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2012_EURO(9)・・二つの異なる(攻撃の)チーム戦術タイプの激突・・(チェコvsポルトガル、 0-1)・・(2012年6月22日、金曜日)

ゲームの流れのイニシアチブだけではなく、チャンスの量と質という視点でもチェコを凌駕したポルトガルの順当な勝利でした。

 決勝ゴールは、クリスティアーノ・ロナウドのヘディング一閃。このシーン(シュートまでのプロセス)は、とてもインプレッシブだったから、ちょっと深掘りしてみよう。こんな感じ・・

 ・・右サイドでボールをキープする(タメる)ナニ・・そのとき、彼の左側の眼前スペースへ、後方から、モウティーニョが爆発スプリントで走り上がってきた・・そして次の瞬間、ベストタイミングのパスが、ナニの右足から送り込まれる・・

 ・・モウティーニョは、チェックに来たチェコのセンターバックを、前方の決定的スペースへ「押し出す」ようにトラップすることで相手を置き去りにしてしまう・・それは、チェコ最終ラインの背後に広がる決定的スペースがこじ開けられた瞬間だった・・

 ・・完璧フリーの状態で、一瞬、中央ゾーンに視線を飛ばすモウティーニョ・・次の瞬間、その右足から、最終勝負の高速クロスが弾き出された・・

 ・・そのとき、チェコのゴール前では、もう一つの最終勝負ドラマが展開されていた・・クリスティアーノ・ロナウドが、「大外」から、自分をマークしているチェコのゲブレ・セラシエを追い抜いていくように爆発ダッシュをスタートしたのだ・・

 ・・クリスティアーノ・ロナウドには、ゲブレ・セラシエが、自分の爆発スタートを「感じていない」ことが分かっていた・・そして、次の瞬間、ゲブレ・セラシエの眼前を、「白い影」が、ものすごい勢いで横切っていった・・クリスティアーノ・ロナウド・・

 ・・モウティーニョが中央ゾーンへ送り込んだ高速クロスだけれど、そのときモウティーニョは、センターゾーンで待ち構えていた(長身の)ウーゴ・アルメイダを見ていたのだろうか?・・それとも、アルメイダの背後スペースに、クリスティアーノ・ロナウドが走り込んでくることをイメージしていたのだろうか?・・

 ・・それは分からない・・まあ、それこそ最終勝負イメージの積み重ね(成功体感の積み重ね)ということなんだろう・・たぶんモウティーニョは、完全にマークされているアルメイダだけじゃなく、その背後スペース「も」イメージしていたと思う・・アルメイダへのマークが厳しくなる・・そして、その背後に大きめのスペースが空く・・そこへ!?・・

 ・・とにかく、このシーンでは、クロス攻撃の有効性が如実に証明された・・そう、サイドから最終勝負を仕掛けられた場合、ボールとマークすべき相手を、同時に、正確に視認しつづけるのが難しくなるということ・・

 ・・クリスティアーノ・ロナウドは、ゲブレ・セラシエの「視線を盗む」ことで、ゲブレ・セラシエの眼前スペースを攻略しちゃった・・もちろんクリスティアーノ・ロナウドは、自分がシュートするシーンを明確にイメージ出来ていた・・それこそが、成功体感を積み重ねることで「充実した」脳内イメージタンクの為せるワザっちゅうことです・・フムフム・・

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 さて、テーマだけれど、ここでは「このゲームの構図」に注目しようと思う。それは、組織サッカーと個人勝負サッカーの対峙。

 シュートへつながる最終勝負プロセス。ポルトガルの場合、クリスティアーノ・ロナウドとナニを中心とした個人勝負プレーによる仕掛けが、彼らのチーム戦術イメージのコアだね。

 もちろん、ウラの決定的スペースを攻略する(ダイレクトシュートを打つ!?)ために、一発ロングパス(ラストクロス)やワンツーだって駆使するし、ドリブル勝負からラストスルーパスを出すってなシーンもあるよ(もちろん決定的フリーランニングとのコラボレーション!)。でも、最終勝負へ向かうときの基本的なイメージは、やっぱり勝負ドリブルに代表される個人勝負プレーなんだよ。

 それに対してチェコは、あくまでもパスで(人とボールの動きを駆使して!)シュートまでいこうとする。そう、組織サッカー・・

 もちろん最後の瞬間には(局面での)個人プレーもミックスされるよ。ラストパスを一度トラップし、アタックにくる相手をフェイントで翻弄しながら(スペースと時間的な余裕を作り出すために!)シュートを打つとかね。

 (ショート)カウンターシーンだけれど、そこでもチェコは、ボールがないところでの動きの量で(人数を掛けた組織パスコンビネーションで)勝負を仕掛けていく。それに対しポルトガルは、カウンターシーンでも、あくまでも個人勝負プレーが基本だよね。

 もちろんクリスティアーノ・ロナウドやナニといった個の才能を擁しているわけだから、そんな「タイプ」のサッカーをやろうとするのは分かる。可能性が高いんだからね。でも私は、だからこそ組織サッカーを充実させるべきだと思うわけです。そう、組織プレーと個人勝負プレーの高質なバランス。

 そのイメージが充実していたら、あれほど個の能力で秀でているのだから、もっともっと美しく勝負強いサッカーが展開できるはずだと思うわけです。まあ、余計なお世話だろうけれど・・

 ということで、チェコとポルトガルでは、その組み立てプロセス(遅攻)のやり方(そのイメージ)にも、明確な差異があるっちゅうわけです。

 もちろんポルトガルだって、ボールの位置を「移動」させるよ、鋭く正確な足許パスをつないでね。だから、「人」だって、ボールがないところでスペースへ動くさ。そう、決勝ゴールシーンでのモウティーニョのように。

 でも、それは、あくまでも「仕掛けの起点」を作り出すためのもの。ある程度フリーでボールを持つ「仕掛けの起点」を作り出せたら、そこからの最終勝負プロセスは、推して知るべしなんだよ。クリスティアーノ・ロナウドやナニといった個の才能が、「まず」自分のチカラで相手ディフェンスを切り崩していこうとする。

 それに対してチェコは、あくまでも、人とボールの動きを加速させることで、スペースを攻略しようとする。

 目的は、もちろんシュート。まあ、この試合でのシュートチャンスは限られたものだったけれど、それでも、決定的スペースに(全力スプリントで!)入り込んでパスを受け、それをダイレクトで「叩く」っちゅう最終勝負は危険だよ。

 もちろん彼らにしても、バロシュとかピラージュとか(もちろんロシツキーも!)、最終勝負へ向かうプロセスで「個のチカラ」を表現しちゃう場面はあるけれど、それでも基本は、あくまでもパスを基調に(ダイレクト)シュートまでいくというものなのです。

 この試合では、局面でのせめぎ合いを、基本的に「個」で打開していくポルトガルの強さが際立った。それは、それで、とても魅力的。これで、次の準決勝の楽しみが一つ増えた。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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