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2012_EURO(6)・・最後の時間帯に両チームが魅せた攻防には興奮した・・(イタリアvsクロアチア、 1-1)・・(2012年6月15日、金曜日)

さて、イメチェンのイタリアと、高さと正確クロスの高質なコラボレーションを武器に良いチームに仕上がってきたクロアチアの対戦。

 イタリアが魅せる「イメチェン」の内実だけれど、その本質は、攻撃に「より」人数を掛け、組織的な仕掛けを繰り出していく(まあ、よりリスクを冒す・・)というものだろうね。

 これまでだったら、守備の「組織」を最優先にチームを作り、ボールを奪いかえした次の瞬間に必殺カウンターをブチかます・・というイメージが主流だった。要は、「勝負」という視点で、もっとも可能性の高いチーム戦術を選択し、それを徹底してきたということだね。

 だから、カウンターのチャンスがなくなり、組み立てながら攻め上がっていかなければならない状況でも、次のディフェンスの組織作りをイメージし、決して攻めに人数を掛け「過ぎる」ことはなかった。要は、数的に優位なカタチを作り出して組織的に仕掛けていくというのではなく、あくまでも数人の「天賦の才」が繰り出す個人勝負に懸ける・・っちゅうのが信条だったわけです。

 とはいっても、イタリアの守備は、昔の「カテナチオ」的な、「堅さ」に偏り過ぎるものじゃないよ。何せ、カテナチオ当時は、全員がオールコートマンマークに就くことで守備をガチガチに固めたりしたんだからね。そうではなく、守備ポジショニングの基本バランスを維持することで(マンマークは希で、基本はマークの受け渡し!)、あくまでも守備の組織を優先させるという発想なんだよ。

 そんなイタリアのチーム戦術が、プランデッリが代表監督に就任してから、明らかに変容していったのですよ。人数を掛け、しっかりとボールを動かす組織的な攻め・・

 とはいっても、ドイツが魅せるような、人(3人目、4人目の人!)とボールの「動き」が有機的に連鎖し、流れるようなハーモニーを奏でる・・っちゅう組織サッカーではなく、あくまでも足許パスをつないでいくタイプだけれどね。

 いつも書いているように、攻撃の最終目的はシュートを打つことで、そこに至るまでの当面の目標イメージは、スペースを攻略する(=相手にとって危険なゾーンでフリーなボールホルダーを演出する!)ことです。

 そこが、相手最終ラインの背後に広がる決定的スペースだったら理想的。すぐにでも攻撃の目的を達成できる。

 イタリアがイメージする組織プレーの基本は、3人目、4人目の人の動きをベースにしたスペースパスによるスペース攻略ではなく、あくまでも足許パスをスムーズにつなぎ、(そのボールの動きで相手守備が振り回されることで!)フリーになった味方へ、素早く足許パスを供給する・・ってな感じなんだよね。もちろん、それもアリだよ。

 あっと・・イタリアのイメチェンに入り込み過ぎた。さて、試合・・

 前半は、イタリアが「イメチェンサッカー」を基盤にゲームを支配し、何度も決定的なチャンスを作り出した。そしてピルロのスーパーフリーキックで先制した。

 対するクロアチアの攻撃は、どちらかといったら「単発」。でも、正確なクロスからの「点の勝負」は、とても危険なニオイを放っていた。

 後半は、一点を守り切るという、イタリア得意のゲーム展開になる・・と思われた。もちろん、一点を追うクロアチアは積極的に攻め上がっていかざるを得ないからね。だから、いつかイタリアが、得意のカウンターで追加ゴールを挙げちゃう・・なんて思っていた。でも・・

 そう、プランデッリ監督の意志でもあったと思うけれど(後半に繰り出した選手交代をみても、そのことが伺える!?)、イタリアは、自分たちの「イメチェンサッカー」を貫こうとしたのですよ。そして前半同様に、(クロアチアの攻めの芽をうまく摘んでしまうという視点も含め!)ゲームの流れを「ある程度」優位にコントロールするのです。でも・・

 後半25分。それまで、どうしてもイタリア守備を崩せず、スペースを攻略できなかったクロアチアが、左サイドからハイクロスを「放り込んだ」のですよ。それが、あろうことか、ファーポストで待ち構えていたマンジュキッチに、ピタリと収まってしまった。

 それまで、マークのポジショニングミスやヘディングのミスなどは皆無だったイタリア守備陣。でも、そのときだけは、素晴らしいプレーをつづけていたイタリア最終ラインの重鎮、キエッリーニが、目測を誤ってしまうのです。そして、キエッリーニのアタマを越えたハイクロスが、マンジュキッチにピタリと収まってしまった。これで万事休す・・

 ワントラップしたマンジュキッチが放ったスライディングシュートは、名手ブッフォンの届かないギリギリのコースへ飛び、イタリアゴールの右ポスト内側をヒットしてゴールに吸い込まれた。同点ゴ〜ル!!

 そしてゲームが、エキサイティングに白熱していくのです。人数を掛けた組織サッカーで、ガンガンと攻め上がっていく(勝ちにいく)イタリア。対するクロアチアも、カウンターやハイクロスをブチかましていく。フ〜〜・・

 最後の時間帯は、クロアチアのハイボール攻撃が、迫力を増した。たぶんクロアチア選手たちは、その「やり方」に対する確信レベルが格段にアップしたんだろうね。逆にイタリアは、クロアチアのハイボールを怖がりはじめた!? やっぱりサッカーは、究極の心理ゲームなんだよ。フ〜〜・・

 両チームの、レベルを超えたダイナミズムが支配する最後の時間帯。手に汗握り、眠気がいっぺんに吹っ飛んだ。でも、結局そのまま痛み分け。

 これで、イタリアは追い込まれた。グループ最終戦で当たるアイルランドには絶対に勝たなければいけない。それも、出来るだけ多くのゴールを奪って。

 それだけじゃなく、イタリアは、グループ最終戦でクロアチアと対戦するスペインに期待しなければいけなくなった。スペインが、クロアチアとのグループ最終戦を、少なくとも引き分け以上で終えてくれることを・・

 この状況って、グループBのオランダに、ちょっと似通ってる。彼らは、ドイツがデンマークに勝つことを期待しながら、ポルトガルとの対戦をしっかりと勝ち切らなければいけないわけだよ。

 やっぱりグループ最終戦では、血湧き肉おどるドラマが待っている。フ〜〜・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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