湯浅健二の「J」ワンポイント


2015年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第30節(2015年10月4日、日曜日)

 

スーパーなフロンターレ(超越レベルの組織サッカー!)が戻ってきた・・(フロンターレvsガンバ、5-3)

 

レビュー
 
えも言われぬほどエキサイティングな仕掛け合いだった。

スタジアム観戦された方々は、入場料にオツリがきたと感じたに違いありません。もちろん私も、この、美しくダイナミックな勝負マッチを心から楽しんでいましたよ。

そして、はじまった監督会見。

・・勝負マッチがつづいたことで(疲労がたまっていることで!?)集中力が減退気味だった!?・・ボクは、そんな言い訳などしたくない・・我々は、クローズドなゲームを意図していた・・でも今日は、相手に襲いかかっていく迫力に欠けていたんだ・・

フムフム。

最初に会見に臨んだ長谷川健太監督が、そんなニュアンスの内容をコメントした。

そこで使われた「クローズドなゲーム」とは、激しく攻守が入れ替わる「オープンな攻め合い」とは違う、(ある意味で!)落ち着いた「組み立て合い・・」ってなゲーム展開のことだろうね。

長谷川健太監督は、フロンターレが展開する、レベルを超えた「人とボールの動き」をできるだけ抑制することで、ゲームの流れが「加速し過ぎない」ようにコントロールしたかったっちゅうことだと思いますよ。

そのことで、より効果的なボール奪取をイメージできるし(フロンターレの「動き」を抑制することで、ボール奪取の狙いをより正確に定められる!?)、そしてそこから「例の二人の天才」を活用してチャンスを作り出せる・・。

例の二人の天才・・って、言わずもがなだけれど、パトリックと宇佐美貴史のことだよ。

たしかに昨シーズンは、遠藤保仁と今野泰幸という絶対的な「重心コンビ」と、忠実に、攻守ハードワークをこなしつづける両サイドハーフ&両サイドバックが、優れた(組織サッカー的な!)連動性を魅せつづけていた。

だからこそ、前戦の「二人の天才」も、より光り輝けていた。でも・・

そう、今シーズンのガンバは、ちょっと「サッカー内容」が後退しはじめている・・なんて感じられてしまうんだよ。

もちろんリーグでも上位を占めているし、ACLでも、唯一の生き残り日本チームとして頑張っている。でも・・ネ。

どうなんだろうね・・。

私は、チームの「絶対的な重心コンビ」の仕事量が(まあ、質については申し分ないけれど・・)、微妙に減退気味になってきているのではないだろうか・・なんて思っているんだ。

まあ、そのテーマに言及するためには、もう少し深く、正確にガンバを観察する必要があるね。

あっと、ゲーム。

チト前段が長くなってしまったけれど、要は、ガンバ長谷川健太監督の(ゲーム戦術的な!)思惑が、うまく機能しなかった・・ということが言いたかったわけだ。

たしかにガンバの攻めには迫力がある。

四人のハードワーカー(両サイドハーフ&サイドバック)と絶対的な重心コンビの機能性が、「二つの天才」を、まだある程度は、うまく活用できていると思うわけだ。

ちょっと、「錆び付き」の傾向が見られるとは言っても・・だよ。

でも、この試合でのフロンターレは、例によっての、スーパー組織サッカーが炸裂しつづけた。

たしかに、全体的には「組み立てベースの仕掛け合い」だった。

でも、まったくといっていいほどスペースを攻略できず、最後は「個のゴリ押し勝負」ばかりのガンバに対して、ものすごくスマートに(素早く、広く)人と ボールを動かしながら、クールにスペースを突いてチャンスを作り出してしまうフロンターレ・・っちゅうゲームの構図なんだよ。

とにかく、チャンスの量と質という視点じゃ、とても大きな「差」があったんだよ。

そんな、フロンターレの「動きのリズム」というテーマについては、新連載「The Core Column」で発表した「このコラム」も参照してください。

そこじゃ、「あの」バルセロナとフロンターレを並列で語っちゃったぜ。へへっ。

あっと、フロンターレの組織サッカーだけれど、そのコアとも言える「人とボールの動きのリズム」を高みで維持するためのキーパーソンの一人を欠いていたことにも言及しなきゃいけない。

もちろん絶対的なチームリーダーである牛若丸(中村憲剛)は、この試合でも素晴らしいパフォーマンスを披露したよ。スーパーなミドルシュートまでブチ込んだしね。

でも、その牛若丸が演出する「動きのリズム」を最前線でサポートする「コラボレート要員」が、一人欠けちゃったというわけさ。

そう、田坂祐介。ケガらしい。

その代わりに、このゲームでは杉本健勇が先発した。

もちろん彼には、ポストプレーやドリブル突破、パワー溢れる(シュートへの!)勝負プレーや高さなど、彼なりの優れた「価値」がある。

でも、人とボールの動きのスーパーなリズム・・という視点では、田坂祐介とは比べられない。

ということで、この試合でのフロンターレは、時たま、そのハイテンポな「動きのリズム」の途切れるシーンがあったというわけだ。

それでもフロンターレの「動き」が、目立った支障をきたすほどに停滞することはなかった。それも、これも、風間八宏監督のコンセプトが、チーム内に深く浸透しているからでしょ。

彼は、ホントに優れた仕事をしていると思うよ。

ところで、その風間八宏が、フロンターレ監督に就任する前に指導していた(彼の)母校の筑波大学。

そのOBが、少なくとも3人は、レギュラークラスで頑張っている。そう、風間八宏のコンセプトを深く理解し、実践できる選手たち。谷口彰悟、車屋紳太郎、そして中野嘉大。

そのなかで、ここでは、中野嘉大に注目したい。

前回のコラムでも(確か!?)書いたと思うけれど、この試合でも、左サイドバック(スリーバックだから左のウイングバックかな・・)でゲームに入っていった中野嘉大の存在は光っていた。

特に、杉本健勇のケガ交替によって2列目に入ってからは、とても心地よいプレーを魅せてくれた。何せ、彼によって、フロンターレの「ベストに近い動きのリズム」が甦ったわけだからサ。

風間八宏監督も、そんな私の印象に、アグリーしていたよね。曰く・・

・・中野嘉大には期待している・・そのこともあって、彼が自信を持てるようなカタチで実戦に投入したかった・・

・・そしてトレーニングで観察しているなかで、徐々に自分を出せるようになってきたんだ・・特に、大久保嘉人と牛若丸(中村憲剛)が、彼のことを受け容れるようになったことが大きかった・・

・・そして、ある程度の自信ベースが出来てきたところで実戦に送り出したというわけだ・・とにかく、彼の投入プロセスについては、思惑がうまくはまったと思うよ・・

・・あの(彼の)ゴール場面だけれど、実は、最後は大久保嘉人にパスを出すかもしれないと思っていたんだよ・・でも彼は、自分で打った・・それは、願ったり叶ったりのゴールだったんだ・・

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最後に、ガンバの天才、宇佐美貴史についても、ちょっとだけ。

実を言うと、彼が「本物のブレイクスルー」のベクトルに乗れるかどうかについては、ちょっと諦めかけているんだ。

たしかに、彼に対する期待には、とても大きなモノがあった。そのことについては、これまで何度も、彼を中心テーマにしたコラムを書いてきたから、読者の皆さんはお分かりだと思う。

でも・・

結局は、インテリジェンスと意志の問題ということなんだろうね。

いまの彼の、攻守ハードワークの姿勢じゃ、まあ、使えない(実質的な貢献は望めない!)。もちろん、世界が相手の日本代表じゃ、問題外でしょ。

ホント、ちょっと落ち込むね。

このテーマについちゃ、いまの宇佐美貴史と同年代のときに「本物のブレイクスルー」を果たした中村俊輔について書いた「このコラム」もご参照アレ。

フ〜〜・・

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ところで、ワケの分からない、1.ステージ、2.ステージ・・という「興行」について。

メディアは、「1.ステージ優勝」なんていうテーマで盛り上がっている。

でも・・ね・・

皆さんもご存じのように、「J」に関わっているサッカー人は、絶対に、『年間最多勝ち点チーム』を目指さなきゃいけないんだよ。

以前の「2ステージ制」とは違い、今シーズンからの「それ」では、シーズンが終了したとき、『年間最多勝ち点チーム』が一番エライってことになるはずだからね。

その後のトーナメントは、まさに「興行」。

そして「J」の歴史には、『年間最多勝ち点チーム』と『興行チャンピオン』の両方が刻み込まれる。そうじゃなきゃ、10年、20年後に、「昔」と比べられる、同じ基準のチャンピオンがいなくなっちゃうからね。

だから、「J」に関わっているサッカー人は、そして読者の皆さんも、『年間最多勝ち点チーム』をイメージしてシーズンを楽しむっちゅうわけだ。

この「テーマ」については、新連載「The Core Column」で発表した「このコラム」も参照してください。そこじゃ、いかに2ステージ制が、世界の主流フットボールネーションが築き上げた「伝統」に逆行しているのかというディスカッションを展開しました。

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 最後に「告知」です。

 実は、ソフトバンクではじめた「連載」だけれど、事情があって、半年で休止ということになってしまったんですよ。

 でも、久しぶりの「ちゃんとした連載」だったから、とてもリキを入れて書いていた。そして、そのプロセスを、とても楽しんでいた。自分の学習機会としても、とても有意義だったしね。

 そして思ったんですよ、この「モティベーション機会」を失ってしまうのは、とても残念だな〜・・ってね。

 だから、どこかで連載をはじようかな・・と、可能性を探りはじめた。そこでは、いくつか良さそうなハナシもあったし、メルマガでもいいかな・・なんてコトも考えた。

 でも・・サ、やっぱり、書くからには、できるかぎり多くの方々に読んでもらいたいわけですよ。でも、可能性がありそうな(メルマガも含めた)連載プラットフォームとしては、やはり私のホームページにかなうモノはなかった。

 ということで、どうなるか分からないけれど、とにかく、私のホームページで、新規に、連載をはじめることにしたのです。

 一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」

 そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」

 とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書こうかな。もし、うまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れてから立ち上げた新ビジネス」、そして「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。

 ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、一週間ごとにアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。

 もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。

 まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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