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2011_女子WM_13・・ナデシコのことをもう一度・・そして興味深いサッカー内容の変容についても・・(USA対スウェーデン, 1:2)・・(2011年7月6日、水曜日)

・・フ〜〜ッ・・ちょっと気が重い・・まだ昨日のイングランド戦を引きずっているのかな〜・・

 ・・たしかにナデシコのプレーには、明らかに勇気が欠けていた・・だから、「チャンスの流れ」を、「本物のチャンス」にまで高めることができなかった・・相手にリードを奪われたことで失うモノはなくなったのだから、もっとフッ切れた仕掛けをブチかませたはずなのに・・

 ・・例えば・・一人が、勝負ドリブルで突っ掛けていきながら、その背後から、こぼれ球を狙うチームメイトが影武者のように付いていったり・・ガンガンと中距離シュートをブチかましたり・・後方からの、3人目、4人目の決定的フリーランニングを繰り出していくことで、イングランド守備のを攪乱したり、前戦選手たちへの(特にボールがないところでの!)厳しいマークを幻惑させたり・・

 やり方は数限りなくあるけれど、ナデシコの攻撃では、そんなフッ切れた(強烈な意志をブチかますような)積極的な仕掛けは影を潜め、何か、組織コンビネーションの気持ちよさ「だけ」を前面に押し出すような「キレイ事」の攻撃を「カタチ」にするという、迫力のない仕掛けに終始したっちゅう印象しか残らなかった。

 ナデシコは、もっともっと出来たはず・・でも・・後ろ髪を引かれるような後味の悪〜い印象が強く残るのは、たしかに精神衛生上いただけないよな〜〜。

 準決勝まで駒を進める・・という希望を達成する「確率」ですが、強さが甦ってきた(!?)ドイツとの対決が決まったことで、それが大きくダウンしたという事実と向き合わざるを得なくなりました。そりゃ、気持ちが重くなるよね。だらしないけれど・・

 今日になって、多くのドイツの友人たちから電話をもらった。一様に、日本とドイツ、どちらが勝つか分からない・・本当は、日本ではなくイングランドと当たりたかった・・ってなことを言う。そりゃ、そうだ。チーム総合力では、明らかに日本の方が上だからね。

 とにかく、もう(様々な意味合いで!)失うモノがなくなったことで、完璧にリラックスして全力を出し切れるに違いないナデシコのフッ切れたサッカーに期待しましょう。

 逆に、ドイツ全土の期待を一身に担うドイツ女子代表は、ちょっと硬くなっちゃうかもね。2年前にマンハイムで体感した、人とボールが動きつづけ、それをベースにしたコンビネーションで、背後スペースを攻略していくナデシコが相手なんだから。そのときのコラムは(しつこいけれど・・)「こちら」を参照してください。

 何度も書くけれど、その試合こそが、わたしのナデシコに対する期待のバックボーンだったのですよ。ナデシコが、日本全体のアイデンティティー(誇り)になってくれるっていう期待が高まりつづける。もし負けたにしても、そこには、人々の記憶に残る素晴らしいサッカーがあった・・ってネ。

 あっと・・またまた前段が長くなってしまった。

 今日は、アウグスブルクから、試合の行われるヴォルフスブルクまで、650キロを移動しました。アメリカ対スウェーデン。ものすごく興味深いグラウンド上の現象がありました。

 ここまでの両チームは、互いに2勝して既に決勝トーナメント進出を決めている。でも、得失点差で上回るアメリカは、引き分けでもグループ一位突破が決まる。あれっ・・!? その状況って、日本対イングランドに、ちょっと似通ってないか!?

 そんなことを思いながら観はじめた一位決定マッチ。そして、そのプロセスと結果もまた、まさに日本対イングランドの再現に近いものだったのですよ。

 立ち上がりにスウェーデンがブチかました爆発プレッシング。それが落ち着きはじめ、逆にアメリカが、実力通り、徐々にゲームのイニシアチブを握りはじめただけではなく、何度か、例によってのシンプルな組織プレーをベースにしたサイド攻撃から決定機を作り出しはじめる。

 やっぱりアメリカだよな〜・・実力的には、確実に大会随一だからな〜〜・・たしかにスウェーデンも頑張っているけれど、やっぱり最後は彼女たちがグループ一位突破を決めちゃうんだろうな〜〜・・

 ゲーム展開の「流れ」を体感しながら、徐々にイニシアチブを握りはじめたアメリカの優位性が目に見えてきた・・そんなタイミングでした。一発のタテパスに抜け出したスウェーデン選手が、アメリカ守備をブッちぎり、GKと一対一になったのですよ。そのシーンでは、最後は、アメリカGKが何とか足で防いだ。でも・・

 そのビッグチャンスが、様々な意味合いで、ゲームの流れの転機になったかも。そこからスウェーデンが、ゲーム立ち上がりの「元気」を取り戻しはじめたのです。そしてアメリカのストッパーが、コンビネーションのリズム良く抜け出そうとしたスウェーデン選手を掴んでしまう。PK・・。前半16分のことです。

 それだけではなく、アメリカは、ゴール正面からのスウェーデンのフリーキックが、壁に当たってコースが変わってしまうなんていう不運にも遭遇した。もちろんGKの逆モーション。これで、スウェーデンの「2-0」ということになってしまった。前半36分のことです。

 そこからなんですよ、アメリカ対スウェーデン戦が、日本対イングランドとの勝負マッチに似通ってきたのは。追いかける方が、ゴリ押しの攻めを仕掛けるから、相手にとっては逆に守りやすくなってしまう・・という現象。まあ日本の場合は、カタチにこだわり過ぎ、リスクチャレンジの勇気にも欠けていたという要素もあるけれど・・

 要は、アメリカの攻めが、とても直線的に、前へ、前へと「行ってしまう」ようになったのです。それでは、スウェーデン守備ブロックにとっちゃ、常に自分たちの眼前でアメリカの攻めが展開されることになるから、守りやすいことこの上ない。

 良いときのアメリカは、シンプルな組織プレーのなかに常に「遊び」を入れることで、相手守備に、ボールが展開される勝負所にターゲットを絞り込ませないような「変化」を挿入していた。

 例えば・・サイドゾーンでタテパスを付け、そこで相手守備が集中してくるのを待って(タメて)スッとバックパスを返したり、「パス&ムーブ」でワンツーを機能させたりして次のスペースを攻略してしまう・・一つのサイドでボールを動かすことで、相手守備をそのサイドに寄せ、素早くテンポアップして逆サイドへ展開してしまう(いくつかのステーションを使ったサイドチェンジ!)・・などなど・・

 要は、彼らは、相手ディフェンスに「次」を予測させないような、クレバーでスマートな人とボールの動きを演出するのですよ。そこでは、タテパスばかりじゃなく、(もちろん逃げではない!)横パスやバックパスを「軽く」回したりするのです。

 そんな仕掛けの変化が、後半のアメリカチームの攻撃からは、すっかり抜け落ち、アメリカの監督さんが言っていたように、前へ、前へ・・という単調な仕掛けのリズムに陥ってしまった・・ということです。

 まあ、急がば回れ・・的な人とボールの動きこそが、相手守備を惑われるということです。だからこそ、クリエイティブなムダ走りこそが、ハイレベルな組織プレーの絶対的基盤なのですよ。

 ちょっと長くなり過ぎたかも。今日は、クルマでの移動で、とても疲れたから、こんなところで筆を置きます。

 それにしても、準々決勝で、いきなり「ブラジル対アメリカ」だぜ。もちろん私も、日本対ドイツ戦の翌日には、試合が行われるドレスデンまで馳せ参じまっせ。

 そのとき、どんな心持ちでクルマを走らせているのだろうか・・。いまから、とても興味が湧いてきますよ。あははっ・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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