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2012_世界トップサッカーというテーマ_まずは、バルセロナから(その2)・・(2012年1月12日、木曜日)

さて・・、ということで今回は、前回コラムでピックアップしたバルサの素晴らしい守備(ボール奪取プロセス)につづき、それに支えられた攻撃にスポットを当てましょう。

 バルサの攻撃については、既に語り尽くされた感もあるけれど、自分自身の学習機会という意味も含め、(この時点での!)私なりの表現にチャレンジする次第です。

 キーワードは、何といっても「メリハリの効いた動き」。

 人もボールも動きつづけるパス・コンビネーション・サッカー。その「ダイナミックな動き」の絶対的バックボーンが、個々のテクニック(天賦の才)と、深く浸透し、徹底するチームコンセプト・・っちゅうことになりますね。

 テクニックについては、何といっても「ボールを止める技術」が、えも言われぬほど素晴らしい。レベルを超えたトラップスキル・・

 彼らは、どんなボールでも、まさに手で扱うようにピタリとコントロールしてしまう。足許にでも、一発タッチでボールの位置や方向をスパッと変化させてしまうような動的コントロールでも。彼らは、マークする相手が間合いを詰めていても、そんなコトなど意に介さず、とにかくピタリとボールをコントロールしてしまうのですよ。

 このポイントは、彼らの「ダイナミックな動的サッカー」を支える決定的なファクターだと思います。他のトップクラスチームと比べても、彼らのトラップ能力が特別なレベルにあると感じる。その自信こそが、彼らに心理的&物理的な余裕を与えるっちゅうわけです。

 加えて、ボールコントロール(ボールタッチ)能力やキック能力も素晴らしい。まあ、だからこその天賦の才。フ〜〜・・

 そして、そんなスーパーテクニックに支えられた攻撃のチームコンセプト(攻撃のやり方に関する具体的なイメージ)も素晴らしい。

 その骨子は、ボールを「動かすリズム」にあり。とにかく、一つのステーション(選手)でボールが停滞することがない。ピタッ・・パシッ・・ピタッ・・パシッ・・

 タッチ&パス、タッチ&パス・・。ボールをトラップし、(周りの状況が明確に見えているからこその!)素早いタイミングで、ある程度フリーになっている味方へパスを回す。そんなリズムがボールが動くことを確信できているからこそ、周りのチームメイトも、スッ、スッと、スペースへ動ける。

 組み立て段階での「人の動き」は、そんなに激しくはない。だから足許パスを素早く回しつづける・・なんていう表現もできる。とにかく「猫の額ほどのスペース」でも、相手マークからある程度の間合いを取るために、スッと動き、軽快な「リズム」で回されてくるパスに備える。

 「超トラップ」やダイレクトパスを駆使して軽快に動きつづけるボール。相手ディフェンスが翻弄され、「無駄に動かされて」しまうのも道理。(バルサの)ボールを奪い取る勝負ポイントを絞りきれるはずがない。

 バルサが演出するボールの動きを「目で追うだけ」のボールウォッチャー的な状況に陥ってしまう相手ディフェンス!? まあ、それが、「バルサの動きに翻弄される・・」という表現の本質かもしれない。

 またそこには、相手が、バルサの「軽快な動き」に翻弄され、常に「後追い」でボールホルダーへ寄せていかざるを得ないという視点もある。エネルギーの浪費・・。だから、肝心なボール奪取ポイントへの寄せが遅れたり、迫力に欠けてしまったりする。

 そんな、小さく連続する「駆け引き」もまたバルサの真骨頂って言えるんだろうね。テクニックが優れているからこそ、そして、その効果を存分に発揮できる「戦術コンセプト」が深く浸透し、徹底できているからこそ、そんな微妙な「ゲームの揺動」を自分たちに有利に展開できる・・

 さて・・、そんな組み立て準備プロセスを経て、唐突に、まさに唐突にスタートする仕掛け(最終勝負プロセス)。

 静から動へ・・。そんなメリハリのある仕掛けスタートのスイッチ(トリガー)の代表格は、何といっても「ワンのパス」であり、メッシやイニエスタに代表される突破ドリブルだよね。

 でもサ、そのスイッチにしても、それぞれの選手の個性によって千差万別。互いに「使い、使われるメカニズム」に対する深い理解・・。まあ、そのこともバルサの強さの秘密ということだね。

 ここでは、メッシやイニエスタの勝負ドリブルについて深掘りしようなんて思わない。それこそ、天才のおハナシになるわけだからね。それは、神様の領域さ。

 ここでは、「ワンのパス」とか「天才の仕掛けドリブル」といった、仕掛けのスタート・スイッチが入ったときの、周りの味方の「人の動きのポイント」について表現しようと思うわけです。

 要は、ワンのパスが出されたり勝負ドリブルがスタートしたときの、3人目、4人目の動きのこと。目を凝らせば、バルサがブチかます仕掛けの本質が見えてくる。

 例えば、ワンのパス。そのタテパスが出される瞬間、ワンのパスを出した選手が「パス&ムーブ」でダッシュするだけではなく、そのワンのパスを受ける2人目の選手以外の、3人目や4人目の選手「も」同時に決定的フリーランニングをスタートするんですよ。もちろん、相手の最終ラインの背後に広がる決定的スペースを目指してね。

 この決定的な人の動きが、素晴らしく忠実なのです。それは、メッシやイニエスタが繰り出す勝負ドリブルのときも同様。まあ、このときは、2人目、3人目・・っちゅうことになるわけだけれど。

 ワン・ツー・コンビネーションのときは、ワンのパスを受ける「2人目」は、パス&ムーブでダッシュしてくる味方へリターンパスを戻したり、そのまま3人目、4人目が走り込むウラの決定的スペースへ「ツーのパス」を流したりする。

 そのコンビネーション(ドリブラーからのラストパス攻撃)がスゴイ。まさに、天才の為せるワザ。もちろん、メッシやイニエスタに代表されるドリブル勝負も含めてネ。

 とにかく、あれほどの天才連中が、あれほど軽快な組織プレーを展開していることこそが、バルサの強さの絶対的バックボーン・・っちゅうことだね。そこで天才連中が魅せつづける、ボールがないところでの汗かきアクションの積み重ねが・・ネ。

 「あの」セスク・ファブレガスにしても、ようやく、ボールがないところでの動きの量と質がアップしはじめていると感じる。そう、環境こそが人を動かす・・のです。

 とにかく、圧倒的なプレッシング守備も含め、「あの」天才連中が展開する、攻守にわたる汗かきアクションの量と質に舌鼓を打ちつづける筆者でした〜・・

 世界中のサッカーシーンに、強烈な(そしてポジティブな)影響エネルギーを放散するバルセロナ。とても、とても貴重な存在です。でも、いつまで!? だからこそ、いまのバルサをしっかりと記憶に留めておかなければ・・

 そういえば日本にも、バルサのように、理想サッカーイメージの先導役として機能していたチームがいたよね。

 例えば、2000年あたりに素晴らしい組織サッカーを魅せつづけたジュビロとか・・。でもその記憶は、時間とともに薄れていった。だからこそ、記憶に留め、後世に伝える努力を怠ってはならないと思うわけなのです。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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