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2011_女子WM_24・・究極の組織サッカーというテーマ・・(2011年7月21日、木曜日)

究極の組織サッカー・・さて〜〜・・

 ナデシコについては、これまで「組織サッカー以外に選択肢がなかった・・」と書いてきました。ここで、自問自答しながら、ネットで流されている女子WMの動画を確認してみるわけです。

 すると・・。たしかにナデシコも、相手の「フィジカル」なボール奪取アタックを、まるで牛若丸のように素早く、広くボールを動かすことで「かわし」ながら、ある程度はドリブルで勝負していけるし、タメも演出できる。

 個の勝負プレーという視点じゃ、やっぱりドリブル突破と、相手の意識と視線、そしてアクションをフリーズさせてしまうようなクリエイティブなボールキープ(危険なタメ)&必殺ラスト(スルー)パスが代表的だよね。

 ドリブル突破では、古くはジョージ・ベストやヨハン・クライフから、ディエゴ・マラドーナ、最近ではメッシまで、歴史に残るパーソナリティーが山積みでっせ。

 それに対して、創造的なキープ(危険なタメ)からのラスト(スルー)パスという視点じゃ、1990年あたりのバルデラマとか、もちろんディエゴ・マラドーナも、魔法のように何でもできた。とにかく、ドリブラーにしても「タメ」のチャンスメイカーにしても、数え上げたらキリがない。

 ここで本論に入っていくけれど、要は、そんな「個の勝負プレー」が、チームメイトたちに、価値として認知されているかというポイントが焦点になります。

 ジョージ・ベストがドリブルをはじめたら、周りのチームメイトは、その勝負の行方に目を懲らすばかりでしたよね。「あの」ボビー・チャールトンにしても、デニス・ローにしても、コトの顛末を「待つ」しかなかった。

 それでもチームメイトは、そのドリブルからビッグチャンスが生まれることを知っているわけですよ。そう、そのドリブルが自分たちのため(金儲け)にもなることを理解していた。

 だからこそ、ジョージ・ベストが、より効果的にドリブル勝負を仕掛けていけるように、動き回って突破ドリブルのコースを空けたり、ドリブルに詰まったときにパスで逃げられるように、ボールのないところでの汗かきプレーに精を出したわけです。

 またバルデラマのチャンスメイクにしても、彼がボールをキープしはじめたら、周りのチームメイトは、彼との瞬間的なアイコンタクトを基盤に、全力スプリントで決定的スペースへ飛び出していった。そこには、バルデラマのパス能力に対する絶対的な信頼があったというわけです。

 ディエゴ・マラドーナにしても、メッシにしても、チームメイトは、彼らの個の勝負プレーの(自分たちにとっての!)価値を、十分に理解していた。だから、チームメイトたちが、天才の個の勝負プレーに対して、汗かきサポートに徹するのも道理なのです。

 ここで視点を変えて、ナデシコの個の勝負プレーにスポットを当てます。

 たしかに、勝負ドリブルや、創造的なタメを効果的に活用するシーンもあった。ただその意味合いは、前述の天才連中の「それ」とは、かなり違う。

 例えば、ナデシコの勝負ドリブルだけれど、それは、組織コンビネーションの結果として、決定的スペースで、ある程度フリーでボールを持てたときに限られていたよね。決してナデシコは、ブラジルのマルタや、彼女に並ぶ世界のドリブラーたちのように、相手と正対した状態からドリブル勝負を仕掛けたというわけじゃなかったのです。

 身体の大きさ、パワー、スピードなどといったフィジカル要素で、世界に後れを取るナデシコ。もちろんテクニックや戦術的な手練手管では対抗できるけれど、いかんせん、それを駆使していくための基本的な運動能力で大きく劣っているという確かな事実がある。だから、ドリブルで相手を抜き去っても、「その後」に追い付かれてしまい、最後は「フィジカル」な競り合いを仕掛けられボールを失ってしまう。

 創造的なタメにしても、たしかに勝負の局面で(ギリギリのところで)ボールをキープ出来るようなシーンはあったけれど、世界の個の才能が魅せるような、余裕を持って相手の意識とアクションをフリーズさせてしまうような「攻撃的」なボールキープが出来ていたかといったら、やっぱり疑問符がつく。もちろん、コンビネーションの流れのなかでマークする相手との間合いが取れれば、瞬間的にボールをキープする(ボールをさらす)ようなタメを演出する場面もあるけれど・・ね。

 また日本は、一度でもボールの動きが停滞したら、ほとんどのケースで、すぐさま複数の相手に取り囲まれて(協力プレスで!)ボールを失っていた。また、正対した状態から、相手をドリブルで置き去りにしたようなシーンは、本当に希だった。

 ということで、ナデシコには、人とボールを動かしつづけることで相手とのフィジカルな接触を避けながら(スペースを攻略し!)、最終勝負も、ピンポイントのパス勝負を仕掛けていくという究極の組織サッカーを展開するしかなかったという結論に達するわけです。

 ここで、もう一度、確認させてください。これまで何度も書いたけれど、ナデシコが魅せる素晴らしい組織サッカーの絶対的ベースは、組織ディフェンスにあり・・なのです。高質な「守備意識」が選手全員に浸透し、一人の例外もなく、忠実な組織守備アクションで、効果的にボールを奪い返しつづけられたからこそ、そこからの、組織パスをベースにした仕掛けも、うまく機能させることができたのです。

 その組織サッカーだけれど、彼女たちの「成功」の絶対的なバックボーンは、何といっても、選手全員が、ボールの動きとか組織パスの『リズム』を明確に共有していたからに他なりません。

 リズムを共有していたからこそ、シンプルなタイミングでパスを回せたし、スペースへも走り込めた(ボールがないところでの動きの優れた量と質!)。でもその背景に、彼女たちには「それしか」選択肢がかなったという、ある意味では幸運な事実があったことも見逃せないというわけです。

 チームが、勝負に活用していける可能性を秘めた「個の才能」を擁している場合、逆に、組織プレーリズムを(組織プレーイメージを)シンクロさせるのが難しくなるという事実と対峙しなければならなくなります。

 でも、もしその個の才能が「中途半端」なレベルだったら、それこそ諸刃の剣っちゅうことになってしまうわけです。

 昨日マインツで幕を閉じたリーガ・トータル・カップ(ミニトーナメント)で、バイエルン・ミュンヘンの宇佐美貴史がデビューしました。そして、所々で才能の片鱗を感じさせる個人プレーを披露してくれた。とはいっても、攻守にわたるチームプレーも含め、全体としてみれば、チームにとって価値があったかどうか(チームメイトが価値と認めるかどうか!?)はまだまだ五里霧中でした。

 まあ、彼ほどの才能なのだから、バイエルンという究極レベルの厳しい競争環境に放り込まれる(極限の刺激を受けつづける)ことで、本物のブレイクスルーを果たしてくれるとは思うけれど・・。

 そんな宇佐美貴史に対し、同じトーナメントに参加していたドルトムントの香川真司は、相変わらず、攻守にわたる組織プレーと個人勝負プレーが、とても高い次元でバランスしていた。そしてチームメイトも、彼の価値を認めていた(積極的に香川を活用しようとしていた)。フムフム・・

 これで、コラムはちょっとお休み。

 数日後の日曜日から、ドイツ(プロ)サッカーコーチ連盟が主催するサッカーコーチ国際会議がはじまります。また、その日曜日には、国際会議の会場でもあるボーフムのスタジアムで、長友佑都のインテルと、トルコの有名クラブ、ガラタサライがテストマッチを行います。もちろん私もアテンドしまっせ。いまから楽しみです。では〜〜・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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