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2012_U22_・・厳しいアウェー二連戦があったからこその勝利・・(U22日本代表vsバーレーン、 2-0)・・(2012年3月14日、水曜日)

「日本は、とても優れたゲームコントロールを魅せた・・それに、とても落ち着いていた・・」

 バーレーン代表のイギリス人監督、Mr. Peter John Taylor さんが、わたしの質問に応え、そんなニュアンスの内容をコメントしてくれた。

 わたしの質問は・・

 「いま監督は、日本の方が良いサッカーをやったと言われたが、どのような側面で、バーレーンよりも優れていたのだろうか? わたしは、スピードやパワーではバーレーン選手の方が勝っていたし、テクニックやスキルにしても、日本に優るとも劣らないと思っているのだが・・」

 私は、ライラー監督の言葉を、「コレクティブ(組織コンビネーション)サッカーという視点で、日本に一日以上の長があった(チーム戦術的に優っていた!?)・・それを基盤にしているからこそ、個のフィジカル的な弱点を補って余りある、美しく、そして勝負にも強いサッカーが展開できる・・」というふうに解釈していました。

 また、テイラー監督は、こんなことも言っていた。曰く・・

 ・・友人のオジー・アルディレスとも話していたのだが(この二人は現役時代一緒にプレーしたらしい・・)、アジアのなかでは、特に日本の発展スピードが群を抜いている・・そのもっとも重要なバックボーンが、とても強力なプロサッカーリーグであるJリーグだ・・残念ながらバーレーンには、それに対抗しうる(十分な)競争環境(プロリーグ)がない・・

 テイラー監督のコメントは、とても興味深かったですよ。その極めつけが「これ」だった。曰く・・

 ・・バーレーンが予選を突破するためには、少なくとも「5-0」で日本に勝たなければならなかった・・試合前はそんな状況だったわけだが、日本にゴールを決められ、負けが決まった・・そしてそこからやっと、冷静に、良いサッカーが展開できるようになった・・試合の勝ちが遠くなってはじめて、自分たちの本当のチカラを発揮できるようになったのだ・・

 そして、その言葉が意味するところは、まさに日本にも当てはまる。関塚隆監督に、聞いた。

 「後半10分の扇原貴宏のゴールですが、私は、あれで全てが決まったと思っています・・あのゴールで日本チームは完全に(心理・精神的に)解放され、そこからは、関塚さんと選手たちが志向するサッカーを存分に披露できたと思っているのです(自分たちの本来のチカラを存分に発揮できるようになった)・・」

 「そこで質問ですが・・私は、その決定的な意味をもつ先制ゴールを、守備的ハーフの扇原貴宏が決めたということに、とても深い意味があると思っているのですよ・・前半の日本チームは、本当に縮こまったサッカーしか出来ていなかったですからね・・あのままだったら、ホントに危ないと誰もが感じていたはず(関塚さんも頷いていた)・・」

 「縮こまったサッカーになっていたのは、もちろん、後方からのサポート(人の動き)が足りなかったからに他ならない・・だから私は、ハーフタイムに、関塚さんが効果的な指示とゲキを飛ばした思っているのです・・そして、それが(後方から積極的にサポートに上がっていった)扇原貴宏のゴールにつながった・・?」

 スミマセン・・例によって、質問が長い。でも、論理ベースを「正確にセット」しなければ、聞きたいことがブレてしまうからネ。そして関塚隆監督が、こんなニュアンスの内容をコメントしてくれた。

 「わたしも、あの前半の内容では危ない、いつか失点してしまうと感じていました・・アタッキングサードまでは行けるけれど、そこから攻め急ぎすぎ・・もっと時間を掛けたり(タメたり)、逆サイドへ振るといった変化を演出できなかった・・だからハーフタイムでは、もう少し意識して人数を掛け、変化を演出しようという内容のハナシをした・・」

 そう、そういうことです。

 関塚さんと選手たちが志向する組織サッカーをうまく機能させるための「キモ」は、何といっても、パスを呼び込む「人の動き」だからね。

 あっと・・彼らが志向するサッカーの絶対的なベースは、もちろん積極的な守備(ボール奪取プロセス)だよ。そんなコトは言うまでもないよね。でも、ここでのテーマは、ボールを奪いかえした後の攻撃だから・・。

 ということで、人の動き。要は、組織コンビネーションサッカーでは、人とボールのスムーズで大きな「動き」こそが生命線だということです。そう、3人目、4人目の動き。そんな人の動きの「供給源」は、何といっても、両サイドバックと二人の守備的ハーフなんだよ。

 もちろん、後方メンバーがオーバーラップしていったら、次の守備では、前戦プレイヤーが戻らなければならないシーンも増えてくる。だからこそ、守備意識と、責任ある「汗かき」ハードワークに対する「相互信頼」が、組織サッカーの絶対的ベースだとも言えるわけです。

 あっと・・蛇足。

 ということで前半の日本だけれど、安定志向に過ぎたことで(!?)そんな「タテのポジションチェンジ」がほとんど出てこなかった。だから、パスにしても、単調な一発スルーパスばかり。これじゃ、バーレーン守備に簡単に「読まれ」て潰されてしまうのも道理。

 逆にバーレーンは、徐々に自信を深め、たまに、ものすごく危険なカウンターを繰り出したり、セットプレーで日本に冷や汗をかかせるのですよ。フ〜〜・・

 そんな縮こまった前半とは違い、後半は、最初から良い兆候が見えはじめた。要は、前半では、ほとんど見られなかった、守備的ハーフの「前方への飛び出し」が出てきたのです。そう、3人目、4人目の(パスを要求する≒ボールの動きを活性化する!?)サポートの(人の)動き。

 だからこそ、扇原貴宏のゴールに、思わずガッツポーズまで出てしまった。そして思った。「よしっ・・これで、もうダイジョウブ・・」

 ところで・・、関塚隆監督の記者会見の最後に、(他に質問がなかったこともあって!)この試合とは関係ない質問をさせてもらった。指名してくれた協会マネージャーの方に感謝。

 「シリアに、あんなカタチで負けてしまった・・そして日本のメディアは、もうこうなったらマレーシアに10-0で勝たなきゃいけない・・なんてワケの分からないことを言う・・そんな喧噪のなかでも、とても冷静に、最後まで闘い抜いた・・その経験は、プロコーチとしての関塚隆にとって、とても重要なモノだったと思うのだが・・?」

 「そうですね・・確かに、とても厳しい状況でした・・でもそれは、わたしだけではなく、選手にとっても、とても貴重な(ブレイクスルーの!?)機会だったと思います・・選手たちは、とても高い意識を持ってくれた・・そして、さまざまなプレッシャーのなか、あの蒸し暑いマレーシアでの闘いを立派に勝ち切ってくれた・・そんな厳しいアウェーでの二連戦があったからこそ、この勝利(オリンピック予選突破)があったと思っています・・」

 いいね、関塚ジャパン。彼らは、オリンピックでも、日本サッカーの存在感を大きくアップしてくれるに違いない。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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