にわたって、人が(もちろんボールも!)動きつづける、素晴らしいコレクティブ(組織)サッカーが爽快でした。でも、この試合では・・

 そう・・たぶんゼルビア監督ランコ・ポポヴィッチは、このゲームに臨むに際し、絶対に勝利するための「ゲーム戦術」を徹底させたんだと思う。

 ゼルビアが基本的に志向する(!?)、リスクチャレンジがテンコ盛りの、ハイテンポな組織コンビネーションサッカーを抑え気味にし、それとは方向性がちょっと異なる、簡単にピンチに陥らないような「より安全確実なゲーム戦術」を選択したということですかね。

 多分ランコ・ポポヴィッチは、選手たちのアタマのなかに、こんなイメージを作り上げた・・!?

 ・・最前線までも追い抜いて決定的スペースへ飛び出すような積極フリーランニングについては、少し意識して注意深くやろう・・(次のディフェンスも視野に入れ)より注意深く人数&ポジショニングバランスを取る方に神経をつかおう・・そして、確実にボールを動かしながら、勝負所では、勝又慶典が決定的スペースへ抜け出すことを明確にイメージし、勇気をもってスルーパスを送り込もう・・とにかく、この試合では、まず忍耐が大事になってくる・・等など・・

 そして、まさにその通りの展開になった・・と、私は思っている・・。

 ゼルビアは、次のディフェンスを意識し、攻めているなかでも、互いの人数とポジショニングのバランスに気を遣っていた(すこし勝負寄りに、慎重にゲームを運んだ!?)。とはいっても、そんな落ち着いたボールの動きのなかでも、勝又慶典の飛び出しだけは、極限の集中力をもってイメージしつづけるのです。フムフム・・

 そしてゼルビアは、まさに彼らの狙い通りのカタチで、先制ゴール、追加ゴールを奪うのです。そんな首尾一貫した戦術サッカーと、それを現実の結果(ゴール)に結びつけてしまう勝負強さに、ちょっと(ポジティブに)驚かされていた筆者でした。

 ということで、2-0とリードを広げて以降は、ゼルビア本来の、人とボールがダイナミックに動きつづけるコレクティブサッカーが炸裂したことは言うまでもありません。

 あっと・・いやいや、その表現は、ちょっと違うかも。「炸裂」したのは、何も失うモノがなくなったホンダロックもしかりだったっけ。

 勝負の行方が見えてきたゼルビアだけではなく、それまで忍耐サッカーを忠実に実行しつづけていたホンダロックもまた100パーセント解放され、抜群に危険な攻撃ダイナミズムを魅せはじめたのです。そしてもちろんゲームは、例によってのダイナミックなエキサイティング展開へと突入していくわけです。

 でも、ホンダロックの城和憲監督も認めていたように、この試合でのホンダロック守備ラインは、主力選手がケガで欠場していたこともあって(!?)とても不安定だったね。そのことは、前半に、何度もスルーパスを通されたシーンからも明らかだった。

 そして、積極的に攻め上がっていったからこそ開いてしまったホンダロック守備ラインの穴を突くように、一本、二本と、ゼルビアが必殺カウンターをブチかますのです。まあ、互いに解放されたサッカーを展開したからこそ、本来の実力の差が、より鮮明に見えてきた・・ということか。

 とにかく、そんな紆余曲折があったエキサイティングマッチではありました。

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 ということで、ここからは、ゼルビア監督ランコ・ポポヴィッチの話題に入ることにします。

 彼については、ウィキペディアの「このページ」を参照して下さいネ(わたしは、ウィキペディアに、もう何度かdonateしてまっせ・・あっ、蛇足・・)。

 ということで、ランコ・ポポヴィッチ。彼が、記者会見で、こんなニュアンスの興味深い内容をコメントしてくれた。それにしてもよくしゃべるな〜・・あははっ・・

 ・・我々は、この試合で、これまでやってきたことの正しさを証明できたと思う(そのコメントにはアグリーだね)・・我々が志向しつづけてきたのは、魅力的な攻撃サッカーだ(これにもアグリー)・・もちろん長いリーグのなかでは、調子の浮き沈みもあるけれど、いまは、その上下動(振幅)が徐々に収まり、調子が高みで安定しつつあるという実感がある(ナルホド〜)・・

 ・・我々のサッカーの底流には、チーム一丸となって闘うというコンセプトがある・・我々が志向する組織サッカーでは『チームが個を活かす』というベーシックな考え方がある(フムフムフム〜ッ!)・・

 ・・サッカーでは、メンタルの強さが求められる・・だから我々は、常日頃、何時でも、どこでも、どんな環境でも最善を尽くすということに対する意識を高めようと努力をつづけている・・

 ・・リーグの最終段階に入ったから、心理的プレッシャーが大きくなっているはずだって??・・もちろん、そうだよ・・でも我々の場合は、監督(ポポヴィッチ)の怒鳴り声が、十分にメンタルトレーニングになっていると思う(笑)・・まあ、これは冗談だけれど・・

 ・・選手たちには、心理的なプレッシャーについて、こんな言い方でアプローチしている・・誰も、水や食事を摂るときに緊張したりしないだろう・・我々も、リーグの最終段階で勝負マッチに臨んでいくとき、その状況を、水を飲んだり食事をしたりする日常的なモノとして感じられることが大事なんだ(要は、プレッシャーとお友達になれって言ってるのネ!?・・それは正しい・・)・・とにかく、自然にサッカーに取り組んでいけるように日頃から準備を整えているつもりだ・・

 ・・リスクにチャレンジしないことは(進歩にとって)とても悪いことだ・・また、全力を出し切らないことも悪い・・全力を出し切り、リスクにも可能な限りチャレンジしつづけて負けたなら、そのときは、相手に対して、心から祝福することができるじゃないか・・

 ・・日本人は、とても責任感の強い人々だ・・だからこそ、我々は(監督と選手は)相互に深く信頼し合える・・ドイツ人も日本人も、与えられたタスクを、責任感をもって、全力で遂行しようとする・・それは、本当に素晴らしい素養だと思う・・

 ・・ただサッカーの世界では、日本人とドイツ人では、ちょっと違う・・ドイツ人は、とても自信にあふれている・・それは過信かもしれないが、それでも彼らは(唯我独尊的に!?)確信をもってリスクにもチャレンジしていく・・

 ・・それに対して日本人は、優しすぎる・・謙虚に過ぎる・・サッカーは、ギリギリの「だまし合い」が支配するホンモノの闘いの場だから、もっともっと自信と確信をもってプレーしなければ、最後の最後で足下をすくわれてしまう・・

 ・・今日のゼルビアは、その意味でも、日本人の(サッカーにおける!)あるべき姿を象徴していたと思う・・

 そんな、とてもハイレベルな(シリアスな)コメントを出しながらも、ランコ・ポポヴィッチは、常に笑顔を絶やさない。そんな彼に聞いた。

 「いまポポヴィッチさんは、とても深い意味合いの言葉を使われた・・チームが個を活かす・・素晴らしいキーワードだけれど、それについて聞きたい・・サッカーの美しさを演出するのは、個の才能か、それとも、流れるような組織プレーか・・」

 ・・もちろん、その両方ともに、美しさを演出できると思う・・私が言った表現(チームが個を活かす)は、あくまでも組織プレーが底流にあって、それを基本に(タイミングよく)個の勝負プレーを効果的に繰り出していくというニュアンスだ・・

 ・・たしかに、メッシやクリスティアーノ・ロナウドのような勝負プレーをするのは簡単ではない・・とはいっても、同じように効果のある個人プレーならば、誰でもできるはずだ・・ただ、その絶対的なベースは、組織プレーでなければならない・・その基盤があってはじめて、効果的な個人勝負も繰り出していけるモノなんだ・・

 ・・だから、チームが「個」を活かすのサ・・

 記者会見の後、ドイツ語で、直接コミュニケートした。噂に違わないグッドパーソナリティー&インテリジェンスだと感じた。もちろん、良いヤツが、そのまま良いコーチというわけじゃないけれど、現場の実績という視点じゃ、既に彼には確固たるモノが備わっているわけだからね。

 ランコ・ポポヴィッチ。とても日本人の感性にフィットするパーソナリティーだと思うし、しっかりと「人間の弱さとも闘える」内なる強さも秘めている・・とも感じた。

 私も、ヨーロッパで、選手やコーチとして活躍する「旧ユーゴ」のサッカーマンを多く知っている。彼らは、人間の本質的なコトをしっかりと意識しているという視点も含め、すべからく逞しい。旧ユーゴスラビアがたどった厳しい現実の日々を思えば、それも当然だと思えてくる。フムフム・・

 ということで、今日はこの辺りで・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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