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2011_女子WM_8・・ナデシコは、日本のアイデンティティー(誇り)になった・・(日本対メキシコ, 4:0)・・(2011年7月1日、金曜日)

エ〜ッ!?・・そんな〜っ!!・・

 それは、メキシコとの勝負マッチがはじまる2時間前のこと。前にもコラムに登場した講談社の矢野透さんと、街中のレストランで、とても美味しいブラート・ヴルスト(焼きソーセージ)を食べていたとき、ハッと気が付いたのですよ。

 ・・アッ!?・・「胸」に下がっているべきプレスIDが、所定の位置にない・・

 私は、試合会場のレーバークーゼンから80キロほど北に位置するエッセン在住の友人宅にお世話になっているのですが、そのリビングルームのテーブルに忘れてきたらしい。私が出掛けたときは、ファミリー全員が出払っていた。だから、「忘れ物だ〜っ!」と知らせてくれる人もいなかった。フ〜〜・・

 ウエストポーチの中を手探りし、本当にプレスIDを忘れたことを確信する。そしてアタマのなかで冒頭の叫びが響きわたったというわけです。

 もちろん、激しいリアクションなどなしに、向かいに座る矢野さんに、「ちょっと大変なコトになりました・・プレスIDを友人宅に忘れてきたようなんです・・」と話しかけました。

 「エ〜ッ!?」と矢野さん。わたしは、同時に、具体的な方策を考えていた。

 ・・スタジアムへ行き、FIFA役員に交渉すれば何とかなるかもしれない・・でも2時間前だから、十分にプレスIDを取ってこられる時間的な余裕はあるよな・・それに、プレスIDの取り扱いはとても厳しいから、スタジアムでテレビ観戦ってなことになってしまう危険もあるし(プレスセンターに入れないかもしれないし)・・とにかくここは、自分で解決するしかない・・

 そのとき私の発想には、二つの大事なアイデアが欠けていた。一つは、今日が金曜日であること。そしてもう一つが、スタジアムでチケットを買って観戦するという可能性。フ〜〜・・

 「矢野さん・・スミマセンが、プレスセンターのカウンター(プレスチケットの配布カウンター)に、事情を説明しておいていただけませんか?・・遅れるけれど、ユアサは必ず来ますからって・・」。「分かりました・・任せてください・・」と、矢野さん。

 でも、わたしの「読み」は甘かった。前述したように、金曜日の午後という事実を忘れていたのですよ。そのときアウトバーンは、ウイークエンド行楽も含めた多くのクルマで埋め尽くされていた。普通だったら、片道30分から45分で走りきれるのに、そのときは、1時間45分もかかった。

 友人宅に着いたときは、すでにキックオフ10分前という体たらく。私は、既にクルマのなかで、結局はスタジアム観戦を諦めざるを得なくなると覚悟していた。

 「もう時間的に不可能だ・・無理してゲームが観られなくなったら、それこそ悲劇・・これはもう、友人宅のテレビで、ユーロスポーツを観るしかない・・フ〜〜・・」

 ちょっと冗長な事情説明になってしまいました。スミマセン・・ホントに悔しかったんですよ。そう、お恥ずかしながら、結局テレビ観戦ということになってしまったのです。あんな、歴史に残るほど爽快なスーパーゲームを、スタジアムで観戦できなかったなんて。ホント、悔しい・・

 それでも、ゲームのポイントだけはしっかりとまとめておかなければ・・と、気を取り直し(・・ナデシコの素晴らしい組織サッカーにモティベートされて!?)キーボードに向かった次第です。

 ということで、ここからが本編。スミマセン・・前段が長くなってしまって。でもサ・・本当に悔しかったんですよ。フ〜〜・・

 ということで、まずテレビ中継のアナウンサー(コメンテイター)の言葉から入りましょうかネ。皆さんもご存じのように、こちらでは、サッカー専門のエキスパート・アナウンサー(コメンテイター)が、解説もこなします。要は、一人でしゃべり続けるんですよ。そのなかで、自分の見方や考え方を主張するのだけれど、それが、とても面白いし、アグリーする部分も多いのです。

 ・・オ〜、なんてナデシ〜コのサッカーは美しいんだ〜・・観ていて、本当に楽しくて仕方なくなっちゃうよ・・男子の日本代表も、とてもハイレベルな組織サッカーを展開するけれど、残り30メートル(要はシュートに至る最終勝負)が弱い・・それに対して、ナデシ〜コのレディーたちは、素晴らしい組織サッカーで、夢のようなフィニッシュまで決めてしまう・・

 ・・彼女たち(ナデシ〜コ)は、疑いもなく、女子サッカーの素晴らしいプレゼンターだぜ〜・・その意味じゃ、われわれホストカントリーは、ナデシ〜コに、心から感謝しなくちゃいけない・・あっと・・もちろん我々が、ナデシ〜コの素晴らしいサッカーをとことん楽しめていることも含めてね・・

 ちょっと短く「まとめ」ちゃったけれど、そのエキスパート・アナウンサー(コメンテイター)は、局面での戦術的な分析だけじゃなく、試合全体の流れなどを俯瞰して正確に表現することも含め、とても優秀なアナリストでもある。まあ・・ね、こんな優秀なアナウンサーが出てくるのも、長く、深〜いサッカーの歴史という優れたバックボーン環境の為せるワザか・・

 ということで、そのアナウンサー(コメンテイター)が言う「組織コンビネーションサッカー」。

 それに関する表現は、これまで星の数ほど書いてきたから、ここでは「人とボールの動きと、その機能性」っちゅうテーマに絞り込んでハナシを進めようかな。あっと・・要は「動き」というテーマ。

 守備にしても攻撃にしても、彼女たちほど「協力」してコトに当たっているチームはないっちゅうことです。でもさ、協力するにしても、そこは、しっかりと「ターゲット(目標)イメージ」を共有できていなければ、一人ひとりのアクションが、うまく相乗効果を発揮できるはずがない。

 例えば守備では、一人が一生懸命にチェイス&チェックをしても、周りが、次、その次を狙っていなければ、それは、クリエイティブなムダ走りじゃなく、『本当のムダ走り』になっちゃう。また攻撃じゃ、言わずと知れた、ボールがないところでの動きの量と質のことだよね。

 とにかくメキシコ選手たちは、日本がブチかます、素早く、広い人とボールの動きに振り回されつづけるのですよ。

 例えば守備では、どこでボールを奪いかえすのか・・というイメージを共有しなければならないけれど、クルクルと人とボールが動きつづける日本の攻めにイメージ的に付いていけないメキシコ選手たちは、まったくといっていいほどターゲットを絞り込めない。

 そしてナデシコは、(例えば)三人のメキシコ選手が「集中プレス」を仕掛けてくる背後のスペースを、トントント〜ンというリズムの軽快なコンビネーションで攻略してしまうのですよ。要は、そのスペースにボールを動かし、ある程度フリーなボールホルダーを作り出す・・っちゅうことだぜ。

 ・・例えば、メキシコの一人の選手がチェイス&チェックで日本のボールを追い掛ける・・でも、日本の、素早く広いボールの動きは、止まらない・・逆にメキシコは、日本のボールの動きを止められないことで、どうしても守備の起点を作り出すことができずに足が止まり気味になっていく・・

 守備の起点を作り出す目的だけれど、それは、日本のボールの動きを、少しでも止めることで、次のボールの動きを(要はボール奪取ポイントを)複数のチームメイトがイメージ出来るようになること。

 そんな組織守備イメージを共有できれば、それをベースに連動するボール奪取アクションを組み合わせて仕掛けていける。でも、日本が繰り出す人とボールの動きは、まったく止まる気配を見せないし、メキシコがプレッシャーを強めれば、それに対抗するように、日本の「動き」のスピードもアップしてしまうのですよ。

 もちろん日本だって、意図的にボールの動きを落とす(仕掛けの流れをタメる)ことはあるよ、でもそれは、あくまでも主体的な戦術プレーだよね。メキシコのチェイス&チェックなどによってボールの動きを「ダウンさせられる」というネガティブな状況ではないのですよ。

 ちょっと分かり難いけれど、わたしがドイツの友人たち(プロコーチ連中)と、ナデシコを話題にして酒を酌み交わすとき、ほとんどのケースで、この「素晴らしい動き」という現象の分析をすることになるのですよ。

 そしてヤツらは、一様に、こんなニュアンスでナデシコを褒め称えるのです。

 ・・とにかく、あんなに上手い彼女たちが、あれ程の自己犠牲を積み重ねながら、本物のチームプレーを貫きとおすんだからナ・・

 ・・特にザヴァ(澤穂希)が素晴らしい・・彼女はキャプテンだって!?・・女子の日本代表には、本当に素晴らしいリーダーがいるよな・・そんなザヴァにリードされたコンビネーションは、ウラの決定的スペースを突いていくという意味でも、とても強力だし、美しい・・

 ・・とにかく、あんな上手い彼女たちが、汗かきプレーも忠実にこなすんだから・・あっと、あの優秀なザヴァが、あれ程の汗かきプレーをつづけているんだから、周りのチームメイトだってサボるわけにゃいかね〜よな・・もちろん監督やコーチの優れたウデも感じるしね・・いや、ホント素晴らしい・・

 もう、ヤツらがほとんど全てを喋ってしまった・・

 そう、澤穂希(ドイツ語じゃサ、SAWAは、ザヴァっていう発音になっちゃうんだよね・・あははっ)。今日のハットトリックとは関係なく、ヨーロッパでも(まあ、女子サッカー関係のエキスパートたちに限られるけれど・・)彼女は、ものすごく高く評価されているんですよ。彼女のプレーコンテンツを観れば、今日のハットトリックは、まさに正当な報酬だと言えるよね。

 とにかく今日の彼女たちは、まさしく、日本社会のアイデンティティー(誇り)として光り輝いていた。

 でも私は、その「光」を体感できなかった。本当に、とても残念だし、悔しい。でも、まあ、アウグスブルクで行われるイングランド戦があるからネ。そこでも、今日のように涼しい気候でありますように・・

 最後に、ナデシコ(チーム)の皆さんへメッセージ。

 ・・決勝トーナメント進出、おめでとうございます!・・そして有難うございました・・これから私は、プロコーチ国際会議など、ヨーロッパの友人たちと旧交を温めるわけだけれど、皆さんのお陰で、とても鼻が高い・・それは、私のような立場の者にとっては、とても大事なことなのです・・

 ・・いま貴女方は、強力なベクトルを作り上げ、それを進化させつづけている・・その絶対的ベースは、攻守の汗かきプレーも含め、強烈な「意志」をもって、とことん闘いつづけること・・高い集中力で考えつづけ、勇気をもって決断し、行動すること・・結果は後からついてくる・・とにかく、意志さえあれば、おのずと「道」は見えてくる・・のです・・

ガンバレ〜〜・・ナデシ〜コ!!!

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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