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2011_女子WM_18・・ワールドカップの決勝だぜ!・・勝ったら世界一だぜ!・・(2011年7月13日、水曜日)

「明日の試合ですが、身長のアベレージで、もっとも高いチームと、もっとも低いチームが相対することになります・・その事実についてコメントをいただけませんか?」

 前日の監督会見で、スウェーデンのデナビー監督にそんな質問をしてみた。

 それに対して、デナビー監督は、ちょっと考えた後、「たしかに少しは戦術的な面で影響があるかもしれないが、総体的には、勝敗の行方を左右するような決定的要因にはならないと思うネ・・我々がやっているのはサッカーであり、バスケットボールじゃないんだから・・」という素敵なコメントをくれた。フムフム・・

 イケメンのデナビー監督は、(どの試合だったか忘れたけれど・・)グループリーグ戦の試合後の会見でも、「日本は、まさに我々が目指しているサッカーをやっている・・高いテクニックが、素晴らしい組織プレーのベースとなり、それを高揚させている・・」と絶賛していた。

 そして、前日トレーニングでも(ビックリすることに公開だった!)、ホントに、ボールを素早く動かすトレーニングを積み重ねていた。それもスモールフィールドで・・。

 そこでは、ハイボールを使った一発勝負とか(ロングボールの出し手と受け手のイメージシンクロが重要なファクターになるからネ)、そこでこぼれたセカンドボールを狙うイメージトレーニングといった内容は皆無だった。ただ、ひたすらボールを動かすコンビネーショントレーニングに終始していたのですよ。フムフム・・

 それでも私は、こんな風に懐疑的だった。そして、下記のようなことも考えていた。

 ・・なんてったって一発勝負だゼ・・そんな勝負マッチで、自分たちが絶対的に優位なフィジカル(高さとスピード、長い手足といった身体能力を駆使した局面勝負の強さ・・などなど)を前面に押し出す闘いをしないなんて考えられない・・

 ・・とはいっても、この期におよんで、公開トレーニングにすることで日本を欺(あざむ)こうなんてコトするだろうか?・・それは、考えられないよな〜・・ということは、明日の勝負マッチは、組織サッカー同士のぶつかり合いということになるのか?・・それじゃ完全に日本に有利な展開になるじゃないか・・でも、ホントかな〜・・

 そして、実際に・・

 皆さんも観られたとおり、とにかく、日本の展開力(ボールを、素早く、広く動かす組織コンビネーション)は群を抜いていた。

 局面での(自信オーラを強烈に放散しつづける)エスプリの効いたボールコントロールから、スパッ、スパッと、スウェーデン選手の間を「すり抜ける」ように、クリエイティブにボールを動かしてしまう。

 もちろん、そのベースは人の動きにあり。タメからの(相手のアタックを呼び込んでの)スルーパスを受ける決定的な勝負の動きだけじゃなく・・パス&ムーブ・・ワンツー・・などなど、ボールがないところでの動きの量と質が、まさに抜群だった。

 最初の頃、スウェーデンも、果敢に(積極的に前から!)ボールを奪いにきた。組織的なプレッシングサッカー。でも、そんな彼女たちのアクションが、日本の素早いボールの動きに翻弄されはじめるのですよ。

 前からボールを奪いにいこうと仕掛けるプレッシング守備では、どうしても人数が必要になる。だから、積極的に前へ重心を掛けていかざるを得なくなる。それが、最初の10分くらい、スウェーデンがペースを握った「ように」見えた背景にあった。でも、その後は・・

 自分たちのボール奪取アタックが「スッと外され」、そのアタックアクションによって置き去りにされてしまうケースが増えるにつれ、スウェーデン選手たちの積極的なプレッシングサッカーの勢いが、どんどんと減退していったのです。

 そりゃ、そうだ。パスをインターセプトしたり、日本選手のトラップの瞬間にアタックを仕掛けるといったリスクチャレンジプレーが、ことごとく裏目に出るんだからね。

 だから、積極的なボール奪取アクションにトライすることが怖くなるのも道理。何せ、そのアクションの逆を取られたら、すぐにウラのスペースを突かれてピンチに陥ってしまうのだから・・。

 前半立ち上がりの時間帯を除き、スウェーデンは、どんどんと臆病になっていったのは確かなコトだと思いますよ。サッカーでは、リスクチャレンジこそが発展の唯一のリソース(源)なわけだけれど、そのチャレンジのエネルギーが、ことごとく空回りしたら・・。

 だからスウェーデンも、今度は、しっかりとボールと人を観察し、落ち着いた対応をしようとしていた。でも実際は、逆に、消極的に(怖がって)プレーするようになった。フムフム・・

 もう一つ、ナデシコの守備。攻撃での組織パスサッカーばかりが注目されるけれど、その絶対的なベースである、組織ディフェンスは、あまり注目されない。だから、佐々木則夫監督に聞いた。

 「そうなんですよ・・我々のサッカーの絶対的ベースは、何といっても高い守備意識にあるんです・・チーム作りの初期段階から、とにかく攻守の切り替えを速くすることをテーマに置いていた・・そして、素早く忠実なチェイス&チェックを仕掛けていく・・そこで他の全員にスイッチが入って守備アクションがシンクロしていくっちゅうイメージなんですよ・・そして、次、その次とボール奪取勝負を仕掛けていく・・」

 「・・とにかく、相手からボールを奪いかえさなければ攻撃を始めることさえ叶わないじゃないですか・・特に、ヨーロッパの強豪と戦うときは、この積極的な守備意識こそがキーポイントだと思うわけです・・この試合では、川澄奈穂美を先発で使ったわけですが、彼女には、とにかく最前線からボールを追いかけ回すことをお願いしました・・彼女も、その期待に存分に応えてくれたと思っています・・まあ、二点も入れることまではお願いしていませんでしたがね(笑)・・」

 とにかくナデシコは、組織サッカーの何たるかを、その正しいベクトルを明確に示してくれたと思います。自信あふれる局面でのシンプルプレーの積み重ね(もちろん、巧みなボールコントロールを駆使したエスプリプレーで相手をビビらせもする・・)。

 最後に・・ナデシコの強さを証明する、もう一つの「事実」を再認識してください。

 それは・・メキシコ戦もそうだったのですが・・この試合でも、リードされた相手が、失うモノがなくなった相手がフッ切れて仕掛けてくるはずの相手が、結局は、日本の守備ブロックを崩せなかったという事実です。メキシコに対しても、スウェーデンに対しても(はたまた「あの」ドイツに対しても!?)ナデシコは、最後の最後までしっかりとゲームをコントロールしつづけたのですよ。

 わたしにとっては、それが、とても大事なポイントではありました。

 二週間後には、ボーフムで、プロコーチの国際会議があるのだけれど、そこでもナデシコが話題を独占するに違いありません。

 彼女たちは、日本のアイデンティティー(誇り)。わたしも鼻が高いですよ。とにかく、彼女たちのお陰で、国際会議での私のポジションもうなぎ上りということになるに違いない。

 ホント・・選手の皆さん・・佐々木監督やコーチングスタッフ、マネージメントスタッフの皆さん・・心から感謝します・・あっと・・まだ決勝が残っていた・・でも、そこでは、まさに後ろ髪を引かれないフッ切れた闘い(強烈な意志の放散!)を魅せてくれるだろうから、まったく心配していない・・

 それにしても、ワールドカップの決勝だぜ・・勝ったらワールドチャンピオンだぜ・・

 その事実を噛みしめながら、今日は、これで筆を置きます。また、オフの日に、例によって友人たちとの会話を中心にコラムをアップします。では・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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