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2011_女子WM_19・・ドイツの友人たちとの会話・・未知の領域へのブレイクスルーを果たし、そこを自分なりに開拓するナデシコ・・(2011年7月14日、木曜日)

「さて・・日本がファイナルに進出しちゃったぜ・・まず、そのことについて何か話してくれよ・・」

 今回は、ドイツのサッカーフレンド二人とのスカイプ・ビデオ会議(ビデオ・カンファレンス)です。筆者、友人A、友人Bとしましょう。

 友人A:「それにしても日本が展開したサッカーは爽快だったな・・スウェーデンは、まさにノーチャンスだった・・彼女たちにしても、これほどの完敗は初めての経験なんじゃないか・・」

 友人B:「本当にそう思うよ・・とにかく日本の良さばかりが際立っていた・・彼女たちが魅せる組織サッカーには、戦術的に、特別な意味合いがあると感じていたよ・・」

 筆者:「日本の組織サッカーだけれど、それは、相手が仕掛けてくるフィジカルなアタックをかわすための素早く広いボールの動きに代表されるよな・・でもさ、日本の女子チームに残された選択肢はそれしかなかったという事実もあるんだぜ・・フィジカルの能力じゃ世界に凌駕されているだろ・・それにオレ達には、マルタとかクリスティアーネといったスーパーなドリブラーはいないし、高さやパワーで勝負できる選手もいない・・」

 友人A:「そうだよな・・だから、組織コンビネーションを積み重ねていくしかなかったということか・・」

 筆者:「そう・・だから、全員守備、全員攻撃が合い言葉になっているっちゅうわけさ・・その意味じゃ、今大会で唯一、トータルフットボール的なニオイがするチームって言えるかもしれないな・・そのサッカーで観る者の心を動かしているんだから、こちらも誇りを感じるよ・・サッカーの美しさって、個の才能が演出するケースが多いけれど、日本のような組織ハーモニーだって、人々を感動させられるだけの美しさを表現できるっちゅうことだ・・」

 友人B:「そうなんだよ・・ドイツの組織サッカーは、どちらかといったら直線的に相手ゴールへ迫っていくために、シンプルで力強いパスと一発フリーランニングをシンクロさせるんだ・・それに対して日本は、あくまでも相手のボール奪取アタックのエネルギーを逆手に取ってしまうんだよ・・それもスムーズにね・・そして相手ディフェンスが翻弄されて置き去りにされることで空いたスペースを攻略するっちゅうわけだ・・そりゃ、美しいはずだよ・・」

 友人A:「そうだよな・・日本チームが演出するスムーズなボールの動きは、相手だけじゃなく、観る方も(イメージの)ウラを突かれてしまうよな・・観る方は、何らかの予測をするわけだけれど、その予測を超えた驚きを与えるのが日本の組織サッカーだとも言えるかな・・」

 筆者:「だからさ〜、さっきも言ったとおり、日本には、それしかないんだよ・・日本の選手は、個人勝負じゃスペースを攻略していけないからな・・相手の背後スペースは、ドリブルで相手を抜き去るか、パスコンビネーションで、フリーで走り込んだチームメイトにパスを通すしかないわけだけれど、日本には、後者のオプションしかない・・逆にブラジルは、個の能力が高すぎることで、それに頼る傾向が強くなり過ぎるという側面もある・・才能という諸刃の剣のことだよ・・理想は、その両方を、高い次元でバランスさせることだよな・・そう、バルセロナのようにネ・・」

 今回は、筆者が語るの部分が多いように感じますが、実際に友人たちは、日本のサッカーを、どのように考えたらよいのか測りかねている部分があったのですよ。あまりにもスムーズで美しく、大柄な相手のフィジカル勝負を軽快にかわしていくハイレベルな組織サッカーのイメージが強いからね。

 でも、わたしが、組織サッカーしか選択肢がなく、ある意味でアンバランスなサッカーだと指摘したところで、ナデシコの組織サッカーに酔っていた彼らも、かなり整理できたようです。

 友人A:「そうか〜・・たしかに彼女たちにはメッシとかイニエスタはいないよな・・まるでバルセロナのようだっちゅう評はあったけれど、ちょっと違和感があったんだよ・・たしかに素晴らしくクリエイティブにボールが動きつづけるから、バルサの香りはあるとは思うけれど・・でも、それも、一面的だということか・・」

 友人B:「とはいってもサ、昨日のスウェーデン戦じゃ、左サイドバックのサメシマが、何度か、素晴らしいドリブル突破を魅せたじゃないか・・オレは、彼女たちも優れた個の才能を備えていると思うんだよ・・ということは、彼女たちの場合、全員守備、全員攻撃、そして究極の組織サッカーというチームのコンセプトが優先しているということなんだろうか?・・」

 筆者:「フム〜・・難しいところだな・・もちろん、ドリブルで突破していける可能性を秘めた選手はいる・・鮫島も、こちらがビックリするようなドリブル突破を魅せたよ・・でも、それも、二点リードという心理的な余裕が出てきてからだろ・・一進一退の競り合い状況で、日本の女子選手が、個人の判断で、責任と勇気をもって、そんな大きなリスクにチャレンジしていけるだろうか?・・それは、疑問だな・・もちろん、その部分をクリアし、本当の意味で、組織プレーと個人勝負プレーを高みでバランスさせられるようなサッカーが出来れば、まさに世界レベルだけれどね・・」

 友人A:「そう・・日本は、組織プレーじゃ既に世界有数だよな・・でも、最終勝負は、まだそのほとんどが組織コンビネーションをベースにしている・・だからサ、イングランド戦のように、相手が確実なゲーム戦術を実行してきたら、攻め手がなくなってしまうこともあるよな・・だから彼らの組織サッカーに、もっと個人勝負のニュアンスを付け加えていければ、より進化したサッカーになるということか・・アッと、それこそ本物のトータルフットボールか・・」

 筆者:「もちろん、ウラのスペースを組織コンビネーションで突いていければ、シュートや決定的パスとかクロスを送り込むための局面勝負では、個人プレーでの勝負も出てくるさ・・でもそれは、ウラを取られた相手が厳しいカタチで対応せざるを得ないなど、ボールを持つ日本選手が、絶対的に有利な状況でのことだからね・・マルタとかクリスティアーネといった個人主義者は、その前段階の、スペースを突いていくプロセスでも、ドリブルで相手を抜き去ろうとしちゃうわけだから・・その意味の違いは、しっかりと抑えておく必要があるよな・・」

 友人A:「それでも、日本チームは、その組織サッカーを完璧に徹底しているだろ・・それは、それで、相手にとって、とても危険だよ・・何せ、チーム全体で、やろうとしていることに統一感があるわけだし、それを粘りづよく続けてくるわけだから・・とにかく、日本のような特長あるサッカーが、世界のなかで存在感を高めることは、とても意義深いことだと思うよ・・もちろん、これから個の勝負プレーを効果的にミックスしていくという前提のうえでのハナシだけれどネ・・」

 筆者:「ところでアメリカとの決勝戦・・これまで日本はアメリカに勝ったことがないし、つい二ヶ月前のトレーニングマッチでは、2試合とも2-0で負けてしまったんだよ・・要は、アメリカが優勝候補の筆頭ということだけれど、そのことが逆にアメリカの精神的な重荷になるように思えてならないんだけれど・・」

 友人B:「その通りだと思う・・心理的なプレッシャーは、確実に日本よりも高いだろう・・それに対して、日本はチャレンジャーとしてフッ切れた闘いを展開できるじゃないか・・」

 友人A:「それだけじゃない・・なんといっても日本は、オレたちの代表を破ったんだぜ・・そのことで掴んだ自信は、並外れていると思うよ・・そんな確固たる自信と確信は、スウェーデン戦で明らかに感じられた・・アメリカと同様に、日本は、これまでドイツに勝ったことがなかったんだよな・・でも、それが・・」

 筆者:「そう・・日本チームは、大会を通して本物の成長を遂げていると思う・・既に彼女たちは、未知の領域に突入しているんだ・・そして日本の女子選手たちは、自分たちが未知の領域に踏み込み、そこをどんどんと開拓していることを実感している・・選手たちは、澤穂希や安藤梢といったチームのリーダーを中心に、自分たちを妨げる壁はすでに崩れ去ったことを体感しているはずさ・・サッカーは本物の心理ゲームだからね、そうなったときのチームは、実力以上の何かを発揮するはずだ・・」

 友人A:「同感!・・いまの日本チームは、これまでとは別物になったということだな・・そんな別物への脱皮プロセスについては、オレもプロチームで繰り返し体感しているよ・・そのときのチームは、まさに無類の強さを発揮するよな・・」

 友人B:「分かる、分かる・・脱皮しているチームには、これまでのネガティブな経験は、まったくといっていいほど意味をなさなくなるモノなんだ・・それよりも、新しい領域で体感することこそが彼女たちの真実として積み重ねられていく・・その意味でも、日本代表を観ることは、我々サッカー人の悦びでもあるよな・・」

 筆者:「いま日本女子代表は、日本社会にとっても大事なアイデンティティー(誇り)になっているんだよ・・地震の被災者の方々も、彼女たちの活躍を喜んでいるはずだしね・・とにかく我々コーチにとって、彼女たちが新しい領域へとブレイクスルーを果たし、その領域を自分たちなりに開拓しているという事実は、とても重い意味合いを内包していると思うよ・・ところで決勝だけれど、本音は、もちろん優勝してもらいたい・・でもそれよりも、彼女たちが、強い意志で持てる力を120パーセント発揮し尽くすことの方が大事だと思うんだ・・彼女たちが、そのようなサッカーを展開してくれれば、勝てなかったとしても、日本サッカーにとって、とても大事な何かを残せるはずだから・・」

 友人A&B:「オマエの感性に共感するよ・・サッカーが秘める文化的なパワーとでも言えるのかな・・とにかくオレ達も、日本を、彼女たちのサッカーを、心からサポートするよ・・」

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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