トピックス


2012_天皇杯と女子サッカーの決勝・・継続こそチカラなり・・(2012年1月1日、日曜日)

それにしても強かったね、FC東京とレオネッサ。これほど内容と結果に「つじつま」が合った一発勝負マッチも久しぶりだった。

 まず、レオネッサとアルビレックスが対戦した全日本女子サッカー選手権大会の決勝だけれど、彼女たちのサッカーを観ながら、こんなことを考えていた。

 ・・数年前までは、しっかりと観戦(分析)するためには、ちょっと忍耐が要ったものだ・・でも今は、状況は一変している・・ホントに・・

 ・・もちろん、パワーやスピードといったフィジカル要素では男子と比べようもないけれど、テクニックでは、特に基本であるボールを止め、コントロールし、蹴るという意味で、大きく発展している・・だから、組織コンビネーションにしても、局面での気の利いたエスプリプレー(フェイント&カットなど)にしても、観ている方のストレスも大きく軽減している・・

 ・・それに、様々な要素が入り乱れる「戦術イメージ」という視点じゃ、日本人の強みである(!?)優れたインテリジェンスや忍耐強い努力を絶対的バックボーンに、(フィジカル要素を除いて!?)男子にもひけを取らないところまで進化している・・

 ・・また(逆に!)観戦する方にとっても、スピードやパワーで男子に劣るから、グラウンド上に投影される戦術イメージの内実が、より明確に「見えてくる」という意味で、とても面白く観察し分析することができる・・

 ・・以前のコラムで繰り返し書いたように、いまの「なでしこ」には、サッカーの基本的な魅力が備わりつつある(いや・・期待以上に増幅しつつある!)と思う・・いまや彼女たちは、男子サッカーとは全く別のスポーツである「女子サッカー」として社会的なステータスを築き上げつつある・・

 ・・だからこそ、参加意識や当事者意識の高い生活者(女子サッカーの積極的ファン&サポーター)にとって、とてもサポートし甲斐のある(要は、日常生活に色を添えるに十分な価値を提供してくれる!)プロスポーツとして存在感をアップさせはじめていると感じる・・これは、本当に、興味深い社会的な現象だ・・

 たしかに課題も山積みだろうけれど、そこは、不確実な要素が満載だからこそ最終的には自由にプレーせざるを得ないサッカーということで、その深く、広い普遍的な価値と意義に対する理解を普及させる努力を怠らなければ、その社会的ステータスは(男子サッカーと共存できるまでに!)着実に発展しつづけると思いますよ。

 ということで、ワールドチャンピオンに輝いてからというもの、オリンピック予選を勝ち抜いたこと、また先日のレオネッサとアーセナルのフレンドリーマッチも含め(そのコラムは、こちら)、女子サッカーに対する社会的な注目度の格段の高まりを感じ、その現象のコノテーション(言外に含蓄される意味)を探ろうとしている今日この頃なのでした。

-------------------

 さて、京都サンガとFC東京が対峙した天皇杯決勝。

 全体としては、皆さんもご覧になったように、FC東京が強さを魅せつけました。

 試合後に、2010南アワールドカップの戦友同士でもある京都サンガの大木武さんとFC東京の大熊清さんがガッチリ握手を交わしたとき、(大熊さん曰く、とても素直な・・)大木さんが、今日のFC東京はとても強いチームだったとエールを送ったとか。

 この二人、とても素敵な関係だよね・・羨ましい・・

 そう、この日のFC東京は、とても強かった。

 試合がスタートした立ち上がり時間帯での「ダイナミックな仕掛け合いの応酬」という展開でも、FC東京に一日以上の長があったし、その後でも、FC東京は、とてもスムーズに「自分たちのツボ」ともいえるゲーム展開に(彼らがドライブするカタチで!?)持ち込んでいったからね。

 立ち上がりの「仕掛け合い」だけれど、両チームが打ち合うというエキサイティングな展開ではあったけれど、やはり、本物のシュートチャンスを作り出すまでの最後の仕掛けチャレンジの量と質では、(大木武さんも認めていたように)明らかにFC東京に分があった。

 そのことについて、サンガの大木武さんは、FC東京攻撃陣の四人が秘める個のチカラを(一つの例として!?)挙げた。(究極の汗かき組織プレイヤー!?)羽生直剛、(ブラジルの日本人!?)ルーカス、それに谷澤達也、そして石川直宏。

 組織コンビネーションの量と質で大きな差がない場合、最終勝負チャレンジの内容は、個のチカラ(個の最終勝負プレー)の内容によって大きく左右される。ドリブル勝負力・・安定したキープ力(ポストプレーの力=周りのサポートオーバーラップを活性化する!)・・ミドルシュート力・・正確なクロスを送り込む力・・などなど・・

 また、FC東京のツボともいえる「ソリッドな守備ブロックからの蜂の一刺しカウンター」というゲーム展開へと変化していったプロセスだけれど・・

 あっと・・まず、FC東京が魅せたソリッドな守備ブロックだけれど、決して彼らは、受け身に下がってブロックを組織するというわけじゃありませんよ。あくまでも彼らは、前戦から積極的にチェイス&チェックを仕掛けるなかで、(大熊さんが言う)インターセプト&ボール奪取を明確にイメージする、汗かきも含む積極(ボール奪取)チャレンジをブチかましつづけるのですよ。

 わたしは、ラジオの解説で、互いに仕掛け合っていた時間帯ですでに、FC東京が、意志をもってゲームを落ち着かせようとし始めている・・なんてコメントしていた。

 でも、その後もFC東京が積極的に攻め上がりつづけた(互いに積極的に仕掛け合った)ものだから、ちょっと「解説の内容を外したかな・・」と思った瞬間もあったわけだけれど、でもその後の展開は、まさに予想・予感とおりに動いていったですかね。まあ・・ネ、そこでは、セットプレーからの同点&勝ち越しゴールという「ゲームの流れに影響を与える現象」もあったわけだけれど・・ね。

 とにかく、FC東京がリードを奪ったら、ホントに無類の強さを発揮するということだけは確かな事実だよね。そのことは、昨年の「J2」の戦績にも如実に現れている。それにしても、FC東京の堅牢な守備ブロックには拍手でした(失点数は22で、2番手に付けるコンサドーレに10点という大差を付けた!!)。

 ところで京都サンガ。

 大木武監督のコメントには、いくつも、大切なキーワードが内包されていた。

 ・・例えば・・(自分たちが主体的にボールをキープできるような!?)落ち着いたゲームが増えてきた(それに伴って成績もアップしていった!?)・・

 ・・例えば・・グラウンドの3/4のトコロまではボールを運べるが、その後は、うまくブレイク(相手ディフェンスを突き破ることが)できない・・そこでは局面勝負で競り負けてしまうシーンが多い・・

 ・・例えば・・攻守にわたる積極的な仕掛けプレーはいいけれど、相手にボールを奪われたときの切り替えと、しっかりとした効果的な「戻り」こそが、もっとも重要な評価基準だ・・などなど・・

 いいね・・大木武というコンセプトセッター。継続こそチカラなり・・を実践する京都サンガは、来年も「J2」の主役を演じることでしょう。

===============

 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

==============

 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]