湯浅健二の「J」ワンポイント


2016年Jリーグの各ラウンドレビュー

 

第25節(2016年8月13日、土曜日)

 

ベルマーレは最高のパフォーマンスだった・・そして、多彩になっているレッズの仕掛けというテーマも・・(ベルマーレvsサンフレッチェ、1-2)(グランパスvsレッズ、0-2)

 

レビュー
 
「たしかに負けたのは残念だけれど、やっているサッカーは、本当に良かったと思う・・」

試合後、ケガのためにメンバーから外れ、スタンドで観ていた長谷川アーリアジャスールが、チョウ・キジェ監督の許可を得たうえで、チームに、そんなニュアンスの内容をチームに語りかけたとのことでした。

いや、ホント、まさにその通り。

会見でも、チョウさんが・・

・・今日のパフォーマンスは、確実に勝ち点を稼げた内容だったと思っている・・と語っていた。

だから私も・・

・・いまチョウさんが述べられたとおり、私も、今日ベルマーレが魅せたパフォーマンスは、本当に素晴らしかったと思っている・・

・・チョウさんもご存じの通り、私は、23節からつづけて3試合ベルマーレをスタジアム観戦したけれど、そのなかでは、今日が、まさに最高のサッカーだった・・これだったら、残留などを目標にするのではなく、もっと上を目指して欲しいとも思うのだが・・

・・なんていう質問を投げた。

それに対するチョウ・キジェのコメントのなかで、冒頭の、アーリアのチームに対する発言が披露されたっちゅうわけさ。

それにしてもアーリアは、素晴らしいインテリジェンス&パーソナリティーだね。

積極的にチームの進化プロセスに関わっていこうとする前向きな態度(最高の参加意識&当事者意識!?)。

それは、言うまでもなく、「ストロングハンド」がチームを率いているからこそなんだよ。

そう、チョウ・キジェだからこそ、チーム全員がより深く考え、勇気と意志をもって積極的にプレーしようと(ポジティブな自己主張をブチかまそうと!?)するわけさ。

チョウ・キジェの素晴らしいパーソナリティー&リーダーシップについては、もう語るまでもないと思うけれど・・

とにかく、そんな彼の、人間の本質(本音)に迫る、前向きでチャレンジャブルな(意志と勇気を高揚させる!!)心理マネージメントこそが、この試合での素晴らしいパフォーマンスとなってグラウンド上に表象されたっちゅうコトなんだろうね。

まず何といっても、汗かきハードワークが素晴らしくスムーズに連動する組織ディフェンス。

だからこそ、効果的な協力プレスやインターセプト、はたまた全力で戻りながらの(フェアな!)必殺タックルや相手トラップの瞬間を狙うアタックが、面白いように決まる。

そんなだから、高い位置でボールを奪い返しつづけられるワケだ。そして・・

そう、そこからの、ダイレクトパスを散りばめた組織コンビネーションが秀逸だったんだよ。

忠実なパス&ムーブが光る、光る。だからこそ、ワンのパスを受けた選手が、確信をもって、ダイレクトで「ツーのパス」を横のスペースへ流せる。

そんな、トントント〜ンという軽快なリズムの組織コンビネーションが炸裂しつづけたことで、「あの」抜群に強いサンフレッチェ守備ブロックにも「亀裂」が生じ、スペースを何度も攻略されちゃったっちゅうわけだ。

それにしても、あれほど不安定なサンフレッチェ守備ブロックを観たのは久しぶりだった。

だからこそ、ベルマーレサッカーへの確信レベルも深まったっちゅうわけさ。

私は、最後の最後まで、チョウ・キジェ率いる湘南ベルマーレを応援しつづけまっせ。

やっぱりサッカー観るなら、エンスージアズムがなきゃ・・ネ。まあ、ニュートラルであるべきジャーナリストとしては良くないのかもしれないけれど・・サ。

__________

ということで、グランパス対レッズ。

すごいね〜、レッズ。

まさに勝者メンタリティーの証・・といったサッカー内容だった。

何せ相手は、「手負いのライオン的」な状況に落ち込んでいる強豪グランパスだからね。簡単なゲームじゃないハズなんだけれど・・。

もしかしたらグランパスは、既に最後の(心理的)エッジも失っている!? さて〜・・。

ということで、立派なサッカーを展開したレッズ。

全体的なドミネーション(ゲームを支配する流れ)は、やはりレッズに一日以上の長がある。

そのなかで、これまでどおりのダイレクトパス・コンビネーションや(サイドチェンジからの!)サイドゾーンのドリブル突破&クロスだけじゃなく、ミドルシュート、たまには放り込み、そして、タテ方向への、素早く長い「ここ一発の最終勝負パス」等など、攻撃がものすごく多彩になっている。

いや、これまでも、とても多彩ではあったけれど、その多彩さに「明確な意志と鋭さ」が加わり、最終勝負を仕掛けていくイメージが、チームメイトのなかで(パサーとレシーバーの間で!)より鮮明に、シェアされているといった表現の方が正確かもしれないね。

その仕掛けのなかでは、タテ一発の(とても大きな!)最終勝負コンビネーションが秀逸だった。

そんな、相手ディフェンスの「守備イメージを超越する」最終勝負コンビネーションを象徴していたのが、前半8分の仕掛けシーン。

それは、阿部勇樹が最終ラインに入っている状態。要は、レッズが、落ち着いた組み立てプロセスに入っている状況だね。

ゆっくりと最終ラインでボールを回すレッズ。

グランパス守備の対応は、とても(心理的にも!?)ルーズの極みのように感じる。

誰もチェイス&チェックなどのハードワークを「最高の厳しさで仕掛けていく」のではなく、レッズのボールの動きに、単に「対応」している・・といった受け身の雰囲気なんだよ。

そんな「ルーズな雰囲気」をあざ笑うかのように、最終ラインの那須大亮と、その前方にいる柏木陽介が、タテ方向にボールを動かす。

もちろん、そのボールの動きに、グランパス選手たちも「反応」はする。でも、気持ちが入っていない。だからルーズ、とてもルーズ。

タテパスを受けた柏木陽介は、相手の「寄せ」をあざ笑うかのように、那須大亮へボールを戻す。

この時点で、グランパス守備ブロックは、(彼らの)左サイドに「集められて」しまっていた。

この状況で、右サイドにいる森脇良太へパスを出す「素振り」をした那須大亮が、ボールを持ち替え、今度は、左サイドの阿部勇樹へパスを「戻す」んだよ。

これの一連のボールの動きで、グランパス守備ブロックは、完璧に「左右」に振り回されてしまっていた。

そして次の瞬間、レッズの「タテへの最終勝負イメージ」が爆発するというわけだ。

最終ライン中央の阿部勇樹に、「落ち着いた横パス」が戻された。同時に、その左サイドにいる槙野智章が、大きなジェスチャーで、「オレにパスを!!」と、アピールするんだ。

もちろん阿部勇樹は、ワントラップで、素早く槙野智章へ横パスを出す。

それが勝負の瞬間だった。

いや、その直前の、槙野智章と、左サイドゾーンを上がっていた宇賀神友弥による「アイコンタクト」こそが、勝負のポイントだったのかもしれない。

そのアイコンタクトがあったからこそ、槙野智章が、阿部勇樹に「アピール」したっちゅうわけさ。

そして、案の定・・。

阿部勇樹からの横パスをもらった槙野智章は、ダイレクトで、左サイドの決定的スペースへ走り抜ける宇賀神友弥へ、タテへの、「ラスト・ロング・グラウンダー・スルーパス」を送り込んだっちゅう次第。

そして、見事に決定的スペースへ抜け出し、槙野智章からのダイレクト・ロング・スルーパスを受けた宇賀神友弥は、ワントラップで、センターゾーンへ、ラスト・トラバース・クロスを送り込んだ。

もちろんセンターゾーンへは、完璧にフリーになった李忠成と武藤雄樹が走り込んでいる。

この、二人のフィニッシャーの「動き出しタイミング」も秀逸だった。

もし宇賀神友弥のラストクロスのコースが、もう少し「戻り気味」だったら、グランパスGKの楢崎正剛も届かず、確実に先制ゴールになったでしょ。

この最終勝負シーンでのレッズは、グラウンドの半分以上という、ものすごく「大きな」ゾーンを使い切るような、ダイレクトパス・コンビネーションを決めたんだよ。

まさに、次元を超えた仕掛けではあった。

ところでグランパス。

たしかに彼らも、頑張ってはいた。それでも、この最終勝負で、完璧に「ウラ」を攻略されたシーンなど、攻守わたって、ほんの「小さなトコロでの不備」が目立っていた。

そう、サッカーは究極の心理ゲームであり、勝負を分けるのは、最終的には「意志」なんだよ。

その意志が充実していれば、選手たちは、より積極的に、「目立たない」攻守ハードワーク(仕事)を主体的に「探す」ようになる。

そして、目立たないトコロでの「勝負を分ける小さなプレー」も充実してくるモノなんだ。

この「小さなトコロの修正」には、本当に長い時間と努力が必要だ。

ヘネス・ヴァイスヴァイラーが、よく言っていた。

・・オマエたち若造コーチは、カッコをつけすぎる・・どんなに新しいトレーニング方法を考案したって、それを効果的にやらせるのはコーチなんだからな・・

・・誰がグラウンドに立っているかで、そのトレーニングの効果に雲泥の差が出てきてしまうんだよ・・そして・・

・・そう、本当に「細かなトコロ」に気付き、それを、しつこく、粘り強く、修正させるのが本質的なコーチの仕事なんだ・・

・・そこじゃ、選手たちが、心から「修正したい!」と思わせることも・・そう、選手たちの自主性(考えるチカラ)を発展させることも、コーチのもっとも重要なタスクなんだよ・・

ということで、レッズが完勝したこの試合については、こんなところでした〜・・

では、また。


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あっと・・

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ところで、ワケの分からない、1.ステージ、2.ステージ、そしてチャンピオンシップ・・という「興行」について。

昨シーズンの「J」は、本当にツキに恵まれた。

何せ、年間最多勝ち点チームというリーグ頂点に立ったサンフレッチェが、「興行チャンピオン」にも輝いたわけだからね。でも、昨シーズンの二位クラブは、ガンバ大阪なんだってサ。要は、「興行チャンピオンシップ準優勝チーム」ということらしい。

まあ、皆さんも感じられている通り、とても、変。まあ、協会側は、この不自然なリーグシステムを「まだ」つづけるつもりらしいけれど・・サ。フンッ。

皆さんもアグリーだと思うけれど、「J」に関わっているサッカー人は、絶対に、『年間最多勝ち点チーム』を目指さなきゃいけないんだよ。

まあ、以前の「2ステージ制」とは違い、昨シーズンから始まった「今回の興行」では、シーズンが終了したとき、『年間最多勝ち点チーム』が一番エライってことになることだけが、救いかな。

ということで、その後のトーナメント(チャンピオンシップ)は、まさに「興行」。

そして「J」の歴史には、『年間最多勝ち点チーム』と『興行チャンピオン』の両方が刻み込まれる(刻み込まれなきゃいけない!)。そうじゃなきゃ、10年、20年後に、「昔」と比べられる、同じ基準のチャンピオンがいなくなっちゃうわけだからね。

だから、サッカー人だけじゃなく、読者の皆さんも、『年間最多勝ち点チーム』をイメージしてシーズンを楽しむべきだと思うわけなのですよ。

この「テーマ」については、新連載「The Core Column」で発表した「このコラム」も参照してください。

そこでは、いかに(目的が歪んだ興行の!)2ステージ制が、世界の主流フットボールネーションが築き上げた「伝統」に逆行しているのかというディスカッションを展開しました。

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最後に「告知」です。

どうなるか分からないけれど、新規に、連載をはじめています。

一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」

そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」

自伝では、とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書きましょうかね。そして、もしうまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れて立ち上げた新ビジネス」や「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。

ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、できる限りアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。

もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。

まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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