トピックス
- 2012_EURO(10)・・めくるめく歓喜と奈落の落胆(心配)が交錯する自由なサッカー・・(ドイツvsギリシャ、 4-2)・・(2012年6月23日、土曜日)
- フ〜〜・・
たしかに最後は、「ロジカルな帳尻」を合わせることが出来たけれど、ラームの先制ゴールが決まるまでと、同点ゴールを決められてからの時間帯は、ホント、気が気じゃなかった。
何せ、ラームが先制ゴールをブチ込むまでに作り出ししていた多くの100%チャンスを決め切れなかった(ツキに見放されたドイツ・・)だけじゃなく、まさに、「これぞギリシャ!!」っちゅう同点カウンターゴールを奪われてしまったんだからね。
それでも、「あの」粘りディフェンスのギリシャに、一時は彼らが得意とするゲーム展開へ「持っていかれそう」になったにもかかわらず、集中を切らすことなく(強烈な意志を前面に押し出すことで!)、再び自分たちのゲームの流れに引き戻したドイツは、ホントに強い。
1990年代にどん底まで落ち込んだドイツサッカーを立て直すためにプランされた「ドイツ再生プログラム」。もう何度も書いたけれど、「それ」を主導したドイツの友人達を介して、そのプロセスを体感させてもらった筆者だから、この若いドイツ代表の活躍には、心から感動させられている。
ドイツサッカーの軌跡(光と影)については、かなり以前にプリントメディアで発表した複数の文章をまとめた「トピックス・コラム」があるから、そちらも参照してください。
あっと・・ゲーム・・
立ち上がりの2分間。ドイツは、「何となく」組織的に攻め上がろうとしていたギリシャの出鼻をくじくように「高い位置」でボールを奪いかえし、まさにヤリで突き刺すようなショートカウンターをブチかました。
一本・・二本・・
その、高い位置からの圧倒的なプレッシングと、直後の鋭いカウンターに、ギリシャは肝を冷やしたに違いない。すぐに、彼ら本来のサッカーへと戻っていった。そう、人数を掛けて固めた強化守備をベースに、蜂の一刺しのカウンターを繰り出していく「勝負サッカー」。
彼らは、「それ」で、2004年の「EURO」を制した。覚えていますか? そして今回も、「そのサッカー」で見事にグループリーグを突破した。個人的には高い能力を備えた彼らが、「あの」徹底サッカーをブチかましてくるんだからね、決して侮(あなど)れない・・
でも、そんな彼らの強力ディフェンスも、今のドイツ代表の敵じゃなかった。
もちろんドイツは、あくまでも組織コンビネーションで切り崩そうとする。3人目、4人目のフリーランニングと、完璧にイメージがシンクロした素早く正確なボールの動き(パス)が美しいコラボレーションを魅せつづける。
彼らは、本当の勝負はボールがないところで決まる・・というサッカーの本質的メカニズムを心底理解しているのですよ。サッカーの本質はパスゲームだからネ。
私も、ドイツ留学中に、そのメカニズムを叩き込まれた。
でも、あまりにも「組織プレー」のロジックが過ぎるから、逆に「個の才能」を、若いウチから「潰して」しまう傾向もあった。そう、オーバーコーチング。それが、1990年代に陥った低迷のバックボーンだった思う。
もちろん、ドイツの優れたコーチ連中は、その現象の背景をしっかりと理解していた。だからこそ、まさにターゲットを絞り込んだ「ドイツサッカー再生プログラム」を周到にプログラムできた。そして、そのプログラムを、まさに理想的に展開させられた。
いま考えれば、私がドイツで学んだことのなかで、もっとも重要だった事柄の一つが、「反面教師」というポイントだったのかもしれないと思えてくる。ドイツ留学は、異文化からの刺激も含め、これ以上ないほどの学習機会を与えてくれた。いまでも感謝している。
あっと・・またまた脱線。
とにかくドイツは、強力に「厚く」されたギリシャ守備ブロックを、何度も、素早く(ダイレクトパス)広く(サイドチェンジパス)正確な組織コンビネーションで崩し、シュートチャンスを作り出した。
そこで演出されたドイツ的な仕掛けは、まさに組織コンビネーションの饗宴と呼べるものだった。でもゴールが遠い。
2004年の「EURO」や、今回のグループリーグでのギリシャ守備の粘り強さを体感していた人々は、とても心配していたに違いない。
でもドイツは、異次元の「多彩さ」を魅せた。組織コンビネーションだけじゃなく、ショートカウンターあり、アバウトなものも含めた効果的なクロス攻撃あり(もちろん正確な高速クロスがメインだよ!)、必殺のセットプレーあり、そしてロング&ミドルシュートあり。
そして前半39分、ラームのミドルシュートが炸裂する。また、同点に追い付かれた6分後の後半16分には、オーバーラップした右サイドバックのボアテングの正確なクロスを、飛び込んできたケディーラがダイレクトで叩いた。
そのドイツの勝ち越しゴールの7分後には、フリーキックから、ミロスラフ・クローゼが、「次元の違う高さとジャンプタイミング」を魅せて放ったヘディングシュートが、見事にギリシャゴールに吸い込まれていった。
でもサ、私は、最後の4点目が、一番気に入っているんですよ。
・・忠実な守備によってタイミング良くボールを奪い返したドイツ・・すかさずカウンターを仕掛けていく・・エジルの、タテのスペースをつなぐドリブル・・
・・そして最後の瞬間、最前線のクローゼと、ドリブルするエジルの最終勝負イメージが見事に「シンクロ」した・・スパッと切れ味鋭いスルーパスが、素晴らしいタイミングでタテの決定的スペースへ飛び出したクローゼの爆発ダッシュに、ピタリと合った・・
・・完璧にフリーで、ギリシャGKと1対1になるクローゼ・・ただ、その狙いすましたシュートは、この日「当たりまくって」いたギリシャGKミハリス・シファキスが身体に当てて弾き出す・・でも、そのこぼれ球が、サポートに走り込んでいたロイスにピタリと合っちゃうんだ・・
・・そのままダイレクトボレーでギリシャゴールへブチ込むロイス・・
このシーンには、鋭いカウンター、パサーとレシーバーの勝負イメージが高い次元でシンクロしたコンビネーション、そして忠実なバックアップの動きと豪快なダイレクトボレーという、サッカーの魅力を体現する要素にあふれていたんですよ。
とにかく、ちょっと心配が募(つの)っていたからこそ喜び100倍という筆者ではありました。そう、サッカーは、めくるめく歓喜と奈落の落胆が(偶然と必然も含めて!)これでもかと交錯しづつける、限りなく「自由」なボールゲームなんですよ。あ〜、良かった・・そして堪能した・・あははっ・・
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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