The Core Column


The Core Column(75)_天才という、諸刃の剣・・引退する中村俊輔への餞(はなむけ)・・(2022年10月25日、火曜日)


■天才は、「待つ」しかない・・

「そうなんだよ・・天才プレイヤーは、オレたちにゃ創りだせないからな・・」

「問題なのは、その多くが、若いときに甘やかされたことで、自分勝手なプレーに奔るヤツらが多いコトなんだ」

「それでも、たまに魅せるスーパープレーに、サボリを大目に見てしまう雰囲気もあったりする」

「そうだな〜・・ヤツらの存在は、オレたちプロコーチにとって、麻薬中毒に似たところがあるというコトなのかもしれないな・・」

「あっと・・だからこそ、ヤツらのプレー姿勢を、チームワークという視点で、ポジティブに変えていかなきゃいけないわけだが、それは、並大抵の作業じゃないコトの方が多いんだよ」

いまは亡き、ドイツが誇るレジェンドプロコーチ、ヘネス・ヴァイスヴァイラーが、わたしの眼を、のぞき込むように、そう語りかけた。

そういえば、ケルンで監督を務めていた当時のヘネスは・・

1974年、西ドイツワールドカップを制した優勝メンバーで主力を張っていた、ヴォルフガング・オヴェラートをクラブから追い出したっけ。

でも、そんなヘネスだったけれど・・

その後は、これまた西ドイツ代表で、創造性リーダーとして存在感を発揮した、ハインツ・フローエやヘルベルト・ノイマンを育てることで、ドイツサッカーに大きく貢献したよね。

そんなヘネスの、「天才とのせめぎ合いドラマ」は、尽きない。

バルセロナでは、「あの」ヨッハン・クライフとの確執から、クラブを去ることになったし、その後に渡ったアメリカでも、またスイスでも、様々な「天才との確執ストーリー」があったと聞く。

まあ、とにかく、「麻薬」には、常に、様々な「ドラマ」が付きもの(憑きもの!?)だっちゅうコトが言いたかった。

とはいっても・・

そう、そこには、我々コーチが、彼らを創りだせるわけじゃなく、「待つ」しかないという厳然たる事実も、ある。

そんなだから、一度手に入れたら、その素晴らしい才能に、目を奪われてしまう雰囲気に陥ってしまうのも、仕方ないコトかもしれない。

そして、近視眼的な感性に支配され、サッカーが究極の「組織スポーツ」であるという根源メカニズムを、忘れてしまう。

でも・・

優れた「経験」という宝物をもちあわせていることで、それを実効あるカタチで応用し、現場で活用できる優秀なプロコーチは、違う。

彼らの、心理マネージメント能力は、高い。

そんな彼らは、チームのモラルと戦術(組織サッカー)という絶対ベースを減退させることなく、その「麻薬」を、ホンモノのチームプレーのために「も」貢献させられるものなんだ。

そう・・

「麻薬」を、最高の才能に恵まれた、優れたチームプレイヤーに生まれ変わらせるんだ。

■自ら、攻守ハードワークに「も」積極的に取り組むポジティブ・パーソナリティ・・

そう、中村俊輔。

引退する彼が、様々なメディアで採りあげられ、多くの賛辞が集まるのは、どして??

もちろん、彼が、レベルを超えた、美しい「天賦の才」であることは言うまでもない。

でも、そんな彼は、誰もが嫌がる攻守ハードワークを、率先して探しまくるんだ。

そう、それこそが、ホンモノの主体性プレー。

そしてそれこそが、いまでも、日本も含めた世界中で、彼に対するレスペクトのパワーが衰えない理由なんだ。

彼は、イタリアやスコットランドといったフットボールネーションで、深く、広く、認められ、愛された天才なんだよ。

深く、広く認められる・・!?

彼の、ボール絡みの「局面プレー」の素晴らしさは、もう書くまでもないでしょ。

群を抜く、トラップ&コントロール、相手ディフェンダーのアクションを「誘う」ボールキープ、そして相手アクション(イメージング=予測)の逆を突く、美しいフェイント&カット。

そして、そこから繰り出される、相手守備ブロックを切り裂くスルーパスやドリブルシュート等など。

抜群のフリーキックも含めて、彼が魅せる、そんなボール絡みの「魔法」は、中村俊輔の代名詞のように語られるけれど・・

でも、われわれ現場にとっては・・

彼の、ボールを失ってからの守備ハードワークこそが、「驚きと敬意」のリソースなんだよ。

だからこそ彼は・・

攻守ハードワークでも全力を傾注した主体性プレーを魅せられる「希有な天才」という称号に相応しいプレイヤーとして、いつまでも、人々の記憶のなかに生きつづける。

その中村俊輔について、以前、「こんなコラム」をアップしたことがあった。

それは、これまた歴史的な天才プレイヤー、宇佐美貴史について「天才という諸刃の剣」ってなテーマで発表した「このコラム」を受けて書いた文章だった。

また、神奈川県サッカー界では知らない人がいない、組織内プロフェッショナルの(神奈川県立藤沢西高校や、わたしの母校でもある湘南高校で教諭を務められた!)清水好郎先生との対談記事も、ご参照あれ。

親しい友人の清水好郎先生は、当時の、国体のために組織された、神奈川高校選抜チームの監督も、務められた。

そのメンバーに、群を抜く「天才」、中村俊輔もいたっちゅうわけだ。

そこでの、(清水先生が)かなり苦労したエピソードが、面白いゼ・・へへっ。

あっと・・

そういえば、天才、宇佐美貴史について、彼の「本物のブレイク・スルー」を期待して、こんな「コラム」を、彼がバイエルン・ミュンヘンへ移籍した2011年当時にアップしたことがあった。

ドイツ女子W杯で、澤穂希ナデシコがワールドチャンピオンに輝いた年だ。

そのコラムは、帰国する日にフランクフルト空港に近いマインツの、ライン川沿いのレストランで書いた。

いま読み返し、われわれ現場に課されている、「天才を、正しいベクトルに乗せる心理マネージメント」というのは、依然として重要テーマだって実感させられる。

■そりゃ、ディエゴ・マラドーナ級の「世紀の大天才」だったら・・

「天賦の才」プレイヤーの多くが、攻守ハードワークに、積極的じゃない・・という事実。

だからこそ、ヘネス・ヴァイスヴァイラーとか、リヌス・ミケルスといった、世紀のスーパーコーチたちは、口を酸っぱくして、若いコーチ連中に迫るんだ(当時はわたしも若かったんだよ!!・・へへっ)。

「天才を走らせるコト」こそが、オマエたちの、もっとも重要なタスクの一つなんだぞ〜〜ってネ。

もちろん、時代は進んでいる。

いまでは、普通レベルの「天才」連中も、しっかりと走って闘うようになっている。

それは、全体的なサッカーレベルが、どんどん高揚しているからに他ならない。

そう、ライバル争いが、リーグのレベルが上がれば上がるほど、激烈になっていくんだよ。

だから、あの当時のような、ディエゴ・マラドーナを絶対コアにしたチーム戦術なんてモノは、もうまったくといっていいほど、見掛けなくなった。

まあ、もう、二度と、ディエゴ・マラドーナという「サッカー的な現象」には、お目に掛かれないんだろうな。

とはいっても・・

そう、まだまだ、「マイナー」な、天才をめぐる課題や問題は目白押しなんだよ。

だからこそ、監督コーチには、確立した「心理マネージメント能力」も求められるっちゅうわけだ。

ドイツでは、それを、「フィンガー・シュピッツェン・ゲフュール」って呼ぶ。

微妙な、指先のフィーリング・・ね。

■そして、森保一ジャパン・・

もう、カタールW杯の開幕が、一ヶ月ほど先に迫っている。

そんななか、わたしは、森保一ジャパンも、順調に仕上がっていると感じている。

順調・・!?

わたしにとって、そう形容する、もっとも大事なバックボーンが、攻守ハードワークとリスクチャレンジの内実というファクターなんだ。

換言したら、選手たちの「意識と意志ポテンシャル」の高まり・・とも言えるかな。

そのテーマについては・・

吉田麻也の「覚悟」ってなタイトルで書いた「このコラム」

また、覚醒いちじるしい久保建英について書いた「このコラム」

また、親善試合の「アメリカ戦」「エクアドル戦」のコラムも、ご参照ください。

そこじゃ、もっとも心配している(た!?)鎌田大地についても、(ハッピーな心理で!?)ポジティブニュアンスで表現したつもりです。

とにかく、森保一の、心理マネージャーとしての「ストロング・ハンド」に対する期待は、まさに天井知らずってなレベルまで高まっているんですよ。

■ということで、言いたかったこと・・

それは、森保一ジャパンが擁する「天才」連中から、ネガティブな「諸刃の剣ファクター」が、どんどん払拭されつつあるっちゅうコトでした。

もちろん、彼らの「天才プレー」のポジティブ価値を、殺ぐことなく・・ね。

その「流れ」では、何らかのカタチで、中村俊輔も(また長谷部誠も!?)、間接的に貢献している!?

いいね〜・・

とにかく、ガンバレ〜、森保一ジャパン〜〜!!

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「The Core Column」の全リストは、「こちら」です。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 





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