湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第7節(2011年4月24日、日曜日)

 

レッズの「四角四面」チーム戦術・・まあ最後は、選手たち自身が「応用」していくわけだから・・(RvsGR, 3-0)

 

レビュー
 
 目の覚めるような「早業」で、ガンガンガ〜ンとゴールを積み重ねたレッズ。要は、カウンターがピタリとツボにはまったっちゅうことだね。まあ・・たしかに・・レッズには、(チームイメージ的に)カウンターが似合う!? フムフム・・

 そんなレッズに対してグランパスは、ストイコビッチ監督が言っていたように、ボールの取られ方(ボールの動かし方)が悪すぎた。

 追いかける側のグランパスだから、積極的に(人数をかけて)仕掛けていかざるを得なかったわけだけれど、前に重心がかかった(選手たちが前のスペースへ押し上げていこうとしている)状態で、確実につながなければならない展開パスを狙われてしまうのだから何をか言わんや(安易なパスだからレッズ選手に簡単に奪いかえされてしまうのも道理・・)。その視点からすれば、この結果は当然の帰結とせざるを得ない!?

 もちろんレッズは、チェイス&チェックアクションを絶対的なベースに、組織的に連動するディフェンスをうまく機能させていた。だからこそ、効果的に、「次」でボールを奪うことができた。それだけではなく、彼らは、次の仕掛けに対するイメージも描いていた。だからこそ、効果的なカウンターも繰り出していけた。

 やっぱり、ボールに対する忠実な(物理的&心理的な)プレッシャーを掛けつづけることが大事なんだよ。そんな、相手に対する「圧力プレー」がうまく機能していたからこそ、インターセプトや、相手トラップの瞬間を狙ったボール奪取アタックだって、明確にイメージ描写できたということでしょ。

 それでも、何度か、先制ゴールの後から後半の半ばにかけて、グランパスにイニシアチブを「握られ過ぎる」時間帯があったことも確かな事実だよね。そこでは、ディフェンスの初動であるチェイス&チェックのアクション(相手ボールホルダーに対する詰めのアクション)が減退し、グランパスに余裕を与えてしまった。

 とはいってもレッズ選手たちは、要所では、相手のパスを狙っていたし、そんな状況なのに、グランパス選手が、タイミング悪く、注意散漫なパスを出すモノだから・・。

 それにしても、前戦の三人(エジミウソン、田中達也、原口元気)と中盤の三人(マルシオ、柏木陽介、山田暢久)は、守備では、うまくイメージ連鎖できていたと思う。まあ、ゼリコ・ペトロヴィッチが言うように、それも練習の成果ということなんでしょう。そして、それこそが、いまレッズの調子が上向きになっていることの本質的なバックボーンになっているというわけです。

 それでも・・サ、ちょっとオールドファッションな「チーム戦術」には変わりはないわけだからネ・・。その最たるモノが、スピアヘッド(エジミウソン)と両サイドハーフの基本ポジショニングを、頑(かたく)ななまでに「維持させる」という方針。

 現代サッカーでは、チーム全体が、縦横無尽にポジションチェンジを繰り返すのは当たり前。目的は、もちろん、高質なチーム(組織)サッカーであり、そのための攻撃の変化の演出なのです。

 そして、そんなポジションチェンジを繰り返しても、次の守備では、決して互いの組織的ポジショニングバランスが崩れないというポイントにこそ、チームの「質」が表現されるわけです。優れたチームは、すべからく、そんなサッカーを志向するものなんですよ。でも、ゼリコ・ペトロヴィッチのサッカー(考え方)は、違う。

 まあ、この件については、以前アップした(もちろんゼリコ・ペトロヴィッチが監督に就任してからの!)レッズコラムや、スポナビに発表されている、島崎英純さんのコラムも参照して下さい。わたしのコラムは「対アルディージャ戦」「対栃木FC戦」、そして「モンテディオ戦」です。あっと・・第1節のヴィッセル戦もあったっけ。

 確かに「オープン」になったこのグランパス戦では、「素早く、直線的な攻撃」というポイントはうまく機能したよね。それは、追いかけるグランパスが、積極的に(無計画で無秩序に!?)攻め上がってきたからです。だから、相手の重心が前へ掛かっている状況で、タイミング(位置も)よくボールを奪いかえして素早く仕掛けていくカウンターがツボにはまった。

 でもサ、これまでのトレーニングマッチでも証明されているように、相手が守備を固めてきたら(注意深く攻め上がってきたら!)、問題が表面化するのは道理だよね。相手は、レッズの「ステレオタイプ的な攻めのやり方」を明確にイメージしているわけで、それに対するゲーム戦術を練り、徹底的に実行してくるわけだから。

 そうなったら厳しい闘いを強いられることになるでしょ。ということで、そんなときにこそ、選手たちの「グラウンド上での工夫」が必要になるのです。

 でも、ステレオタイプ的な「決まり事」のニュアンスが強すぎ、選手たちの「自由であるべき創造性マインド」までも阻害されているのだとしたら、そんな「必要な工夫(応用)」のチカラがうまく機能しなくなっているかもしれない。そうだとしたら、問題の根は深いから難しいな〜〜。

 だから筆者は、ここで、選手諸君に提案したいと思うわけです。

 ・・もちろん、ゼリコ・ペトロヴィッチがイメージする「やり方」は、原則的にはフォローする・・それでも、ペトロヴィッチにしても、素晴らしい「ワン・ツー・スリー・コンビネーション」が決まったら、文句を言うはずがない・・だから、仕掛けプロセスに入るスタートポジション「だけ」は守り、そこからのやり方は、自分たちで自由に工夫するのです・・縦横無尽のポジションチェンジあり、組織コンビネーションあり、その流れに勝負ドリブルをミックスすることもあり・・何でもアリ・・でも、繰り返すけれど、スターティングポジション「だけ」は監督の指示にしたがう・・

 とにかくレッズの場合、リーグでは、圧倒的に「守ってくる相手」の方が多いわけだからネ。

 ここで筆者が言いたかったことは、ただ一つ。それは、『脅威と機会は背中合わせ・・』という普遍的な考え方(概念とかコンセプトとか・・)です。

 決して「過度」に、ペトロヴィッチが敷いた「規制」に落ち込み過ぎてしまうのではなく、レッズの選手諸君には、ステレオタイプ的な指示を、自分たちの創造性プレーを発展させるための「キッカケ」として逆活用してしまおう・・と言いたい筆者なのでありました。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。