湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第17節(2010年8月8日、日曜日)

 

ゴール決定力と「ゲームを勝ち切るメンタリティー」は、同根!?・・(FCTvsGR, 0-1)

 

レビュー
 
 「オマエな〜〜・・監督の、勝利に対するこだわりが十分でなければ、選手たちのソレが地に落ちてしまうという複雑な心理メカニズムを分かって質問しているのか?・・選手たちの、勝つことに対する乾きにも似た希求感覚を極限で高めることは、監督の、もっとも大事なミッションだし、それほど難しいことはないんだよ・・」

 ドイツの伝説的スーパーコーチ、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーに、そんな言葉を投げかけられたことがありました。

 たしかそれは、「チームの勝者メンタリティーを高めるためには、何がもっとも重要なファクターですか?」なんて、安易に投げてしまった質問に対して、ヴァイスヴァイラーが、睨(にら)むような表情で返してきたコメントだったと覚えています。例のダミ声だし、当時の世界トッププロコーチの言葉だからね、かなりビビッて聞いていたことを覚えている。

 このところ、シュートをゴールへ結びつけるという「現象」について、レッズ対アルディージャ戦、そして昨日のエスパルス対アントラーズ戦を「媒体」にして論を展開しました。もちろん、ゴール決定力というテーマ。そこで何度も、ヘネス・ヴァイスヴァイラーに登場してもらったというわけです。

 もちろん、ゴール決定力というテーマと、「勝負強さ」、または「勝負弱さ」というテーマは、多くのファクター(心理・精神的要素)で重なり合うのですよ。

 どうして、そんなテーマになったのか・・って!? もちろん、今日、味スタで行われた「FC東京vs名古屋グランパスエイト」戦が、まさに、そのテーマにピタリと「はまった」勝負になったからですよ。

 「サッカーの内容的には(たぶん・・)FC東京の方が上回っていたと思う・・その意味で彼らは、勝ち点ゼロよりも多くのポイントを獲得してもおかしくなかった・・とはいっても、最終的に我々が勝利を収めたという事実は動かせないし、そこでは、強い(勝者の)メンタリティーという明確なバックボーンを示せたとも思っている・・ 総体的には、我々自身が、自分たちのチカラで勝ち取った3ポイントだったということだ・・」

 ピクシーが、そんなニュアンスのことを言っていた。また彼は、勝者のメンタリティーというテーマに絡め、トゥーリオが押し込んだ決勝ゴールを、こんなニュアンスでも表現していた。

 「最後の時間帯・・我々は勝つためにリスクを冒した・・その一つが、アレックス(三都主)をグラウンドに送り込んだことだ・・そしてチームのなかの、勝つことに対するイメージ(意志)が増幅された・・そのためのリスクチャレンジだった・・だからこそ、金崎からパスを受けたアレックスも、事前に最終勝負イメージを作り上げていたし、走り込んでいたトゥーリオも同じだ・・そしてだからこそ、二人の最終勝負のイメージもピタリとシンクロしたのだ・・」

 その発言には、その決勝ゴールに絡んだすべての選手が、「ここで勝ち切るぞっ!」という強い意志をもっていた・・彼らの「確信レベル」は極限まで高まっていた・・というニュアンスが内包されていたと思いますよ。わたしは、そんなピクシーの発言を、ナルホド・・と、聞いていた。

 FC東京だけれど、ピクシーに、「ロジカルに分析すれば、FC東京が勝ってもおかしくなかったという結論も分かる・・」と言わしめるほど、とても優れたサッカーを展開した。

 とにかくFC東京は良くなっているのですよ。前半などは、グランパスに、まったくといっていいほどサッカーをやらせなかった。それだけではなく、ゲーム全体の流れを「掌握」しながら、しっかりとチャンスも作り出したのです。そこまでは、本当に素晴らしかったのだけれど・・。でも、そのチャンスをゴールに結びつけられない・・。

 ハーフタイムには、同僚のジャーナリストの方と、こんなハナシをしていた。「いつものパターンじゃん・・あんなに押し込みつづけてサ・・それも、しっかりとチャンスまで作り出したのに、それを決められない・・後半は、グランパスにペースを奪い返されて勝ち切られちゃうんじゃないか・・!?」

 そして後半。その立ち上がりから、予想どおりグランパスが押し返し、惜しいチャンスも作り出すといった展開になっていった。

 そんな展開を観ながら(ちょっとガッカリしながら・・)、何だ、ホントに、いつものパターンに落ち込み始めちゃったぜ・・なんて舌打ちしていた。わたしは、このところ目立って調子をアップさせているFC東京に(城福浩監督の優れた仕事に!)期待していたのですよ。それが、何か、裏切られる方向へゲームが展開して行きそうな雰囲気に、落胆を隠せなかったのです。でも・・

 そう、この試合でのFC東京は、これまでとは明らかに違いました。グランパスの前へのダイナミズムを、しっかりと受け止め(その危険ファクターを効果的に無力化し!)そして、チーム全体で押し返していったのですよ。

 まあ・・たしかに、カウンター的な仕掛けがほとんどではあったけれど、サイドからのコンビネーションやドリブル突破によって、何度も、フリーでシュートする決定的なチャンスシーンを作り出したのです。でも、GKの正面にシュートを飛ばしてしまったり、ギリギリのところでポストやバーをかすめたりと、結局は、そのシュートをゴールに結びつけられなかった。

 そして後半ロスタイム。トゥーリオに、まさに「勝者のメンタリティー」としか表現のしようがない決勝ヘディングゴールを叩き込まれてしまうのです。

 結局FC東京は、グランパスの二倍もシュートを放ったにもかかわらず、最後の瞬間に起きた「何か」によって負けてしまった・・

 決して私は、城福浩監督の(冒頭のヴァイスヴァイラーの言葉のニュアンスをベースにした)勝利への「こだわりレベル」が低いとは思っていません。それでも、シュートをゴールに結びつけるという「現象」も含め、まだまだ何かが足りない・・とも感じる。

 エスパルス対アントラーズ戦のコラムでも書いたけれど、シュートすること(シュートを決めるテクニック)と、実際のゴールを奪うことに対する「確信」を得ること(そのレベルを極限まで高め、安定させること)は、まったく別物だということが言いたかったわけです。

 そして「そのこと」は、明らかに、ゲームを勝ち切るという「現象」に通じるモノがある・・と思うわけです。

 あっと・・最後になりましたが、先日の「スルガ銀行CS」で、守備的ハーフとしてプレーした、FC東京の田邉草民。わたしは、とても気に入りました。

 周りの評価は、「アイツはドリブラーだし、守備とか、汗かきチームワークを一生懸命にやらないんですよ・・」というモノが主流でした。でも、そのスルガCSで魅せたプレー内容は、とても素敵なものだった。攻撃での汗かきプレーも良かったし、守備も忠実にこなしていたし、とてもスキルフルで上手かった。とにかく、攻守にわたって、とても実効レベルが高いプレーを魅せていた・・と、わたしは思っているわけです。

 もしかしたら、彼も、スルガ銀行CSという「インターナショナルな刺激」によって・・また守備的ハーフを任されたということで・・、攻守にわたるプレーの幅(イメージ)が広がったのかもしれないね。南アW杯での松井大輔や本田圭佑のように・・ネ・・あははっ・・

 とにかく私は、FC東京の田邉草民(たなべそうたん・・と読むそうな・・)という選手を覚えておこうと思った次第です。もちろん、次に見たときに、プロとしてのプレー姿勢に問題があれば、ブッ叩くことになるけれどネ。

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 



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