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2011_女子WM_29・・番外編_5・・宇佐美貴史・・フ〜ッ!・・(バイエルンvsバルセロナ、 0-2)(2011年7月28日、木曜日)

どうも皆さん。

 昨日のコラムを最終回にするつもりだったけれど、それをアップした後にはじまった「アウディーカップ決勝」、バイエルン・ミュンヘン対バルセロナで宇佐美貴史がフル出場したから、ちょっとだけコメントする気になりました(結局は長くなってしまった・・あははっ・・)。

 何せ、希にみる「若手有望株(天賦の才)」の一人だからね、簡単に潰れてもらっちゃ〜困る。

 彼の秘めたる才能については、昨夜のゲームを一緒に観戦した友人たち(プロモ含め、全員がサッカーコーチです)も、感心してはいたけれど、チームにとっての「実際の価値」という視点では、やっぱり大きな疑問符が浮かんでは消えるのですよ。

 「日本ではどうだったんだい? チームは、彼の才能プレーを十分に活用できていたのかい?」

 「いい質問だね・・彼が所属していたクラブの監督も、様々な意味を内包するバランスの見極めに悩んでいたよ(このテーマについては、以前のリーグ・コラムを参照してください)・・要は、攻撃では、ボールがないところでのプレーの量と質とか、守備では、実効あるディフェンス参加が出来ているかどうかなんていう視点だよね・・それでも、どんなディスカッションでも、結局は、宇佐美はディエゴ・マラドーナじゃないっちゅう結論に達するわけさ・・」

 いま、フランクフルトに隣接する街マインツの、ライン川を一眸(ぼう)するレストランで、例によって、ヴァイツェン・ビールを飲みながらコラムを書いています。

 明日は、フランクフルトから帰国の途につくのですが、ドイツサッカー協会に用事があったことで、サッカーコーチ国際会議が終わってから、ドイツ滞在の最終日に、その用事を済ませようとマインツ滞在にしたというわけです。もちろんフライトも、フランクフルトからに設定した。でも「その用事」が、以前のコラムで書いたように、あっという間に解決してしまったのですよ。そのことで予定が空いてしまったというわけです。

 とても気持ちの良いカラッとした晴天。でも、宇佐美貴史のことを考えると、どうも気持ちが晴れない・・フ〜〜・・

 友人が言います。「それでもウサミは、何度か良い突破シーンを魅せたじゃないか・・」

 「突破だって!?・・それは、宇佐美のことを甘く見ていたバルサのディフェンダーが安易にアタックを仕掛けたからじゃないか・・宇佐美は、そんな安易なアタックをかわす天才なんだよ・・そして、ディフェンダー一人を置き去りにしたら、自分の目の前に広大なスペースが出来る・・そして、得意の超速ドリブル&シュートをブチかますっちゅうわけさ・・でもバルサ相手じゃ、そう簡単にはリズムに乗っていけなかった・・」

 「でも、パスセンスでも良いシーンがあったよな・・とにかくボールコントロールとパスセンスは、ヨーロッパの一流にも引けを取らないっちゅう印象は残っているけれど・・」

 「そう・・もし宇佐美が、乗ってくれば、素晴らしい組織コンビネーションをリードできる・・それでも、基本的にはドリブル突破がヤツのプレーイメージの中心だよな・・相手に追い込まれてしまったり、最初からマークが厳しいなど、どうしようもなくなったらパスで逃げるけれどね・・まあ、たまには、自分が相手を引きつけて・・要はタメだけれど・・そこから決定的なスルーパスを出したりするよ・・でも、全体的なチーム貢献度という視点じゃ・・」

 決勝のバルセロナ戦では、リベリー、ロッベン、トーマス・ミュラー、マリオ・ゴメス、シュヴァインシュタイガーといった主力は出場しませんでした(そのうちの何人かは後半の途中から交代出場した・・)。

 その代わりに、宇佐美貴史と同年代の新人も含め、何人かのニューフェイスが登場した。

 彼らは、攻守にわたって(とにかく目立とうと・・)必死のチームプレーを魅せていた。だからこそ、シュートや突破ドリブルといった「個の見せ所」も、多く作り出せた。そりゃ、そうだ。何せ、常に、全力のチェイス&チェックを仕掛けるのだから、周りのチームメイトがボールを奪いやすくなるのも道理。だからこそ、次の攻撃では(もちろん、その新人連中がスペースへ走っていることもあるけれど・・)良いカタチでパスを受けることもできる。

 それに対して宇佐美貴史。まったく日本と同じペースのプレーリズムに終始するのです。

 とにかく、攻守にわたって(特にボールがないところでの)全力スプリントが、まったくといっていいほど見られない。常に、トンコ、トンコ・・っちゅうリズムのジョギングだけじゃなく、優雅に歩いているシーンの方が目立つのですよ。フ〜〜・・

 例えば、バイエルンが二つ目の失点を喰らったシーン。

 それは、ペナルティーエリアの外側から放たれたカーブシュートが、見事に、バイエルンゴールの右上隅に決まったゴールだったけれど、そのシュートを放ったバルサ選手をマークしていなければならなかったのは宇佐美貴史だったのですよ。

 ・・たぶん彼は、「どうせパスなんてこないだろ・・」と、怠惰に、相手との間合い空けてしまっていた・・もちろんそこには、相手にパスを出させるという意図なんて感じられない・・そして、実際にパスが回されてきたとき、驚いたように「ビクッ」として、相手をチェイスした・・

 ・・それでも、そのチェイス、いつものように、まさに「ぬるま湯」・・相手は、宇佐美貴史のチェックにもまったく動揺せず、そのまま「余裕をもって」シュート体勢に入り、そして打って、決めた・・

 ・・そのシーンで宇佐美は、もっとダイナミックに相手ボールホルダーへのプレッシャーを掛けられたし、最後の瞬間には、スライディングでシュートを阻止することも出来た・・にもかかわらず、そんな希求状況でも最後まで「ぬるま湯」・・フ〜〜・・

 ことほど左様に、攻守にわたる忠実な汗かきプレーという視点じゃ、チームにとって「マイナス」でしかないというイメージが残るわけです。

 とにかく、走らない、忠実なパス&ムーブもない・・もちろん自分が直接シュートへ行けるような場面じゃ、パス&スプリントでスペースへ入り込んではいくけれど・・チームメイトのためにスペースを作り出すための「クリエイティブなムダ走り」は皆無・・フ〜〜・・

 もちろん(前述したように)守備は、そのほとんどが中途半端。

 追いかけはするけれど、相手に「走り抜けられた」ら、相手の背中を見るだけになってしまうシーンがほとんど。もちろんインターセプトを(その感覚的な部分にも才能を感じはするけれど・・)狙ったりはするけれど、そんな風に、自分がボールを奪い返せるシーンにしかアクション(強烈な意志が込められた全力スプリント!!)をしようとしない。

 「たしかに・・言われてみたら、ウサミのプレーイメージは偏りすぎてるよな・・いまオマエが言ったように、スペースへ走り込むようなパスレシーブの動きは、自分が決定的スペースでパスを受けられる状況に限られているよな・・アッ・・あんな大事なシーンで歩いている・・ヤツは、右前のスペースに走り込まなければならなかったのに・・これじゃダメだ・・」

 「オレも、ケンジの指摘を参考にしてウサミを注意深く見るようにしたけれど、たしかに、サボリが多すぎるよな・・でもさ、ケンジに言われるまでもなく、そんなウサミのプレー内容は、どんなサッカーコーチでも、すぐに見えてくるはずだよ・・こんなプレーで、ウサミがポジションを築けるとは思えないな・・」

 「そう・・宇佐美貴史は、決してディエゴ・マラドーナじゃないんだ・・」

 聞くところによると、日本では、何度かあった「良い突破シーン(まあ・・相手のアタックをうまくかわしたという表現の方が正しい局面プレー・・)や、魅力的なボールキープからの効果的パスシーン」を根拠に、宇佐美貴史が素晴らしいプレーを披露した・・なんていう報道があるらしい。

 まさに、バカげた事実無根報道。そんなことをしていたら、ホントに、宇佐美貴史という希代の才能を潰してしまう。ドイツでは、昨日のゲームについて、宇佐美貴史の「ウ」の字も出てこなかった。ドイツメディアも、しっかりと事実を把握しているということなんだよ。

 とにかく宇佐美貴史は、もっと、もっと走らなければいけません。

 守備では、忠実なマーキングだけじゃなく、前戦からのチェイス&チェック(強烈な意志が込められた全力スプリント!!)を魅せつづけなければいけない。

 「そんなことにエネルギーを使ったら・・自分の見せ場(チームにとっての価値プレー!?)でチカラを発揮できない・・」なんていう、ワケの分からないコトを言ってないで(日本では通用しても、ドイツじゃバカにされるだけ!!)、とにかく今は、心を真っ新にして、全力でサッカーに取り組むべきだと思うよ。

 バイエルン選手たちは、絶対に何も言ってくれない。ヤツらには、絶対に、アドヴァイスなんて期待できない。

 ヤツらは、宇佐美貴史の才能を認め、ライバルとして畏怖の念はもっているだろうけれど、だからこそ、黙る。そして心のなかで、「これで大丈夫・・あんなにサボってばかりいたら、そのうち、チームから追い出されるさ・・まあ、ジャパンマネーやジャパンコネクションっていう強いバックボーンがあったにしても、ハインケス(監督)だって、最後は自分のことの方が大事に違いないだろうし、ファンが許すはずがない・・」なんて、ほくそ笑んでいる。

 もちろん監督やコーチは、自分たちの仕事としてアドヴァイスはするだろうけれど、宇佐美貴史について、ハインケス&Co.が、彼のことを本当に欲しがったのかは不明だからね。もしかしたら、昨日のゲームが、ラストチャンスだったのかも(だからこそ、フル出場させた!?)・・。フ〜〜・・

 わたしには、自分の経験と体感をもとに、そんな隠された「プロの現場のメカニズム」が手に取るように見えてくる。

 とにかく宇佐美貴史には、これまでの「過信」をブチ破り、まったく白紙の感覚を取り戻さなければならない・・と強烈に主張したい筆者でした。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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