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2011_女子WM_20・・金曜日には色々とありました・・また三位決定戦は、忠実な組織プレーに徹したスウェーデンに軍配・・(スウェーデン対フランス、 2:1)・・(2011年7月16日、土曜日)

いま土曜日の昼過ぎです。三位決定戦が行われるジンスハイムのメディアセンター。スウェーデン対フランス戦のキックオフを待っているところです。

 そのマッチコラムは後でアップすることにして、今日は、まず昨日の金曜日に起きたこと、感じたことをランダムに書きつづります。まずライセンスを更新しようと、午前中にドイツサッカー協会を訪れたときのことです(ドイツサッカー協会はフランクフルトのスタジアムに隣接している)。

 ライセンス担当の責任者とは、かなり懇意なのですが、どんどん偉くなっているからアクセスは秘書を通さなければなりません。受付で、その秘書の方に電話してもらい、日本から来た「Fu?ball-Lehrer」だが、ライセンスの更新をお願いしたい旨、伝えてもらいました。

 ついでに・・、「彼」にもお会いできれば幸いなのだがとお伝え願いたい・・とも付け加えました。

 もちろん、「約束はあるのですか?」とか「あなたのフルネームやステータスなどを書いてください・・」とか、セキュリティーのハードルが高い。ドイツサッカー協会の建物が新築される前は、受付の女性に目くばせしながら、正面入り口の左側にあった「彼」のオフィスをノックし、「や〜、や〜」って直接はいっていけたものなのですがネ・・あははっ・・。

 眉根にシワを寄せ、秘書の方と何やらやり取りをしている受付の女史。そして「彼」に電話がつながったとき、相好が崩れた。そして私に、「あなたはケンジですか?」ときた。「ヤ〜・・」

 二つ目の受付(セキュリティー・チェック)も無事に通過し、別棟にある「彼」のオフィスへ。そこにいたのは、「彼」だけではなく、ドイツでも名の通ったプロコーチ、クラウツゥーンでした。彼のことは、よく知っています。年輪を重ねた強者プロコーチの雰囲気を振りまくクラウツゥーンは、その責任者の方とミーティングの予定があって訪れたそうな。

 久しぶりだな〜と、固い握手を交わした次の瞬間から、クラウツゥーンのハナシが止まらなくなった。もちろんナデシコのこと。

 ・・あの組織サッカーは本当に素晴らしい・・爽快だ・・まさにバルセロナじゃないか・・オレは彼女たちのファンになった・・決勝では、もちろん日本チームを応援するぜ・・などなど・・

 こちらも鼻が高い。

 ・・それでも、日本は、あの組織サッカーを突き詰めるしかなかったんですよ・・常に相手を抜き去れるようなスーパードリブラーはいないし、高さでもパワーでも差を付けられていますからね・・だから、人とボールの活発な動きをベースに相手とのフィジカルなコンタクトを避けながらスペースを突いていくという発想でチーム作りをしているんですよ・・、と私。

 ・・サッカーの基本はパスだからな・・その目的は、オマエが言ったとおり、相手との接触を極力避けてスペースへボールを動かすことだ・・日本チームは、そのコンセプトを見事に体現しているじゃないか・・いくら、それしかやり方がないとはいっても、その徹底したハーモニーが感動を呼ぶんだ・・と、クラウツゥーン。

 そんな風にハナシが盛り上がっているところに、秘書の女性が入ってきた。そして、私の東京の住所が書いてある封筒を差し出すのですよ。そこには、3年間延長された更新ライセンスが入っていた。ビックリ・・。ライセンスの更新は3年ごとなのですが、前回の手続きでは、ちょっと右往左往しちゃったから、とてもハッピーな感覚に包まれた筆者でした。

 ところで、友人のライセンス責任者。そのときは、クラウツゥーンが話題を独占しちゃったけれど、彼とは、どちらにしても再来週のサッカーコーチ国際会議で会うことになるから、そのとき昔話に花を咲かせよう。

 その後、適当なところでハナシを切り上げ、彼らに別れを告げてドイツTVとラジオ関係者と約束しているフランクフルト・スタジアムのメディアセンターへ向かった筆者でした。

 ラジオのディレクターは、ドイツの女子サッカー界を代表するジャーナリストです。最初に、30分ほど話し合ったのですが、とにかくサッカーの物理的・心理的メカニズムに対する造詣が深い。失礼ながら、ビックリした。もちろん、デュイスブルクで活躍する安藤梢、ポツダムで、ストライカーとしてブレイク中の永里優季についても、詳しい、詳しい。逆に、こちらから彼女たちについて色々と質問しちゃいましたよ。

 彼女から私へのインタビューは、まあ10分程度。それでも、事前に話し合っていた内容を自分なりに整理し、とても鋭い質問を構成してくれた。話しやすいこと、この上ありませんでした。

 またTVだけれど、日曜日の試合当日に、そのテレビ局(ARD)が作るインターネット・ストリーミング番組にゲスト出演することになりました。

 この担当ディレクターも、とてもサッカーに詳しい。だから話しやすい。質問が、常に的を射ているんですよ。彼と話しながらゲームを観ることになるけれど、話すかたわらで、彼が、どんどん文章に落としていくのだそうです。さて・・どうなることやら・・

 そんなことをしているうちに、日本代表のトレーニング開始時間が迫ってきた。さて・・と、コンピュータをバックパックに収め、メディアセンターで仕事をしていた同僚のジャーナリストの方を誘ってトレーニングの見学に出発しました。

 トレーニングだけれど、多くの日本人の子供たちが招待されたことで華やかになった雰囲気や、その後に行われた充実したトレーニング内容、この日に誕生日を迎えた永里優季のためにメディアの方々が用意したバースデイケーキの話題などについては、様々なメディアが報道しているはずですから、そちらを参照してくださいね。

 ここで取りあげたい話題は、何といっても、澤穂希のボランチ・パートナーとして獅子奮迅(ししふんじん)の活躍(=クリエイティブな汗かき仕事)を魅せつづけている阪口夢穂。わたしは、彼女のインタビューを最初から最後まで見届けた。

 よかったですよ、本当に。思った通り、とてもしっかりとしたインテリジェンスと人間性を(もちろん闘う意志も!)備えたプレイヤーだと感じた。

 ホントは、彼女と澤穂希の「あうんの呼吸」について質問したかったけれど、そのことについて、彼女の方から(他のメディアの方の質問に応えて)様々な言い回しが出てきたから、その必要はなかったですね。

 彼女は、基本的に、澤穂希の攻守にわたるリーダーシップが最高の状態で発揮されるように、カゲで支えている(マネージしている)ということだね。彼女の発言の至るところに、自らも汗かき仕事に全力で取り組みつづける(謙虚で誠実な・・)澤穂希に対する深〜い信頼感が感じられた。だからこそ阪口夢穂も、彼女のために、そしてチームのために頑張れる。

 互いに、使い、使われるという「本物のチームゲーム」サッカーの根源メカニズムを深く理解する二人だから、阪口夢穂も、タイミングと状況さえ許せば、澤穂希のスーパーな守備意識に対する信頼感をベースに、自ら攻撃へと打って出るシーンもある。私は、サッカーコーチとして、阪口夢穂の、一つひとつの言葉に感動していた。

 澤穂希の基本的なポジションを守備的ハーフ(センターハーフ・・リンクマン・・ゲームメイカーにチャンスメイカーというマルチな機能性!?)と設定し、そのパートナーとして阪口夢穂を選んだ佐々木則夫監督に対しても、拍手・・だね。

 そんな風に、とても気持ちよい時間を過ごさせてもらったわけですが、その後は、気の合う数人のジャーナリスト仲間と、フランクフルト中央駅近くのレストランで夕食を取ることにしました。

 美味しいビールに美味しい食事、それに興味深いハナシ。全員が心から満足してレストランを出た。そのとき・・

 その入り口のところに、レストランの「今日のお勧めメニュー」というホワイトボードを見つめる一人の日本人女性がいたのですよ。目があった。そして、「皆さんはナデシコの取材ですか?」という柔らかい声の質問。

 「ええ、そうです・・そちらも観戦ですか?」と、仲間のジャーナリストの方が聞いた。それに対して、その五十がらみと思(おぼ)しき女性が、そこにいる背景を短く語ってくれたのですが、その内容を聞いてビックリした。

 「わたしも観戦です・・ナデシコの活躍に、いてもたってもいられなくなり、昨日東京を発ちました・・これからチケットを何とかしなければならないのですが、まあ、大丈夫でしょ・・ところで、このレストランの食事は美味しいですか?」と、落ち着いたモノ。

 ちょっと度肝を抜かれた我々は、しばしフリーズした。そして、「それはスゴ〜イ・・ホントにスゴイ・・ところで、このレストランですが、見かけは悪いけれど、とても美味しいですよ・・大丈夫、保証しますよ・・とにかくお互いに、とことんサッカーを楽しみましょう・・」なんていう言葉を絞り出すのがやっとだった。

 落ち着いた雰囲気の日本女性。その内に秘めた強烈な意志に、こちらは完璧に圧倒された。そして、とても心強く、ハッピーな気持ちになった。

 スミマセン・・前段だけで、とても長くなってしまった。ここからは、三位決定戦のコラムに入ります。

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 さて・・ということでスウェーデン対フランスの三位決定戦。素晴らしくエキサイティングな勝負マッチになりました。勝負の経緯は、こんな感じ・・

 ・・スウェーデンのシェリンが、前半29分に、ゲームの流れ(ゲームの支配内容)からすれば順当といえる先制ゴールを挙げる・・タテパスに反応して決定的スペースへ抜け出し、飛び出してくるGKの鼻先で、チョンッ!とボールを浮かしたワザありゴール・・でも、その後フランスが本来のチカラを発揮しはじめ、後半11分には、フランスの超特急トミーが、ここしかないというコースとタイミングのラストスルーパスを、オフサイドぎりぎりで受けて同点ゴールを叩き込む・・

 ・・それだけじゃなく、後半23分には、スウェーデン攻撃の中核の1人であるオェクヴィストがレッドカードで退場になってしまう・・誰もが、勝負の流れがフランスに傾いていくことを予想したに違いない・・でも実際には、そのレッドカードが、スウェーデンの闘争心に火を点けてしまう・・

 ・・そこから、一人足りないスウェーデンが魅せた、攻守にわたる力強い組織サッカーは、まさに感動モノだった・・その勢いに、徐々にフランスの意志が減退していったと感じた・・そして後半37分のコーナーキック・・そこでのこぼれ球を拾った(交替出場の)ハマーストロェームが、フランス選手を、1人、2人と切り返しでかわし、最後は、左足でキャノンシュートをブチ込んだ・・

 ・・このスーパーシュートには、フランスゴールの左上角のネットをブチ破らんばかり勢いがあった・・フランスGKは、もちろんノーチャンス・・今大会のモースト・ビューティフルゴールの一つに違いない・・

 ゲームの全体的な展開は、こんなところでしたかね。

 全体としてみた場合、両チームともに、自分たちの特長を前面に押し出すサッカーを展開したとすることが出来ると思いますよ。とはいっても、内容からすれば、スウェーデンが順当に三位を勝ち取ったとするのがフェアな評価でしょ。シュート数ではフランスが圧倒していたけれど、作り出したチャンスの質では、明らかにスウェーデンに軍配が挙がるからね。

 サッカーの内容だけれど、たしかに両チームともにしっかりとボールを動かすコレクティブなサッカーを心がけてはいる・・でも、そこには微妙なニュアンスの差異がある・・

 スウェーデンは、人とボールを動かしながら、あくまでもパス(&パスレシーブのフリーランニング)でスペースを攻略しようとする。だから彼らの場合、勝負のボールの動きは「スペースパス」になる。そう、日本のように・・

 それに対し、より個の勝負プレーを前面に押し出すフランス。だから彼らの場合、どちらかといったら、「足許パス」を積み重ね、最後は個人勝負を仕掛けていくという傾向が強い。フムフム・・

 とはいっても、昨シーズンのヨーロッパチャンピオンズリーグを制したリヨンの選手を中核にするフランス代表も、局面でのボール扱い(技術の高さ)や、相手のボール奪取アタックエネルギーをかわしてしまう「ショート&ショート」のダイレクトパスをつなぐ能力は、さすがに魅力的ではあるよね(この試合での先発7人がリヨンの選手)。

 でも、やっぱり、最終勝負を仕掛けていく中核プレーが個人勝負にあることは確かな事実。フリーな選手までボールを動かす技術とセンスは一流だけれど、そこからの最終勝負のイメージが、(相手ディフェンスに!)明確に見えるのですよ。だから、フランスがスウェーデンのウラの決定的スペースを攻略できたシーンは僅かだった。フランスのシュートは、その多くがミドルシュートだったのですよ。

 それに対して、日本の組織サッカーを標榜するスウェーデンは、とにかくシンプルに、素早く、広くボールを動かすことに徹している。そして最後は、3人目の動きの組み合わせたダイレクトコンビネーションなどでスペースを攻略していくのですよ。フランス守備ブロックは、そんなスウェーデンの忠実なコンビネーションに、何度もウラの決定的スペースを突かれていた。

 難しいネ。フランスの、(組み立て段階での!)組織プレーと個の勝負プレーのバランスは、とてもいいし、魅力的だと思う。実際に、フランスの創造的なサッカーの人気はとても高かった。ところが彼らは、肝心な最終勝負プロセスで、個の勝負に「頼り過ぎる」という傾向が強くなってしまうのですよ。

 もちろん「その現象」は、チームメイトたちの、ボールがないところでの動きの量と質を減退させてしまう。周りの味方も、個人勝負を仕掛けていくというイメージを共有しているから、そこでの個の局面勝負の結果を待って(見て)しまう傾向が強くなる。

 でも「それ」じゃ、個人勝負のオプションが狭くなってしまうよね。

 周りのパスレシーブの動きが出てこなければ、最終勝負を仕掛けてくドリブラーには、ドリブルシュートや、ドリブル勝負からの最終クロスの可能性しか残されていないということです。

 もしそのプロセスで、周りのチームメイトが、忠実な3人目や4人目の動きを繰り出せば、勝負ドリブルを仕掛けながら、常に「二つ以上の最終勝負オプション」をイメージすることが出来るからね。

 タイプの違う組織サッカーがぶつかり合うなかで、多くのシュートが打たれ、ゴールが決まり、退場劇やGKの負傷交替といった紆余曲折(大きな変化)もあった。

 とにかく、最後まで目の離せないエキサイティングな勝負マッチではありました。さて、いよいよ明日だ・・。お互い、とことんサッカーを楽しみましょう。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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