湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第20節(2010年8月21日、土曜日)

 

これで、足りない「何か」を充填するベクトルに乗れたらいいんだけれど・・(BvsR, 1-4)

 

レビュー
 
 「前半のことだが、ゴール前8メートルのところから(要は決定的なカタチで)柏木陽介がシュートした・・でも、決められなかった・・そのシーンを観ながら思っていた・・これは、今日も我慢のゲームになりそうだな・・とにかく一点さえ取れれば、後がつづくに違いないのだが・・」

 試合後の記者会見でフォルカー・フィンケが、そんなニュアンスのことを言っていた。そして私は、そのコメントを聞きながら思っていた。このところ、フォルカー・フィンケに対する批判的なニュアンスのコラムを発表していることもあって、やはり、明確に書いておこう・・

 前節のコラムで、「選手のプレー(姿勢や内容)は、監督を映す鏡だ・・」と書いた。またそれ以外でも、このところの「心理マネージメント・シリーズ」の流れのなかで、監督が、勝負に(チャンスをしっかりとゴールに入れるという現象に対して!)少しでも淡泊なニュアンスを、表情・態度・言葉などで選手たちに感じさせたら、選手は、その何倍も淡泊になってしまう・・なんてことも書いた。

 要は、監督は、例えばヴァイスヴァイラーのように、そのやり方が理不尽だとしても、また選手が猛然と怒り出すくらいに「しつこい」ものだったとしても、とにかく、選手を「覚醒させるために」ものすごく極端な心理マネージメントをやらなければ(強烈な刺激を与えなければ)ならないということが言いたかったわけです。

 その「心理マネージメント・シリーズ」。ちょっと論がブツ切りだけれど、そこら辺りのメカニズムについては、第16節のレッズ対アルディージャ戦、第17節のエスパルス対アントラーズ戦、同じく、FC東京対クランパス戦ヴィッセル対レッズ戦、また第18節のグランパス対レッズ戦、そして前節、第19節のレッズ対ヴェガルタ戦のコラムを参照してください。

 必ず、皆さんのなかで、このテーマに関するディスカッションを深めていけると思いますよ。

 あっと・・選手の覚醒をうながす「極端な刺激」・・というテーマだった。

 わたしは、もちろんフォルカー・フィンケにも、選手を本当の意味で覚醒させるために、ヘネス・ヴァイスヴァイラー的な「ストロング・ハンド」を期待しています(ヴァイスヴァイラーのストロングハンドについては、前節のベガルタ戦コラムの冒頭のオハナシ部分をご参照アレ!)。

 だから、「柏木陽介のチャンスと失敗をみながら、この試合も我慢だな・・」なんていうニュアンスの彼の「ちょっとロジカルに冷めた感じの」発言に、とても不満だったわけです。なんでもっと感情を表現しないんだよよ・・なんてネ。もちろん、ロジカルにコントロールされた「感情的な表現」のことだけれど・・サ。あははっ・・

 もちろんフォルカー・フィンケは、選手に「勝負に対するこだわり」を要求しているだろうし、それなりの刺激も与えているはず(確かな情報として、このところ、かなり、そのタイプの心理マネージメントが目立っているらしい!?)。

 これまた確かな情報として・・、チームのなかでも、勝負に対する(=シュートを決めることに対する!)選手同士の指摘が(要は、言葉や態度によって互いに刺激し合っていることが)とても目立つようになってきていることも聞いているしね。でもサ・・私は、「もっと・・もっと・・」なんていう要求をしちゃうわけです。満足したら、そこで進歩は止まっちゃうわけだから・・。

 そして、この試合では、そんなチーム内の「強烈なこだわり」を醸成させるような「こだわりの雰囲気」の活性化が実を結ぶことになるわけです。そう、後半のゴールラッシュ。

 実際のゴールだけじゃありませんよ。後半立ち上がりの〇分には、右サイドの平川が、まさに『爆発フリーランニング』で味方のボールホルダーを追い越し、ウラの決定的スペースでタテパスを受けるや、すかさず、ゴール前へ決定的なグラウンダークロスを送り込むことで、絶対的なチャンスを演出しました。

 最後にポンテが放ったダイレクトシュートはゴールにならなかったけれど、そのチャンスメイクシーンを観ながら、足が止まった前半の「寸詰まりの仕掛けプロセス」とは、まったく違う雰囲気を感じたものです。

 ホントに前半のサッカーには腹が立っていた。リスクチャレンジの姿勢は、まったく感じなかったし、ベルマーレ守備ブロックの眼前ゾーンで、縮こまったコンビネーションを仕掛けるばかり。たしかに2-3本はチャンスを作り出したけれど、それも偶発だからね。決して、選手の、リスクチャレンジに対する強い意志が反映されたチャンスメイクじゃなかった。これじゃ、まさにジリ貧だ〜〜・・なんてアタマにきていた次第。でも、後半は・・

 その0分のチャンスの後にも、柏木陽介が、続けざまに素晴らしいミドルシュートを放ったり(一つは、スペースへ入り込んだダイレクトシュートだったですかネ!?)、後半から登場したセルヒオが、完璧なイメチェンの象徴とも言えそうな、強烈な意志を放散する「爆発ダイアゴナル(斜めの)フリーランニング」から、細貝との大きなワンツーを決めて決定的シュートを放ったりと、とにかく、前半のカッタルイ出来とは、見違えるサッカーに変身したのです。

 そして後半9分。コーナーキックからのセカンド攻撃で、宇賀神からのクロスを、スピラノビッチがヘッドで先制ゴールを叩き込んだというわけです。

 その後は、人とボールが動きつづける素晴らしいコンビネーションだけじゃなく、「エイヤッ!」の勝負ドリブルもタイミングよく飛び出すなど、ダイナミックな仕掛けを繰り出しつづけるレッズなのでした。まあ・・それまでのフラストレーションを霧散させてしまうかのような、ダイナミックでスマートな攻撃だったね。

 とにかく、次のアントラーズ戦が『勝負』だよね。そこで、レッズ選手たちが、このところ日常的に、相互に活性化し合っている『刺激キャッチボール』の成果が問われるというわけです。

 最後になりましたが、もちろん「トリのテーマ」は、原口元気・・ということになります。

 前節のコラムでは、彼のことをボロボロに書きました。「闘う意志をみせないのだったら(交替出場したにもかかわらず!)、数分で、グラウンドから追い出すべき!・・そうすれば、あんな原口でも、チームにとっての刺激として少しは貢献できるかもしれない・・」なんて、とても強烈なことを書いたと覚えている。

 もちろん「それ」は、私が、彼の天賦の才を心から認めているからに他ならないのですよ。わたしは、彼が何を出来るのか分かっているつもりなのです。だからこそ、心から腹が立つ。だから、言葉も選ばずにボロボロに書いた。そうでなければ、原口は、単なる「つなぎプレーヤー」で終わっちゃう。それは、サッカー的な犯罪だろう・・

 そんな原口が、残り15分というタイミングでグラウンドに登場した。もちろん、私の目が皿になった。そして次の数分間で、心からの満足感に包まれていた。もちろん、すぐに、「やっぱり出来るんじゃネ〜〜か・・出来るのに、やらないのは犯罪なんだぞッ!!」っちゅう言葉が口をついた。あははっ・・

 ホントに素晴らしいプレーを披露したじゃありませんか、原口元気。二試合つづけて素晴らしいダイナミックプレーを魅せつづけたセルヒオにも匹敵するような(いや・・部分的に、彼以上の!)夢のような才能プレーを魅せてくれた。

 惜しくもゴールは奪えなかったけれど、とにかく積極的なスーパープレーを披露した。彼が、自身の勝負ドリブルで作り出した惜しいチャンスシーンだけれど、それは、何度も、何度も、繰り返しビデオでアタマに焼き付けておくべし!! もちろん『次』のために・・ネ。

 次のアントラーズ戦。この試合でもイエローをもらったセルヒオは出場停止だそうな。でも大丈夫。レッズには、『覚醒した』原口元気がいるんだから・・。アントラーズ戦で躍動する、原口元気の素敵な勝負プレーが、今から目に浮かぶゼ〜〜・・。

 あっと、もう一つ。ベルマーレの反町監督との対話。

 「これからも、クビの皮一枚を残すようなギリギリの厳しい闘いがつづくと思うが・・そこで、もっとも重要だと思われる、心理マネージメントのキーワードを教えてくれないだろうか・・」

 負けつづけているチームとは思えないほどのハイレベルな(ポジティブな)闘う意志を魅せてくれたベルマーレだったから、そんな質問を投げかけてみた。それに対して反町監督が(もちろん長いハナシになったけれど・・)、最後に、こんな素敵なキーワードを返してくれた。

 「リスクを冒してでも、行かなければならないところは勇気をもって行くという攻撃的な姿勢は絶対に崩さない・・もちろん、そこでも、次の守備で必要になる最低のバランスは取りながら・・たしかにクラブのキャパを考えれば、大きな補強は難しいけれど、それでも(外国人も含めた)新戦力が入ったし、彼らが常に全力のパフォーマンスを魅せてくれれば、チームとしてのシナジー効果も期待できるはず・・まあ、ということで、キーワードは、ポジティブ・シンキングということになりますかね・・前回のレッズとの対戦では、まったくノーチャンスだったけれど、この試合でのサッカー内容は、かなり好転したことは確かな事実だし、そのことも、ポジティブ・シンキングのベースになりますよね・・」

 そうだね・・ポジティブ・シンキング。フォルカー・フィンケのところでも書いたけれど、とにかく監督は、チームのマインドを引っ張っていく機関車でなければならないわけだから・・。常に「極端」に心理マネージメントを振りましょう。もちろん、そんな心理マネージメントの基本的な方向性が最初から外れていたらオハナシにならないけれど、反町康治監督だったら大丈夫。こちらにも注目しよう。

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。一万部の増刷。でも店頭に並ぶのは(ネット書店に入るのは)来週になってからだそうな。スミマセン・・もう少しご辛抱を。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 



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